いつだって着ていたい、FRECKLEの“日常着”
俳句と暮らす vol.13
「春服」を探しに、柳ヶ瀬へ
すっかり暖かくなりました。
春服一枚で気持ちの良いお出かけを楽しみたい、そんな過ごしやすい季節です。
「春服」は、春の季語。
でも「はるふく」ではなく「しゅんぷく」と読みます。
読み方が変わるだけで、だいぶ印象が変わる言葉だなあと、いつも俳句をつくりながら思います。
今日訪ねるのは、オリジナルウエアブランド「FRECKLE」。
この春実店舗を移転オープン。愛知県一宮市から、岐阜市の柳ヶ瀬商店街にお引越ししたばかりです。
白を基調にしたシンプルな店内。
服はすべてオリジナルウエアで、その服に合う靴や小物もセレクトされ、並んでいます。
シンプルで飽きのこない、スタンダードなデザインながら、一着でコーディネートが決まるシルエットの確かさ、軽やかで動きやすい着心地の良さ、細部に宿るさりげない可愛らしさがとても気に入っていて、もう何年も愛用しているブランドです。
いちばん気に入っているデザインのワンピースは、生地違いで3着持っていて、シャツも生地違いで2着、それ以外にもサロペットやコート、スカートにパンツ、ジャケット…と、クローゼットをざっと数えただけでFRECKLEの服が15着もありました。
これらは数年かけてじわじわと増えてきたもの。
もう5〜6年、毎シーズン必ず着ているものもあります。
着心地が良くて、たくさん洗っても生地が負けることがなく、むしろ着るたびに生地の味わいが深みを増していく、FRECKLEの服。
クローゼットを開けると、ついいつも同じ服ばかり手にとってしまいます。
繊維のまち・一宮&岐阜から
2008年、繊維のまちとして知られる愛知県一宮市で「FRECKLE」は生まれました。
パタンナー・デザイナーの小野信行さんと、店舗に立って主に販売を担当する中村若奈さんが、二人で協力してつくっているブランドです。
FRECKLEがアトリエを置く愛知県一宮市と、実店舗がある岐阜県岐阜市は、どちらも繊維産業が盛んな地域。
最盛期と比べると激減しているとはいえ、歴史のある工場や腕の良い職人さんがたくさんいる地域ということには変わりありません。
そんな土地で、腕の良い職人さんたちと一緒に、服をつくり続けているFRECKLEの二人。
でも、よくよく話を聞いていくと、FRECKLEの服づくりは、一般的な服づくりとはちょっと違っていることがわかりました。
職人さんと「一緒につくる」服を
繊維産業の最盛期からずっと、この地域に限らず縫製業は分業制で成り立ってきました。
関わる業者数は想像以上に多く、生地業者に裁断屋さん、穴かがり屋さん、パーツを作ってくれる内職さんに、それを組み立てて縫う縫製工場、さらにボタンホールなどの加工をする職人さんに、仕上げのプレスと、一着の服をつくるのにいくつもの職人さんの手が必要です。
それぞれの職人さんが高い専門性を発揮し、プロフェッショナルな仕事をしてくれるため、高いクオリティで服をつくることができるのは分業制の最大のメリットです。
そんないくつもの工場を束ねてくれるのが、通称「振り屋さん」。アパレルメーカーと職人をつなぐ、営業マン 兼 生産管理司令塔というような存在です。
振り屋さんを通すことで効率良く量産する仕組みが、繊維産業の最盛期から今もずっと続いています。
ただ、効率が良いかわりに中間マージンも大きく、この仕組みが原価を圧迫するばかりではなく、職人さんに適正な対価が届かないのも事実。
さらに、デザイナーと職人さんが直接話す機会がなく、デザイナーの想いや意図が伝わりづらいケースも中にはあるそうです。
そんな仕組みに疑問を感じていたこともあり、FRECKLEは創業当時から「振り屋さん」経由ではなく、すべての工程において職人さんのところへ直接出向いて、丁寧に一着ずつ、服をつくっています。
職人さんのところへ何度も通って想いを伝え、価格や納期を交渉しつつ、互いに無理のない形を探りながら、「納得のいくものづくり」を見つけていきました。
「はじめは何もわからなくて、職人さんにいろいろ教えてもらいながら模索していました」と当時を振り返る中村さん。今では良好な関係でものづくりができる協力工場が、県内外に増えたといいます。
Tシャツをつくるだけでも、工場1社では完成できません。
通常、4〜6つほどの工場を経て一着の服が完成します。
量産時に職人さんの負担が少なく、かつ丈夫で、着心地の良いシルエットに仕上がるよう、試作をつくり込みながら、細部まで何度も調整を重ねます。
「現場の職人さんと、一緒にものづくりがしたい」
「自分たちが本当に納得できるものを、手の届く価格で届けたい」
「高いクオリティに見合った、適正な価格を職人さんに支払いたい」
今でこそ「エシカルファッション」や「フェアトレード」といった言葉がファッション業界でも唱えられるようになりましたが、FRECKLEは14年前の創業当時から、未来につながるものづくりを続けてきたブランドなんだと、話を聞いて確信しました。
爽やかな春の日にぴったりなワンピース
そんなお話を聞きつつ、私も取材モードから徐々にお買いものモードへ(笑)。
SNSなどでもチェックしていて、今季気になっていたのがこのワンピースです。
こちらは「paper cotton one piece」。
和紙と綿の撚糸を使った、ダンガリーのワンピースです。
縦糸が色糸、横が未晒糸。
白糸とネイビーが霜降りのように混ざり合う、立体感のあるブルーグレーのような色あいがとても爽やかでいて、落ち着きもあります。
和紙の撚糸を使った生地は、ぎゅっと詰まったしっかりめの生地に見えますが、着てみると、印象よりもかなり軽め。
紙由来の独特のハリやコシがある表情ながら、リネンにも似た雰囲気で、とても涼やかです。
程よいワッシャー加工のおかげで、くしゃっとした質感でラフに着こなせます。
全体のシルエットは、贅沢に生地を使った、ふんわりとしたボリューム感。
フロントにはたっぷり折り畳んだタック、後ろにはさりげないボックスプリーツが入っています。
上半身はすっきりキレイな印象。腰から裾にかけてはふわっと自然なふくらみと、タックやプリーツによってナチュラルなドレープが出るので、ボリューミーながら可愛いシルエットが楽しめます。
首元、上品な光沢のある4つのボタンが、さりげないポイントになってくれて、視線がグッと上がります。
そしてさらに、たまらなくかわいいのが、袖。
ゆったりとしたラグランスリーブで、袖口にかけてどんどん細くなっています。
袖口をきゅっと少し折り上げるだけで、抜け感のある印象になります。
袖下から脇の縫製は、折り伏せ縫いという丈夫な縫製を採用。
ポケットの口周りは、綿リボンで補強した、高度で手間のかかる縫製技術です。
こうした細かなこだわりが、着心地の良さや服の印象を左右するんですね。
FRECKLEのオリジナルテキスタイルも
ほかにも、お気に入りのシリーズがたくさん。
こちらは「original cotton twill overall」。
糸を綛染(かせぞめ)し、織り方にもこだわりを詰め込んだ、FRECKLEのオリジナルテキスタイル。
着れば着るほどに肌になじみ、どんどん良い風合いになっていく"つなぎ”のようなオーバーオールです。
このかたちの違う生地のオーバーオールを、妊娠中に特に愛用していました。
妊娠8ヶ月くらいまで着ることができて、体型が大きく変わる時期でも、おしゃれを楽しめてとても嬉しかった記憶があります。
こちらは、尾州で織って、岐阜で縫製したという、FRECKLEのオリジナルテキスタイルのワンピース(現在は完売)。
何年も着こなしたような絶妙な青と白の、表情のあるストライプが印象的。
柔らかくて薄手の生地ながら独特のコシがあり、羽織りにも活躍してくれるシャツワンピースです。
毎日着ていたい「お気に入り」の日常着
FRECKLEのラインナップは、シンプルで何年も着続けられるような定番の形が多く、同シリーズの生地違いで、新アイテムが出たりします。
生地感の違いよる服の表情の違いを楽しめるのも、おもしろいところ。
私も、気に入ったワンピースは生地違いでいくつか持っていますが、すべて同じ型で生地だけ変えてつくられているかと思いきや、生地ごとにパターンや縫製方法を微調整して「その生地の良さが活きる、生地にいちばん似合う縫い方」で仕立てているとあとから聞いてびっくりしました。
生地の表情を主役にしたシンプルなものづくりだからこそ、そうした細かなこだわりが、着心地の良さに直結するんだなあと実感しました。
FRECKLEの服は、自分を「いつもよりちょっと好きな自分」にしてくれます。
シンプルなワンピースを一枚着ただけで、鏡を見るのがほんの少しだけ楽しみになる、そんな存在です。
忙しい朝に「もう、これでいいや」と適当に決める“普段着”ではなく、「今日もこれが着たい!」とワクワクして手にとる“日常着”。
気負わないスタイルなのに、だからこそ自分のことが好きになれる、“毎日着れちゃうおしゃれ着”とも紙一重だと思います。
防寒ばかりに気を取られていた冬が終わり、春になり、心も服も軽く、おしゃれが楽しくなる季節。
身につけるものひとつ、感じかたひとつで、その日の気分は大きく変わります。
「この服を着てる自分が好きだなあ」と思って選ぶのも、「春が来たなあ」と感じて袖を通すのも、その日の気分を上げてくれるきっかけだと、私は思います。
暮らしの一句
ポケットの中ひんやりと春の服 麻衣子