「子どもたちに多様性を伝える本屋を 〜地域に根ざしたコミュニティの場Reading Mug」 子どもとアートと vol.04
ターコイズブルーにペイントされた外観、ヨーロッパを思わせるおしゃれな看板…
突如、昔ながらの商店街の一角に現れた、目を引く空間。窓に並ぶかわいいカードには、ロンドンのモチーフが。
ここは名古屋のはずなのに、イギリスに旅行に来たみたい!?
今回ご紹介するのは「多様性を伝えるセレクト本屋」というコンセプトで2021年10月に名東区に新たにオープンしたReading Mug(リーディングマグ)さん。
名古屋市の商店街地域活性化事業にも採択されている新しい本屋さんです。
こちらのお店のオーナーは、キムラナオミさん。20年以上、名古屋を拠点にグラフィックデザイナーをされていらっしゃいます。
プライベートでは、大学生のお子さん2人のお母さん。クリエイティブ業界でずっと働きながら、子育てもされてきた先輩でもあります。
町の本屋さんがどんどん閉店をし、本離れも叫ばれて久しい中、どうしていま新たに、本屋さんを?そしてどんなふうに子育てをされてきたの?
聞いてみたいことが、いろいろありすぎる…!
まずはキムラさんに、この本屋さんをつくるにあたっての想いを伺いました。
子どもや大人が集うコミュニティになる本屋さんをつくりたかった
キムラ:もともと洋書や本屋が好きで、イラストやデザイン、雑貨を学んでグラフィックデザイナーになり、書籍デザインなども手がけていました。
イギリスにも書店巡りでよく旅行したり、ホームステイで滞在したりしたのですが、そこで地域のコミュニティの場としての本屋さんに魅力を感じるようになりました。
本が好きな人って、本に囲まれた中で本を選びたい、という心理があるかなと思います。
ただ、大手書店だと、あまりにたくさんの情報がありすぎて、うまく選びきれなかったり、自分があまり見たくないなと思う内容の本も、売れているからと目に入ってきたりもします。
一方、オンラインストアでは、これというピンポイントの本しか選ぶことができません。
大手書店やオンラインストアにはない良さって何だろう…
そう考えたときに、自分が「これがいい」と思う本だけを並べて、本との偶然の出会いを楽しんでもらえる場があるといいなと思いました。
また、Reading Mugがある西山学区には、約1300人くらいの児童数を誇る全国的にも大きな規模の小学校があります。さらに高校や大学もありますし、そうした異なる世代の子どもたちや様々な大人達が集う、コミュニティとなるような本屋さんをつくりたいと思いました。
——そういうコンセプトが生まれたのって、やっぱりご自身が子育てしてきた経験が大きいですか?
キムラ:自分が親として伝えることって、子どもが大学生になった今でもたくさんあるのですが、そうじゃないところから得るものも大切にしてほしいなと。
たとえば旅行先で出会ったこととか、学校や地元コミュニティでの経験とか。親や家庭以外の人や場所から知ったことのほうが、子どもたちにとってすごく印象に残る、価値のあるものなんじゃないのかなあという想いもあって…
だから、Reading Mugでは言語や文化はもちろん、人権や政治・環境についてなど、すべて含めて『多様性』という大きなくくりで表現していますが、いろいろなテーマについて考えるきっかけになるような本をご紹介していきたいです。また、読書会やイベントなどを定期的に開催して、地域の人たちと交流できるような場にしたいと考えています。
国や人種、思想を超えた多様な本が並ぶ店内
——Reading Mugではどのような本をラインナップしているのでしょうか?
キムラ:古書と新刊、両方を取り扱うようにしています。イギリスで買い付けたり取り寄せたりした洋書や、私が仕事で手掛けたものを含め、日本語の書籍もあります。
和洋の翻訳児童書や絵本、LGBTQを取り扱ったもの、料理本、植物や詩をテーマにしたもの。ちょっと変わったところでは猫のコーナーもありますよ。
また、同じ書籍でも、日本語と英語で読み比べてもらえるよう両方の本を隣同士で置いてご紹介していたりします。
ぐるりと店内を見せていただいたところ、エリック・サティの詩集を発見!(私、サティが大好きなのです…)
ちなみに最終的に購入したのは、この2冊でした。
洋書絵本も気になるものがいろいろあったので、今度は子どもも連れてきて一緒に本を選びたいと思いました。
本屋さんで、子育てについても聞いてみた
――ちなみにキムラさんはご出産直後まで働いて、ほぼ1カ月後には復職されたと伺いました。どんなふうに働きながら子育てをされてこられたのでしょうか?
キムラ:上の子が1歳くらいまで、自宅で面倒をみながら仕事できるかなと産む前までは思っていたんですが、実際のところ動き回るし目が話せないしで、とてもじゃないけど仕事ができない(苦笑)。授乳もしないといけないから毎日フラフラで、10ヶ月の頃には名古屋市立の保育園に入園させました。
ただ、当時は保育園でも「布団バッグは手作りしないといけない」とか「オムツの処分も全部持ち帰りで」とか、いろいろ親のやらなきゃいけないことが多くって…
今でこそ100均やコンビニで雑巾が買えますし、手作り品を販売している人から買えたりするのですが、当時は「どうしよう」という感じでした。
私は裁縫が苦手だったし、ミシンも持っていないし、仕事が終わってから、手縫いで布団バッグを縫うのに、夜中の2時3時とかまでかかってやったりしていました。
――当時デザイン業界は、締切があると土日もほぼ関係なく仕事をしていたとよく聞きます。共働きやリモートワークが増えてきた現在よりもずっと、そのご苦労は並大抵ではなかったんでしょうね。
キムラ:最初の保育園の次に転園したのがすごく良い保育園で、何とか子育てと仕事を両立させることができました。
上の息子はその頃の先生たちのことが今でも大好きで、大学では幼児教育について学んでいます。保育や福祉にも興味があるので、小学校教諭も視野に入れながら、いろいろ進路を考えているようです。
――親以外の大人との接点って、子育てにおいて本当に大事ですよね…!お忙しい中いろいろお聞かせいただきありがとうございました!
今までキムラさんが経験してきたこと… デザインのお仕事や、イギリスを含む海外での経験、子育てをしている中での気づきなど、すべてを含めたものが、本屋さんという形になった。そしてそれが「誰しもが集える場所」になったんだなあと感じました。なんだかこの空間に身を置くだけで、キムラさんの温かな想いに、包まれているような気持ちになります。
これはやっぱり、大手書店やオンラインストアでは感じられない経験です。
ちなみにお店のロゴデザインは、グラフィックデザイナーであるキムラさんご自身でディレクションされています。猫ちゃんがかわいい!
ネットが普及した今だからこそ「リアルな場」に価値が生まれる
これだけネットが普及した今だからこそ、Reading Mugさん「のような『リアルな場』に価値が生まれてくるような気がします。
コロナ禍においても、実際に人と会って話したり、自分の目で感じて、触って、体験することの大切さを再認識された方が多いのではないでしょうか?
そして子どもたちには、家庭や学校以外での、ロールモデルとなるような大人や、多様な本との出会いの機会を与えてあげたいと思います。素敵な将来像を今から思い浮かべてもらうためにも、なるべくたくさん、経験させてあげたいですよね…!
また、Reading Mugさんの店内には『粉粉』という、グルテンフリーのお菓子を扱うお店が併設されています。本屋のギャラリースペースでは季節によって、さまざまな展示などが今後も開催されていく予定とのことです。
さらにReading Mugさんの道路の向かいには『ニシヤマナガヤ』さんという、同じく商店街の地域活性化事業で2019年にオープンしたスペースが。こちらにはコーヒーショップやお花屋さんなどもあります。
ちょっと家族以外の人とお話したくなったら、お店のオーナーさんと少し言葉を交わすだけでも、いい気分転換になったりもします。
そんなときは、Reading Mugでキムラさんとお話しながら、本選びをしてみることをおすすめします。気になった本とおやつを買って、商店街を少しお散歩しながらゆっくり帰る…オフの日の選択肢の1つに、ぜひいかがでしょうか?