「冬至の川たゆたう、こよみのよぶね」 俳句と暮らす vol.04
今年の冬至は、12月22日。
冬至とは、一年でもっとも夜が長い日です。
岐阜の長良川では毎年この日に「こよみのよぶね」という行事があります。
冬至の日、1から12の数字と、その年の干支のかたちをした巨大な行灯が、やさしい光を灯して長良川に浮かびます。
「こよみのよぶね」とは
鵜飼や天然鮎で知られる、岐阜・長良川。
長良川流域では、1300年以上続く美濃和紙をはじめ、岐阜提灯や和傘など、川文化に育まれた工芸や産業が栄えてきました。
この伝統文化を背景に、2006年に生まれたのが「こよみのよぶね」。
美濃和紙と竹でつくった提灯のような巨大なあかりを鵜飼観覧船に乗せて、冬至の夜の長良川をゆらりゆらりと進んでいきます。
寒さの厳しい冬の夜の川辺ですが、澄み切った空気と清々しい川の匂いに、心がしゃきっと整います。
1月船から順に流れてくる船を一艘ずつ眺めながら、「今年はどんな一年だったかな」「2月にはどんなことがあったっけ」「来年はどんな年になるかなあ」と、それぞれの月に思いをはせる、そんなひとときです。
2006年にスタートし、今年で16回目
岐阜の冬の風物詩「こよみのよぶね」の公式サイトには、こんな一文があります。
「あなたの過ごした12ヶ月は、どんな毎日でしたか?」
この行事が始まったのは2006年、岐阜市出身のアーティスト日比野克彦さんの発案がきっかけでした。
ダンボールを使った独創的なアート作品で知られ、今や国内外で活躍する日比野さん。
2006年に岐阜県美術館で開催された大規模な展覧会「HIBINO DNA AND…」をきっかけに、こよみのよぶねはスタートしました。
「長良川って、僕ら岐阜で育った人間にとってはアイデンティティの一部というか、心の拠りどころになってる気がする。
夏の長良川には鵜飼がある。でも冬って何もなかったんだよね。だったら冬の長良川に、みんなが集まる何かをみんなでつくろうと思って」(日比野克彦さん)
みんなでつくる、みんながつくる
1月から12月の数字と干支の行灯は、市民グループがそれぞれ担当し、デザインを描くところから行灯を完成させるところまで、チームで協力しながら数か月かけて制作します。
今年も、幼稚園児から特別支援学校、短大生チーム、社会人などさまざまな地域から手を挙げた12+1のチームで制作。
毎年、それぞれの制作チームの特色が出るデザインの行灯が出そろいます。
こちらは、岐阜市内の幼稚園で行われた和紙の色塗り。
今年一年を振り返って書く「こよみっけ!!」にも参加です。
子どもたちが塗ってくれた色鮮やかな和紙は、数字行灯の制作に使われます。
夕刻からはじまる、こよみのよぶね
▶︎16:00〜17:30 冬至迎え(点灯式)
刻々と変わっていく黄昏を背景に、こよみのよぶねが始まります。
冬の儚い夕焼けから光をもらうように、また冬至の長い夜のはじまりを尊ぶように、行灯に光を灯す幻想的な点灯式です。
こちらでは、日比野克彦さんによるこよみのよぶねについての解説も行われます。
▶︎17:30〜18:00頃 出航
屋形船の船頭さんが船に乗り込み、いよいよ出航。
干支船を先頭に、1月から12月までの船が出発していきます。
夜がどんどん更けていくなか、川面に身を委ねるように、ゆっくりと進んでいきます。
▶︎18:00〜20:00頃 時の流れ
長良川を進んでいく、行灯を乗せた屋形船。
まるで光の道を生むように、ゆっくりゆっくりと進んでいきます。
あたりはすっかり暗くなり、大きな数字が川に浮かんでいるようにも見えてきます。
巫女さんの後ろ姿が見えますが、こちらは「こよみっけ渡しの儀式」。
長良川右岸プロムナードの「鵜匠の家 すぎやま」のあたりに一艘ずつ接岸して、巫女さんが「こよみっけ!!」の和紙を渡します。
「こよみっけ!!」とは、今年12ヶ月を振り返って、月ごとに和紙に思い出を書くもの。
こよみのよぶね当日、月ごとに各月の船へ乗せられます。
▶︎20:00頃 総がらみ
こよみのよぶねを締めくくるのは「総がらみ」。
1月から12月のこよみのよぶねがずらりと並び、静かな川面に数字が映ります。
闇に包まれた金華山と岐阜城を背にして一堂に並ぶこよみのよぶねは、とても幻想的です。
▶︎20:30 楽日初日
役割を終えた船は、1月から順に岸に戻ります。
流れついたらそのまま、竹から和紙をはがして豪快に解体します。
せっかく作った行灯を、もう解体してしまうのかと寂しい気持ちは隠せませんが、当日中に跡形もなく骨組みの姿に戻るのが、こよみのよぶねの決まり。
でもこれはきっと、2022年へと向かっていくスタートライン。
過ぎゆく時を惜しみながら、次の光を見つけていく、「終わりは始まり」というメッセージかもしれません。
こうして、こよみは立ち止まることなく巡っていくのですね。
ちなみに、解体した行灯のかけらたちと、たくさんの人たちの想いを綴った「こよみっけ!!」は、年明けの小正月に長良天神神社で行われる「左義長」で焼かれます。
こうして燃やすことで、その思いを炎とともに見送り、こよみのよぶねは幕を閉じます。
2019年のこよみのよぶねを、動画でもご覧いただけます。
こよみのよぶね 2019 ダイジェスト Long ver.
「とうほくのこよみのよぶね」
当日は「とうほくのこよみのよぶね」の、3.11の行灯の展示もあります。
2011年3月11日の東日本大震災以降、東北の海に鎮魂の想いを捧げたいと始まった行事で、東北各地で3.11の行灯を灯してきたそうです。
今年も「鵜匠の家 すぎ山」さんの前で展示があります。
ぜひこの3.11の灯を見ながら、東北の海に想いを馳せるひとときも過ごしてもらえたら嬉しいです。
こよみのよぶね、どこで楽しむ?
ずらりと並ぶこよみのよぶねを正面から観覧するなら、長良川右岸プロムナード(川の北側)がおすすめです。
ただ、こよみのよぶねが出航し、最後に戻ってくるのは「鵜飼観覧船のりば」の周辺(左岸・川の南側)。
船や行灯を身近で見たい人や、点灯の瞬間を見たい人、出航前の日比野克彦さんの解説を聞いてみたいという人は、この鵜飼観覧船のりば側で観覧するのがおすすめです。
例年、点灯式を見てから歩いて右岸に向かう方も多いそうです。
鵜飼観覧船のりば周辺では、16:00〜16:30頃に点灯式が行われ、その後17:00〜17:30頃から船が順次出ていきます。
また、船が戻ってきてから行灯を解体するのも鵜飼観覧船のりば側です。
右岸プロムナード沿い一帯で、こよみのよぶねを観ることができますが、「鵜匠の家 すぎ山」さんの前あたりでは、巫女さんによる「こよみっけ渡し」や、3.11行灯の展示、日比野克彦さんによる解説も行われますので、この周辺で観覧するのも良いと思います。
右岸側、少し歩くと旧木材倉庫を活用した「&n(アンドン)」もあります。
こちらに立ち寄るのもおすすめです。
冬至はきっと、「はじまりの日」
昼がもっとも短い、冬至。
「一陽来復(いちようらいふく)」とも言われ、古来から「冬至を境に、太陽の力が復活し、どんどんみなぎっていく」と伝えられています。
この日をピークに少しずつ昼が長くなり、だんだん春へ向かっていくという、太陽の「はじまり」の日でもあるような気がしています。
また、「一陽来復」は「好転していく」というような意味でも使われます。
一年でもっとも暗い日ということは、見方を変えると「ここからはどんどん昼が長くなっていくばかり」ということ。
そんな光の兆しに満ちた日なのかもしれません。
あたらしい風物詩を、伝統の一歩目を
そんな冬至に、岐阜で続いてきた行事、こよみのよぶね。
私はこれは単なるアートイベントではなく、お正月や節句、七夕やお彼岸などと同じ「年中行事」だと思っています。
もちろん、お節句のような歴史ある年中行事と比べると、まだ16年と日は浅いかもしれませんが、こよみのよぶねがこれから100年、1000年と続いていくことを願って、毎年微力ながら応援しています。
そもそも祭りも、地域の人たちが協力して受け継ぎながら、ときにアップデートしながら続けてきたことで、それが「伝統」になりました。
きっと、私たちの世代から伝統の一歩目を踏み出し、いつか当たり前になるような年中行事を「つくる」こともできると信じています。
行灯づくりのボランティアは誰でも参加できるので、息子たちがもう少し大きくなったら家族で参加してみたいなと思っています。
「あなたの過ごした12ヶ月は、どんな毎日でしたか」。
冬至は12ヶ月を辿りながら振り返る、今年はそんな日にしてみませんか。
冬至に今年一年を憶(おも)う、その瞳の先に、長良川とこよみのよぶねがあったら嬉しいです。
暮らしの一句
毎日を憶(おも)うよぶねに冬至の灯 麻衣子
【季語解説】冬至(冬)
二十四節気のひとつ。一年で最も昼が短く、夜が長い日。
南瓜や冬至粥、こんにゃくを食べて、柚子湯に入る習慣が知られています。
季語は簡単に作れるものではありませんが、いつか「こよみのよぶね」が季語になる日を信じて。
これからも、ずっと続いていく行事であってほしいです。
こよみのよぶね 2021
開催日:2021年12月22日(水)冬至
会場:長良川右岸プロムナード一帯
時間:16:00~21:30(点灯は16:00〜17:30頃)
公式サイト:http://www.koyominoyobune.org/
※こよみのよぶねでは協賛募金をお願いしています。銀行振込と、当日の募金箱への協賛募金があります。詳しくは公式サイトをご確認ください。