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「二十四節気でめくるカレンダー」  俳句と暮らす vol.06


2月のはじめ、節分の頃になると、天気予報士さんがよく「暦のうえでは春ですが…」という言葉を発します。
この言葉の中にはおそらく「立春を迎えたとはいえ、まだまだ寒い日が続いていて、春って感じじゃないですね」みたいな意味を含んでいると思うのですが、実はいつも、この「暦の上では」という表現に違和感をおぼえてしまう私がいます。

2月4日頃というと、まだしっかり寒いころ。
確かに、一般的な「春」の温暖なイメージとは離れているかもしれません。

でも、季節というのは「この日からこの日までが春です!」と期間が厳格に決められているようなものではなく、ピークに向かってなだらかに移り変わっていく、グラデーションがあると思っています。

厳しい寒さのなかに、ほんの少しの春のかけらが兆しはじめるのが、立春。
そのかすかな兆しから、ゆったりと春のピークへと向かっていく、そんな“峠”のような文化です。

なので、「暦のうえでは春です(がまだ寒いですよねえ、まったく…)」というよりも、「さあ、立春を迎えました。寒さのなかに、春の兆しを感じてみましょう」というニュアンスの方が近いような、そんな気がしています。


ほんの少しだけ、季節を先取りするような感覚


2月のはじめに春の光を感じ、
5月のはじめに夏の匂いを感じ、
8月のはじめに秋の風を感じ、
11月のはじめに冬の気配を感じる。

そんなふうに季節を捉えるようになったのは、俳句をはじめてからです。

季語を知り、俳句をつくっていくというのは、季節の移り変わりを敏感に感じ取りながら暮らしていくことなんだなあと、つくづく思います。

周囲が「桜が散って、やっと春らしい日が続くようになってきたね」と口を揃えるゴールデンウィークごろ、私や、私の周りの俳句仲間たちはもう夏のはじまりを感じています(なんだか、得した気分です)。

ちなみに今年の立夏は、5月5日です。


季節を先取りする、二十四節気カレンダー


2022年、令和4年を迎えました。
新しい2022年版のカレンダーの準備はもうお済みですか。
「カレンダーはスマホで見る」「予定はスマホに入力するから…」と、カレンダーと縁遠くなってしまった人も多いかと思います。
でも、そんな人にこそおすすめしたい、“季節を感じるためのカレンダー”のお話をさせてください。

こちら、句具の「二十四節気カレンダー」です。


立春にはじまり、次は雨水にめくる


“句と暮らす、道具”をコンセプトにした「句具」。
俳句のための文具ブランドで、俳句を書くためのノートや季語のポストカード、俳句を飾るカンバスなどをつくっています。

句具が考えるカレンダーは、予定が書き込める便利なカレンダーではありません。
めくって、眺めて、二十四節気を感じるカレンダー。
季節の移り変わりを、グラフィックで楽しむ、日本の四季のための暦です。

「カレンダーは毎月一日にめくるもの」という概念ごとひっくり返し、立春の二月四日からはじまります。

縦に切り取って季節を先取りする


季節や季語からインスピレーションを受けた、アートのようなイラストレーションが、全12枚。
めくっていくことで、絵が変わっていくのも、このカレンダーの特徴です。

立春の15日間が終わったら、次は「雨水」。

縦にキリトリ線が入っているので、ぴりぴりと切り取って、左半分だけ切り離すことができます。

「立春」の左半分だけ切り取ると、こんな感じ。

右側の「雨水」がはじまるときには、その次の節気である「啓蟄」が、顔を出します。

さらに、5月。
夏を迎えた「立夏」はこんな爽やかなグラフィック。

こちらも、立夏の16日間を過ぎて「小満」を迎えたところで、縦にピリピリ…

すると、次の「芒種」のイラストが少しのぞき、絵の一部につながりが生まれます。
すべてのページで、モチーフや線、図形などがかすかに繋がっているデザイン。
まさに現実の季節の移り変わりのように、ゆるやかに少しずつ変わっていく様子をイラストにしました。

春から夏へ、など、季節が変わるタイミングには、左右で違う色になります。

春から夏への移り変わり。
春の終わりを惜しみ、夏の兆しを尊ぶ、そのこころを色とイラストと、季語で表現しています。

こちらは、夏から秋への移り変わり。

秋はもう、すぐそこだなあ…と気づかせてくれる、7月の終わりです。

白澤真生氏による描き下ろしイラスト


「二十四節気カレンダー」のイラストは、グラフィックデザイナーの白澤真生さんによる描き下ろし。
タイポグラフィや特徴的な線の描写によるイラストが得意で、国内外数々の受賞歴を誇るクリエイターさんです。

シンプルながらも、どこか有機的な佇まいのあるイラストと、肌で感じる季節の移り変わりを線的・面的なつながりに落とし込み、季語を含めたアートのように表現した、白澤さんらしい独特な世界観です。

-Designer Profile-
白澤真生 Masao Shirasawa
drawrope代表 / アートディレクター / デザイナー
デザインオフィスSwitch、株式会社オープンエンズ(現 株式会社レンズアソシエイツ)を経て、2019年に「ドロロープ」として独立。独特な作風のタイポグラフィやイラストを中心に、名古屋を拠点に活躍。


イラストに散りばめた、たくさんの季語たち


各ページのイラストには、小さく季語を散りばめました。

ここに写っている季語だけでも、こんなにたくさん。

春は
子猫、長閑(のどか)、桜、花見

夏は
田植え、蝸牛(かたつむり)、蛍狩、緑陰(りょくいん)

秋は
秋刀魚、団栗、蓑虫、新米

冬は
粉雪、毛糸編む、日記買う、日短(ひみじか)など。

イラストの答え合わせのような季語もあれば、イラストとは関係のない季語がぽっと入っていたりもします。

季語は、四季の美しさはもちろん、その季節の気持ちよさや美味しさ、目に見えない空気感などをキャッチする、アンテナのような役割をしてくれます。

今までは、ただ「春っぽくなってきたな」と感じていただけでも、季語を一つ多く知っておくことで「春の匂いがする」「春の雲になってきたなあ」「夏に近づいている風だなあ」など、ちょっとした変化に気づけるようになるんですよね。

それこそ、季節の「兆し」や、その季節「らしさ」を感度高く受け取るアンテナのような役割。その合言葉のような存在が、季語だと思っています。

カレンダーに散りばめた季語のなかには、
「白き日曜日」「猫の恋」「亀鳴く」「律の調」「神の旅」など、多くの人が初めて聞くような言葉もあると思います。

逆に「ぶらんこ」「ハンカチ」「ベランダ」「白玉」「美術展覧会」「雪女」など、存在は知っていても「それ季語だったの?」「…というかいつの季語?」というものもあると思います。

季語との出会い、新しいことばや季感との出会いを、ぜひ楽しんでみてください。


今年は二十四節気カレンダーで「初暦」


「初暦」という、新年の季語があります。
昔の「暦」は軸物で、右から開いて巻き込んでいくものでした。

現代の「暦」と言えば、カレンダーのこと。
「初暦」という季語は、新年になって新しいカレンダーをかけること、そのカレンダー自体のことを意味しています。

ちなみに、仲冬の季語に「古暦」という季語もあります。
新しいカレンダーが手元に来るとたちまち、それまで使っていたものが古びて感じる、という意味です。
残り少ない、今年への名残や感慨が込められています。

暮らしの中に溶け込んでいるカレンダー。
そのカレンダーを新調し、壁にかけたり飾ったりする、その毎年恒例の年末のタスクも、こうして俳句の材料、「句材」になるんです。

新しいカレンダーに希望を感じ、古いカレンダーに感慨を込める。
俳句という五七五で表現することで、自分の今年を振り返り、来し方行く末を想う。

今年もそんな気持ちで、たくさん俳句をつくっていきたいと思います。

暮らしの一句

めくる子の背丈に下げて初暦 麻衣子

【季語解説】初暦(新年)
初暦とは、新年になり、初めてその年の暦を用い始めること。
「暦開き」とも言います。
古くは伊勢神宮の「神宮暦(伊勢暦)」や、静岡県伊豆の三嶋大社の「三嶋暦」などが有名な暦が数多くありました。
新しい暦(=カレンダー)を使い始める、という意味で多く使われています。気持ち新たに新しいカレンダーを使い始めることで、新しい年への期待感が膨らみます。


句具
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