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乙女心の襲来 <大黒柱の結婚・4>

なんとも中途半端な提案をしてしまった。

男が言う「じゃ、付き合う?」
疑問系のあれは絶対にダメだよ。
私はあれが大嫌いだ、というか多くの女性がそうだろう。

男前に生きたい私があの疑問系のやつをやってしまった。
まぁでも、私は女だからギリ許されるよね?

そんなわずかなモヤモヤを伴いながらも、結婚方向ににつま先を向けることになった私と彼のこの状況が嬉しくて、翌々日くらいまではルンルンと浮かれていた。

女からプロポーズしたったぜ!と周りと違った目立つ行動をしたがる少年のような気分の高揚が良い歳したアラサー女の中にはあったのだろう。

ここで、この頃の自分の日記を辿ってみる。




「2023. 12.4  好き放題やりたいことやると決める、考えない、感じろ、空っぽ。
遊び心。飾らない。曝け出す。真面目さを捨てる。
されて嬉しいことを相手にする。
災害とかですぐ死ぬんじゃないかと思う、逆に今を楽に生きる。」




威勢が良い。

これがもし、

親の反対を押し切って漫画家になるんだ!とか、
辛いけど彼氏とサヨナラして留学しよ!とか
長年悩んでたけど脱サラして起業する!とか、

そういう人の心得だったらいいんだ。

プロポーズされたいアラサー女にこれを当てはめると破滅を呼ぶ。

純粋な子どもたち、憧れの女性タレント、著名な芸術家から受けたインスピレーションがあまりに爽快で大きく、その影に隠れた不安に目を向けることができなかった。

いや、本音から目を逸らすために都合の良い価値観を取り入れて視界をいっぱいにしたかったのかもしれない。

浮かれていた気分が徐々に下降していき、足が地面に着いた。
いつものように自分の気持ちを掘り下げてみよう。
お得意の自問自答インタビューが始まる。




ーー 結婚を現実的に考えるようになったきっかけは?

ふるさと納税のことを調べていてできるだけ節税したいなと思い、
配偶者控除や扶養控除の存在を知った。
結婚するだけでお得がゲットできるなんて良いなと思ったのと、自分自身にマンネリしてそこに何かを投下したかったんだと思う。



ーー 何が結婚の話をもちかける後押しになったの?

子どもたちの純粋で自由な踊りを見て、考えるより感じて生きたいと思った。
みなみちゃんみたいな豪快で男前な人間になりたいと思った。
岡本太郎のぶっとんだ言葉たちに触れて単純に心からワクワクした。


ーー 結婚していない状態に居心地の悪さがあったんじゃ?

30歳ともなると、初対面の人とかに「彼氏」がいることや、「同棲」していることの言いにくさをじわじわと感じていた。
あと母親から結婚や子どもはまだなのって心配されたり、知らん人紹介してこようとしてきて嫌な気持ちになった。
直接は言わないけど、30歳の娘と3年交際していてまだ入籍しようとしない彼への評価が下がってるんじゃないかってちょっとそわそわしていた。



ーー 結婚したかった本当の理由があるんじゃない?

結婚しようって彼に言われたかった。
結婚したいと彼に思われたかった。
付き合ってくださいって昔言ってくれたみたいにカッコいいところ見せてほしかった。
経済的にも精神的にも私のために覚悟をしてみてほしかった。



自問自答は恐る恐る始まり、恐る恐る終わった。

愕然とした。

別に結婚なんてしてもしなくてもいいですよって顔を、自分自身に向けていたのだ。
控除がどうとかを都合の良い言い訳に仕立て上げた。

目的は節税なんかじゃない、紛れもなく結婚だったんだ。
結婚がしたかったんだ。

指輪もドレスもバラの花もいらんから、言葉や気持ちだけがほしかった。
そんな言葉をもらえるに値する人間になりたかった。

待っていれば望んでいた通りに実現できていた可能性だってある。
でもそれが何ヶ月後か、何年後かもわからない。
そのときの私にとっては「今」が全てだったんだ。

しかも、疑問系男子より何倍もダサい、ダサすぎる。遠回りすぎるし曖昧どころではない。なりたくないやつに成り下がってしまった。
察してほしい汲み取ってほしい、だめだめ。

言うならハッキリ言えよ、男だろ!
って、いやいや。男じゃないんだわ私。
令和の時代に男が女がってダサい?

あぁまた自分がなりたくないやつだ。でもさ、そんなこと言ったって乙女心っていつの時代も不変だと思うんだ。
それこそ性別関係なく。

男を養う稼ぎ頭の女。
新しい時代の家族のかたち。
表面上だけでもカッコいい人間になれるかもって思っていた。

中身まで追いつけるわけがない、だって私はどこにでもいるつまらない女。
無理してハイブラ身につけてお高くとまらなければ男を捕まえられないような
キラキラしたフリのギラギラ女を見下していたくせに。

私もおんなじかもしれない。

焦ってまで相手を見つけ出そうとする婚活女子や砂浜の上でお姫様抱っこされる花嫁を冷笑していたあの目は自分には手の届かないものへの妬みを含んでいたのだろう。

自分ひとりで生きていけそうな女なんて可愛くないよね、手に入れる気にならないよね。
そんなことを頭の中で考えているつもりでも顔に現れていたようで、
いつもより静かな夕食が数日続いた。

ルンルンだった気分はジェットコースターのように急降下。

今流行りの自己肯定感がほしい、意識高い系の本でも読み漁ろうか。
いや、そういうのはだいたい読んでワクワクだけして終わるんだよな。

どうすることもできず毛布の中に逃げた。

逃げ道が毛布の中だなんて10代や20代と変わっていないじゃないか。
それどころか幼稚園児だ。
今や30代。立派なアラサー、立派な大人。

どうしよう、どうにかしなきゃ。

私の人生あるある、底の底まで落ちたらあとは上がるしかない。
そう。

ジェットコースターは上がれば落ちるし、落ちれば上がるじゃないか!


続く↓


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