『妖雲里見快挙伝』完結篇

 新東宝版・南総里見八犬伝である『妖雲里見快挙伝』、前篇に続いて完結篇が公開されました。馬加大記と網乾左母二郎の奸計によって一度は滅ぼされた里見家。はたして伏姫の予言した八犬士は現れるのか、そして逆襲の機会はいつ訪れるのか――あまりに意外な最後の犬士の正体に注目です。

前篇の記事はこちら

(以降、ラストまでの詳細に触れますのでご注意下さい)

 というわけで、二部構成の後篇である本作は、前篇のラスト、馬加大記の讒言によって謀反の罪を着せられ、攻められた里見義実の滝田城が落城した場面から物語は始まります。

 信乃と現八は奪われた村雨丸を取り返そうとするも果たせず、滝田城の苦境を知って戻るも時既に遅し。義実は辛うじて伏姫の亡霊に守られて小文吾の隠れ家に逃れ、道節は左母二郎に捕らえられて牢に捕らえられた妹・浜路の元に向かい――と、それぞれに大変な状況ですが、唯一の救いは、義実の奥方である五十子を守る親兵衛が、第五の犬士として珠を授かったことでしょうか。
 また、本作では馬加家の家臣の荘助は、その剛直ぶりを疎まれて牢に入れられながらも全く屈せず(本当に屈してなくて、責めに来た他の家臣が怯えるくらいなのが可笑しい。さすが荘助!)、旦開野は女田楽一座を率いて馬加を付け狙い――とそれぞれに頑張っています。(あれ、もう一人は……)

 その一方で、本作での悪役を一手に引き受けることになった馬加大記も、これはこれでスゴい奴。何しろ旦開野だけでなく道節の父を殺し、里見家の城を奪い――と、原典でいえば、馬加大記だけでなく扇谷定正と蟇田素藤の役を兼ねている上に、配下は網乾左母二郎と船虫、赤岩一角というオールスターであります。
 この大記を演じるのはベテラン阿部九洲男、太い眉にギョロリとした目で浮かべる表情は奸悪そのもの――大悪役として貫禄たっぷり、こんな男を信用する足利成氏は一体どこに目を付けているのか、というほかありません。

 さて、里見家を徹底的に滅ぼすまで手を緩めない大記は、五十子に扮した化猫・赤岩一角と妖怪軍団に命じて義実を拐かすのですが、それを追ってきた小文吾を妖怪と誤認して襲いかかったのが通りすがりの犬村角太郎。さらにそこに本物の赤岩一角が現れます。
 成り行きで赤岩一角と戦うことになった角太郎(しかし妖怪一角が「恨み重なる赤岩一角の一族、いま息の根を止めてくれる」と言っているところを見ると、妖怪一角と角太郎の関係は、原典と同じなのかしらん)ですが、そこにそこに追っ手を逃れて隠れていた信乃と現八が現れ、四人の犬士が勢揃い。さしもの一角も討たれて義実は奪還されましたが、その間も大記と左母二郎の奸策は続きます。

 牢の浜路に手を出そうとしたり、牢の荘助を殺そうとしたり、何しろ正義の味方は何人もいるのに悪役の実働部隊は左母二郎一人なので、とにかく出番が多い。主役並みの出番で、左母二郎役の丹波哲郎が目立ちまくりですが――何はともあれ潜入した道節の手で荘助は脱出(やっぱりこの二人は縁があるのだなあ……)、さすがに馬加家を見限って里見につきます。
 しかし左母二郎の方も囮を使って犬士たちの目を惹きつけ、本物の村雨丸をまんまと成氏に献上。犬士は命拾いしたものの、ついに里見家は逆臣とされ、領地は馬加に与えられることに……

 もはや里見家は家も名分も失った流浪のレジスタンス状態、まだ七人しか揃っていない犬士たちも悲壮な覚悟で最後の戦いを決意します。が――ここで馬加が調子に乗って成氏を宴に招いて毒殺せんと企んだのが運の尽き。宴に侍っていた旦開野、実は犬坂毛野がこれを見破って成氏に知らせたことで事が破れ、さらに七犬士が殴り込んだことで一挙に形勢は逆転します。
 馬加は道節と毛野に討たれ、その場から村雨丸を持って飛び出した浜路を追う左母二郎、その左母二郎を追う信乃は激しい戦いの末、左母二郎を倒すのですが――ここで衝撃の真実が!

 最後まで姿を見せなかった八人目の犬士、その正体は――浜路だったのであります!

 ……
 ……
 えっ、直前に毛野も名乗りを上げたし、これまで色々と出番があった上に、成氏毒殺を止めた殊勲者なのに――確かに浜路も本作で一番苦労した感はありますし、姓も犬山さんではありますが、しかし……
(正直、入れ替えるのであれば一番出番の少ない角太郎の方が……)

 と、最後の最後で八犬伝ファンほど驚かされる誰得の一大改変が飛び出しましたが、まあ大胆な改変は八犬伝には付きもの。前篇・完結篇、合わせてわずか二時間強で賑やかに一気に駆け抜けた八犬伝、難しいことを考えずに観るには実に楽しい作品でありました。

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ちなみに網乾左母二郎とはちょっとした縁(?)が……


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