『妖雲里見快挙伝』前篇
YouTubeの新東宝公式チャンネルで3/29から4/12までの二週間限定で公開されていた本作は、1956年の年末に公開された映画。タイトルから想像できるように、題材は『南総里見八犬伝』――この誰もが知る物語を、川内康範脚本、渡辺邦男監督、犬塚信乃役を若山富三郎で製作した二部作であります。
『南総里見八犬伝』については、今更いうまでもなく伝奇時代劇の元祖の一つであり、これまで様々なメディアでいくつもの八犬伝が生まれています。しかし原作が長大であるだけに、それぞれ大きくアレンジされているもの――マニアとしてはそのアレンジぶりが楽しみなのですが、本作は前後篇で約二時間という短い尺だけに、そのアレンジぶりもなかなかユニークです。
時は長祿元年、安房の里見義実は、安西景連に攻められ落城寸前の有様。嵩にかかって伏姫を差出せと迫るも義実に拒絶された景連は、里見家の皆殺しを命じますが、重臣・犬塚信乃はそれを諌めて怒りを買います。
一方、伏姫は父から与えられた八つの水晶を連ねた数珠を胸に、愛犬八房と共に一人景連の元に向かいます。そして八房に景連が噛み殺されたことで形勢は一挙逆転――しかし伏姫は数珠に守られていたもののついに力尽き、八つの珠を持参する勇士が里見家を守ると告げ、この世を去るのでした。
混乱の中を生き残った信乃は、義実の前に切り込むと、自分の一命を以てこれ以上の追撃を止めるように訴え、義実もそれを受け入れるのですが――その時、信乃の鎧から落ちたのは孝の珠。それを見た義実は信乃が死のうとするのを制し、家臣に迎えるのでした……
という導入部を見ればわかるように、本作は八犬伝全体の発端である里見と安西の合戦から間を置かず、そのまま本編に直結していくというアレンジとなっています。そのため、父親・番作が結城合戦に参加していたという因縁を持つ信乃は、ある意味その父の設定を(あくまでも落城方に参加していた武士という部分ですが)加えたようなキャラクターとなっているのがユニークです。
そして原典での伏姫と八房の結婚云々も(金碗大輔の存在も)バッサリカットし、伏姫の死によって放たれた八つの珠が、ある意味後天的に(?)勇士たちに宿るという設定も、なかなか面白いところであります。
物語の中盤、足利成氏の下を離れてでも自分を信じてついてきてくれた犬飼現八と信乃がやけに熱く手を握る場面があるのですが、手を離してみればそこに信の珠が! という展開は、映像で観ると滅茶苦茶可笑しかったりしますが……
さて、そんな本作のメインの悪役となるのが馬加大記と網干左母二郎、そして船虫というのがまた面白い。後ろ二人はさておき、原典で悪役として見せ場がある(というかまさにそれ故のチョイスだと思いますが)とはいえ、馬加大記が大ボス扱いの八犬伝はこれくらいではないでしょうか。
そして左母二郎は、その大記の腹心という設定。定職についても奸悪なところは変わらず、しかも妖術まで身につけている(演じているのが丹波哲郎なので妙な迫力)強敵で、それ繋がりで赤岩一角(猫に化けるのが得意で、かつて里見家に潜り込んだ時に八房に殺されかけたという設定)たち妖怪を配下についている妖人であります。
さて、この左母二郎が大の女好き、里見家の腰元で信乃と急接近の浜路を見初めて強引に想いを遂げようとするも、そのたびに邪魔が入って――と、その邪魔の一人が情婦の船虫。浜路に一方的に敵意を燃やし、左母二郎の見ていないところで捕らえて、その顔を毎日責め苛んで二目と見れないようにしてやる! と迫るところは実に恐ろしいのですが、演じているのが後に『新八犬伝』の玉梓役の阿部寿美子というのはある意味納得です。(本作には玉梓はいないのですが……)
さてこの後、里見家の下にあった名刀村雨丸が足利成氏の下に運ばれる途中にすり替えられ、それに乗じて大記が里見家を滅ぼそうという、なるほどそう来たか、という展開。
上に述べた信乃と現八のほか、
犬川荘助:諫言して牢に入れられている大記の家臣
犬山道節:左母二郎の袂を分かった旧友で今は占い師
犬田小文吾:里見の家臣ながら粗相があって庚申山に隠棲の身
犬阪毛野:ほぼ原作と同じ娘田楽師
と、多くが原典を踏まえた設定で描かれる中で、犬江親兵衛は大きくアレンジされて義実の側近的武士、そして犬村角太郎は――う、不注意で出番を見落としてしまったというくらいの扱いであります。
なにはともあれ、まだまだバラバラの状況のこの八犬士がこの後如何に出会い、如何に活躍するのか――後篇の公開も楽しみです。
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