気がつけば
きっかけはみんなよりちょっと絵が上手かったから。
みんなが絵を褒めてくれたから。
みんなが、僕を認めてくれたから。
一年ももう半分ほどが過ぎて、季節は夏に限りなく近い。梅雨、と呼ばれるこの時期に入ると天気だけでは無く、何となくではあるが心までもがジメッとしてまう気がする。特にここ数週間は一年のうちの殆どの雨が降っているんじゃないかと疑う程に酷い豪雨が各地を襲っておりその気持ちに拍車を掛けていた。
先月で27歳になった。
この年にもなると歳を重ねる事に喜びを一切感じなくなっており、寧ろ時の流れの早さが恐ろし感じてしまう。きっとすぐに死んでしまうんだなと思う程に。
周りでは仕事が軌道に乗ってきたのか結婚をするやつらが増えてきて、早いやつだともう子どもまで授かっているという話も聞いた。
そういう話を聞く度に自分が惨めになる。
漫画家になる。
そんな夢を追いかけて大学を卒業後、家族の反対を押し切って勝手に上京を決めた。
きっと東京に行って夢を追えば全てが上手く行くと思っていた。
アシスタントのバイトと居酒屋のバイトを掛け持ちして必死に生きるためのお金を稼ぎ、残りのあてれる時間は全て漫画を描く事に費やした。
気がつけば僕は27歳になっていた。
未だ連載は0、2年前、某有名週刊誌に応募した作品が一度だけ佳作に選ばれたのみ。
僕の漫画家人生の経歴はこれが全てだ。
才能が無いと気づいた時には遅かった。
ふとした時に自分は何でこんなにも漫画を描く事に必死になっているんだと思ってしまった。
僕が漫画を描き始めたのは小学校低学年の頃、4つ上の姉が漫画を描いていたのを見たのがきっかけだった。見様見真似で描いた絵がその年にしては上手く周りに褒められたのが嬉しくて沢山描くようになった。
その後もいろいろな漫画を読みながら部活では美術部に入りひたすらに絵の技術を磨いた。
学年で1番絵がうまいやつという認識を皆から得るまでにもなっていた。
そして美術大学へと進学した。
親とはこの頃から度々進路の事で揉める事はあったがそれでも何とか親の援助を受ける事ができていた。
そして大学を卒業後、僕は上京した。
僕が絵を描き続けた理由はただ一つだった。
絵を描けばみんなが褒めてくれるから。
絵を描けばみんなが僕を認めてくれるから。
絵を描く事は好きだったけれどきっとその感情が根幹にあるんだと思う。
ただ現実は厳しかった。
あんなに褒めてくれていた人達が気がつけば敵に回っていた。27歳でまともな職にも就かずひたすらに漫画を描いている。
噂は広まるのが早い。
あいつは上京して漫画をまだ描いているけど全然結果が出ていないらしい。
27歳にもなってまだ夢を追っている。
良い加減ちゃんとした所で働けばいいのに。
応援してくれていた人達がどんどんと説教をし始めた。
僕は何の為に絵を描いているんだ…。
後戻りはもうできない。
どんな物語も終わりがある。
それは自分の人生にも。
終わり方くらいは、自分で、決めよう…。
…。
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