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別れはやっぱり寂しいけれど。

 深夜の1時から、朝の6時半までボーリングをしてきた。

 オールナイトで身体を動かして遊ぶなんて経験初めてだから、身体がみしみし。ボーリングなんて、ほとんどしたことのない私はすでに太ももが筋肉痛。でも、爽快感のほうが大きくて、そんな自分に少しだけ驚いた。

 あっという間の3月だ。

 送別会とか、そういう所謂“職場の飲み会”というものは苦手な私だけれど、今回だけは話が別。初めてできた後輩を送り出すために、参加することにした。

 飲み会は滞りなく進んで、なんとも賑やかに会話は弾む。楽しいことが好きな人たちが集まって、それぞれの場所で笑顔がほころんでいて。いい職場だなぁ、としみじみ思った次第である。

 そんなこんなで二次会。

「ボーリング大会をしましょう!」

 決定事項のように告げられたそれに、私はサッと帰る準備をする。それを目ざとく見つけた上司からの一声。

「しのちゃんも参加するよな?」

 しません!とも言えず、眠いんですよぉ~とか、苦手なんですぅ~なんて言葉を口の中でもにょもにょと呟く。

「大丈夫、大丈夫!」

 帰るタイミングを逃して、同い年の男子とぽつぽつと話をしながらボーリング場への道を歩いた。

 道中、「俺、脂肪少ないから寒いんだよね」とかいう言葉に、少し痩せたの!と報告したら、体重何キロ?と聞かれたり、それに苦言を呈したら、とても怪訝そうな顔をされたりした。……大変不服である。

 「なんで体重を女に聞くの?」と聞いたら、お前は女じゃないというありがたい一言を頂戴した。

 そんな会話でちょっとだけ傷ついた女心を携えながら、ボーリング場について……。もうすでに逃げ出したい気分でいっぱいである。

 そもそも球技に参加して、良い結果が導き出せたことがない。これまでの人生、ただの一度もだ。

 小学生のときには同級生の男子から「お前がいなければなぁ」なんて言われたのも一度ではない。どうやら、私は丸いものとは相性が悪いらしい。

 三角やら四角なら喜んで参加するのに、と呟いたら、ちょうど隣を歩いていた上司に笑われた。

 今回は、なんとチーム戦だった。ちなみに、2年ほど前にプレイした私のスコアは30前後である。小学生並みの戦力かな、という感じ。

 それを伝えたら、チームメイトたちが「私たちが取るから大丈夫よ!楽しみましょ」なんて、力強い言葉をくれて。なんだか、ちょっとじんと来てしまった。まともな学生時代を過ごしていない弊害が大きすぎる。

 最初は散々で、2回目のスコアは36。苦笑いを浮かべながらも、先輩や後輩が「身体曲がってますよ!」「玉は押し出す感じで行きましょう」とか、とにかく細かく教えてくれる。小学生の私が、今の私を見たらすっごく喜んでくれそうだなぁなんて、考えてしまう。誰かに教えてもらうなんてこと、なかったものね。

 徐々にコツを掴んでいって、最後のスコアは89に。90まであと一歩という成長。なかなか健闘したな、私。

 スペアやストライクも何度かとることが出来た。そのたびに、私は大はしゃぎである。だって、そんなに多いわけじゃないんだから!と力いっぱいに、飛び跳ねるようにして喜ぶ。深夜3時を回ろうが、お構いなし。

 力いっぱいにハイタッチをして、なんだか青春だなぁ……なんて、回らない頭でぼんやりと考えた。

 結局、チーム戦といえど勝ちも負けも分からなくなって、朝日が降り注ぐなか、みんなで目がー!なんて呟きながら、まだ冷たい風に身体を震わせながら歩いていく。10人ちょっとで、それぞれにどうでもいい話をしながら、思い切り笑って、そしてちょっとだけ寂しくなる。

 このメンバーで仕事をすることは、もう無いんだな。ガラガラの電車に並んで座って、また対戦しましょうよ!なんて、あやふやな約束をしてみたりして。

 なんだか、高校時代に戻ったみたいだ。あの頃の私たちは、やっぱりあやふやな約束をして別れた。結局、ほとんどの人たちと顔を合わせることもなく、数年経っている。

 そんなもんだよね、と腑に落ちているけれど、これまで当たり前のように顔を合わせていた人と、もう顔を合わせることがないと思うと、胸のあたりが風通しがよくなったみたいにスカスカするのだ。

 太陽の光に目を細めながら、お疲れさま!と手を振る。みんなに会うのは、何年後になるのかな。

 そのときは、ちょっとだけでも成長した私を見せられるように頑張らなきゃと小さく拳を握りしめる。

 深夜の焼き肉屋で泣いたことも、ベランダでお酒を飲みながら打ち上げ花火を見たことも、そのあとにセミに襲撃されて悲鳴を上げたことも。今、思い返せば笑える。

 仕事のことで愚痴を言い合ったり、相談をしていたら愚痴になっていたり、ため息をついたら怒られたり。なんだかんだ、やっぱり楽しかったから、しばらくは、落ち着かない日々になりそうだ。

 ちょっとだけしょっぱい気持ちになっても、私も前に進むしかない。こういう前向きなお別れなら、いつもよりすんなりと受け入れられそうだ。

 お別れは寂しいけれど、新しい人たちとの出会いもある。

 新しい季節が始まる。さて、気合を入れなおして、踏ん張りますか。

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