あの人が泣いた日のこと。
だいすきな人の文章を読んだときに頬を伝った涙。顧問の先生が異動してしまうことを知ってわっと泣き出した先輩。祖父のお葬式で声をあげて泣くぼんやりとした喪服姿。高架下の電車の音と悔し涙に目を真っ赤にする同期。修学旅行の夜に、ベッドの上、ぽつりぽつりと悩みとともに涙をこぼす友達。
素直に泣ける人が、好きだ。
人知れずシャワーとともに流れる涙も、目を閉じる一呼吸まえに枕に落ちた涙も。見えない涙を流す、凛とした寂しそうな表情に惹かれる。
ひょっとしたら人の魅力は、影のそばにあるのかもしれない。
泣くことを堪えたり、笑うことを後回しにしたり。大人なふりをして優雅に生きている時間が、果たしてわたしたちにあるのだろうか。
感情が動いたその瞬間を抱きしめて生きること。その積み重ねが、強烈な光りと影となり自分自身をつくっているとするのなら、躊躇わず自分のこころの声を信じてみたい。
自分を信じるなんて、大袈裟でなくていい。少しの勇気を持って自分のこころの声に身を任せてみる。お風呂に入るときのように、最初はつま先だけ。だんだんと膝まで、おへそまで、肩まで。怖くても、少しずつ。自分のこころの声を信じてみる。
自分の身をすっぽり任せられる自分になれたら、チグハグなこころと身体も少しは言うことも聞いてくれるようになるのかもしれない。
涙を流す、その裏側が好きだ。
感情が揺さぶられる、なにひとつ取り繕わないその人自身になる瞬間がとても魅力的だ。
誰に見せるわけでもないその涙を、一番側にいる自分自身がちゃんと、見ているから。
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