愉快で自由な汁飯香
梟文庫のおなじみプログラムに「汁飯香(しるめしこう)」というお料理企画がある。料理研究家土井善晴さんの「一汁一菜でよいという提案」にヒントを得て,「お味噌汁(汁)」「ご飯(飯)」「お漬物(香)」の3種類でシンプルなお昼ご飯を子どもたちと作って食べることにしたのだ。春休みなど長期休暇のあいだ,仕事で親御さんがいない子どもたちのお昼ご飯をまかなえたらという思いもあるが,それよりはむしろ「子どもだって,自分の食べるご飯を自分で整えられるようにならないとね!」というちょっと説教じみた(よく言えば教育的な)意味合いが強い。だから予算の中でなにを作るかみんなで相談し,計算機片手に買い物へ行くところから始める。という,一見なんてことのないプログラムなのであるが。
「フリーダム!!」
と叫びたくなること頻回の,愉快な子どもたちに目が点。
毎度想定外の展開って,君ら天才だね!ってしみじみ思う。
まず子どもたちが集まると,お米や出汁などの必要経費を引いて残る,買い物で使える材料費の計算から始まる。それから「お味噌汁の具は何がいいか」相談し,「きのこは嫌だ」とか「大根入れたい」とかそれぞれの希望を出し合う。大概は平和に決まり,いざスーパーマーケットへ。子どもたちは意外にも節約家で,安い食材を求めて計算機とにらめっこしている。そうして味噌汁代を切り詰めてどうするのかというと,デザートやおかずに予算を分配するのである。ある時はフルーツポンチ,ある時はパフェ,そしてある時は「お刺身定食」に・・・すでに「汁飯香じゃねー!」のであるが,定着したプログラム名なのでいまだに「汁飯香」を謳っている。この春にはついに「味噌汁の具はもやしだけ」というマックスの切り詰めで,とんかつをジュージュー揚げて賀茂川ピクニックさえしたんだぞー。
進化する「汁飯香」,次の展開やいかに。
具なし味噌汁が登場するんだろーか。味噌汁そのものが消滅するんだろーか。
そんなオトナ予想のナナメ上を,絶対いく気がしてならない。
こんなふうに子どもって本当に面白いなぁと思うのだが,これが「汁と飯と香」という形で最終整えねばならんとか,栄養バランスが偏ってはあかんとか,あらかじめ設定されたゴールがあったら「コラコラ,ふざけない!」なんて注意しないといけなくなるんだろうなぁ・・・だから「最終形がどうであろうと,過程が面白くて学びがありゃいい」とだけ言ってられるというのは恵まれた(免責された)ポジションに私はいるのだと思っている。
でもだからこそ。
最終形がかちっと決まっちゃっていたら,手に入らない学びがあるんだってことは大きな声で言っておきたい。「ご飯とお味噌汁とお漬物を用意します,手順はこうです,この通りしましょう。」という学びを決して否定はしないし,そういうアプローチが必要な時と場合もたくさんある。そのほうが安心して学べる,というタイプ(特性)の子どもたちだっている。でも「ご飯とお味噌汁とお漬物だけじゃなくて,とんかつ食べたいなあ。とんかつ食べるためには,野菜最安値は何だ。」って考えたり工夫することだって,やっぱり必要な学びだと思うのだ。スーパーで売られている食材は一体いくらくらいなのかを知ったり,限られた予算の中で配分を決めたり,初めて挑戦する料理のレシピを調べたり。その都度必要な情報をとり,それを基に考え,実際にやってみる。これらは「お膳立てされていない」実際の生活の中で必要な力だと私は思う。
そしてもう一つ最近私が子どもたちに対して強く願っているのは,設定されている枠組みをただ盲目的に守るだけではなく「もっとこうしたらいいんじゃないか」とか「もっとこうしたい」とか考えることのできる力を大切に育んでいってもらいたいということ。もちろん自分の気持ちの赴くままにルールを変えていいんだっていうことでは決してない。でも「汁飯香だけど,とんかつ食べたい。」ってまずは口に出せること。それってすんごく大事なことだと思うのだ。そこで「いや,油ないからとんかつは無理だよ。」とか「とんかつ,いいね!」とか「とんかつなんて今食いたくない。」とか色んな意見に出会って,「とんかつ」アイディアをみんなでどこかに着地させる,そのプロセスを踏む場数は多ければ多いほどいいと思う。そうやって,ルールは自分たちを管理するためだけにあるんじゃなくって,より自分たちが楽しく,面白く,あるいは安全に快適にやっていけるためにコミットするものなんだってことを経験していけるんじゃないかと思う。ルールに隷属するんじゃなくて,ルールに主体的にコミットしていける力。それはブラック校則とか,ブラック部活とか,ブラック企業などから自らの身を守る,ほぼ護身術と言っていい状況にあるのが辛いところである。
なんて,たいそうなことを考えながら日々やってるわけではなく,単に子どもたちと面白がっているだけなのだが。
また長期休みがやってくるので,ぜひ子どもさんたち愉快で自由な汁飯香へどうぞ!
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