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「不妊治療」への長い問い(と見解)。

37歳・子なし・流産経験あり

SNSでも公言しているし、周りの知人・友人にも必要があれば伝えているのですが、私たち夫婦は不妊治療を受けています。私が34歳の頃にはじめたので、かれこれ3年は経つでしょうか。3年を長いか短いとするかは、個人差のある不妊治療の場合、なかなかハッキリと言い難いところではあります。

私たちの住んでいる福島県須賀川市には不妊治療をしてくれる病院・クリニックがないため、まずはじめは隣の郡山市の個人クリニックへの通院からはじめました。郡山市はいわき市と並んで県内で最も大きい(人口規模、商業規模)地方都市なのですが、その割に不妊治療を専門としている医療施設が少ない。私の通っていたところを含め、個人クリニックが2件、総合病院で1件となっています(2023年、私調べ)。

しかしはじめに通ったクリニックが、本当に激やばだった。34歳(厳密に言うと35歳になる年)で、不妊治療なるものはもちろん、婦人科系のあらゆる検査(卵管通水、風疹抗体、AMH…)をはじめて受けたので、まずはそれらに慣れるところからのスタート。子宮の状態や卵胞の育ち具合、排卵の状況などを確認するために毎回エコーを膣内に入れられてぐりぐりされたり、注射を打たれたり血を抜かれたり…。待ち時間も予約したって2時間超なんてざらです。私のクリニックはプライバシー保護の観点からか番号で呼ばれる方式だったので、自分の番号カードを握りしめながら次か次かと待ち続けます。
…とまあ、ここまでは不妊治療(と言うか病院)あるあるでしょう。私の通っていたクリニック独自のやばさは、また別なところにありました。ひと言で言えば、施設長兼医師でもある女医のモラハラともとれる患者への態度、ということなのですが、このことについて言及しはじめると(なぜ起こっているのか、どうすれば防げるのか、それによってこちらが被っている精神的ストレス etc.)切りがなくなってしまうので、今回はここらへんでやめておきます。ちなみにそのクリニックの医師のやばさはお墨付きで、通っている/たという方のほとんどが口をそろえて「まじでやばい、つらい」と言います。どれだけのものかはGoogleの口コミで見れますので、気になる方は「郡山 不妊治療」で検索してみてください。一番評価の低いクリニックがそれです。体験者は語るですが、記述されている目を疑うような対応のほとんどが、おそらく真実だろうと思われます。それだけひどかったということ。
(通院当時の病みきったメンタルでのツイートを下記に…↓)

医師の対応由来の心的ストレスが尋常ではなかったため、私はある程度で転院に踏み切って(それでも1年半は通いました)、現在では福島県立医科大学の生殖医療センターという、県内では随一の治療を提供している病院へ通うことができています。まずは一安心です。まあ、こんなことで一安心って言わせる医師もほんとどうかと思いますが。ちなみに福島医大の医師は対応が素晴らしく、不妊治療で通っている女性の心に配慮して診察をして下さいます(というか本来それが当たり前ですよね)。

前置きが長くなりましたが、今回は顕微授精までステップアップした37歳・出産経験なし、流産経験あり(34歳の時に稽留流産)の女の視点から、「不妊治療ここが変だよ」を独自(勝手)にまとめていこうと思います。とても長いかつ写真もないので、例によって目次からお好きなところにスキップしていただければ幸いです。


〝まじめ〟で片づけられる、私たちの頑張り。

まずこれは声を大にして言いたい。不妊治療に通いはじめて、知識もつきはじめた頃によく言われる声かけナンバーワン、「まじめですね」。
これ、本当に心の底から言うのやめて欲しい!!!!!言ってる側はおそらく「そんなに気張りすぎないで、リラックスして。その方が良い結果になりますよ」的なことで言ってくれているのだと思いますが、気づかいがありがたい一方、不妊治療頑張っている人へテンプレのようにこの言葉を使われてしまうと、「ちょっと待ってくれよ」となります。
はい、そりゃまじめにもなりますよ。だって毎日毎日基礎体温を計ってつけてクリニックに提出をして(↑の地獄クリニックでは専用のノートに手書きを強要され、提出を忘れると叱られるもしくはクリニックで再び紙に手書きし直し)、自分の体の変化や食べるもの、運動習慣、睡眠時間などなどを見直さなければならず、次の生理周期や排卵周期に合わせて通院と仕事と(二人目以降妊活であれば)子供の世話の調整もろもろを常に考えていなければならないのです。体外受精にステップアップすると通院頻度もぐっと増えるし、自宅で自己注射もしなければならない場合もあるし、しかも時間厳守の投薬だってある。私はフリーランサーなのである程度時間に融通が利かせられますが、お勤めやお子さんがある方がこれらをこなすのは、まずもって尋常じゃない大変さだろうと察します。
分かりますか?私たちはわざわざ「まじめ」になってるんじゃないんです。課せられたタスクが私たちを「まじめにやらざるを得ない=余裕のない状況」に追い込んでいるんです。「まじめですね」の心ない言葉は、ポジティブにとらえて「そんなに思い詰めないで」という気づかい、いじわるにとらえるとするなら「そんな深刻に考えてバカじゃない?」という遠回しの非難の意が含まれてい(るように感じられ)ます。「そんなつもりじゃない」と言っている側の多くの人は主張するでしょうが、そう言う人たちのどれほどが既述の不妊治療の具体的な大変さを知っているでしょうか。
不妊治療に取り組んでいる人を〝まじめ〟で片づけるな。これが当事者として感じる不妊治療への違和感その一です。

医者のその態度が一番のストレスなんですよ。

ズバリ、「医師の態度が一番ストレス」問題も、不妊治療あるあるかと思います。これは私の住んでいる地域特有の問題かもしれませんが、まず不妊治療ができる医療施設自体が限られているし、転院するにも紹介状を書いてくれるかは医師次第という、袋小路のような現状があります(『この治療回数じゃ普通紹介状書きませんから。先方に受け入れてもらえるか分かりませんよ』的な態度、実際にとられました)。つまりは「医師の機嫌を損ねないように」しなければ、あれよあれよという間に自分に不利な診療内容(雑)にされたり、突然「うちに来なくていいですから」と言われたりするリスクがあるということです。実際、私も件の女医のあまりの説明不足に疑問の声を上げたところ、「佐藤さんみたいなべたべたしたい人はうちじゃなくていいですから」と言われる始末(一言一句忠実に再現してます)。転院って言ったって、他にないのを分かって言ってるんですよね。「医師不足=患者が集中=医師の立場が強くなる」の不健全な不妊治療マーケットができてしまっている、福島県(郡山近辺)の見えざる闇と言えるでしょう。

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このような医師の発言は、忙しいから許されるとか言うレベルのものではありませんし、実際に社会人として(というか人として)言うべきものでもありません。福島医大のように、少なくとも自分たちの態度からの要らぬストレスを与えないよう心を配ってくれる医師がいる一方で、なんの勘違いからか尊大な態度で患者を見下してくる医師もたくさんいるように思います(これは不妊治療に限ったことではありませんね)。百歩譲って腕っぷしがブラックジャックもしくは大門未知子レベルだったとしても、やっぱりそんなこと言う医者は願い下げです。あんたらの偉そうな態度が一番ストレスだし、一番の不妊の原因なんだよ。
これが不妊治療への違和感その二です。

次からは地獄のようなクリニックでのホラー体験ではなく、多くのクリニック・病院に共通するであろう不妊治療現場の課題について、通院者目線で語っていきます。

待ち時間の過ごし方、もっと柔軟にできない?

まずはじめの課題は「待ち時間の長さ」です。はい、これはもうどこのクリニックでもあるのではないでしょうか。初めに通った地獄(←)クリニックでも、人気がないので患者数が少ないとは言え(←)、それでも2時間待ちはざらでした。現在通っている福島医科大学では、11時の診察予約で病院を出られるのが15時~16時。処方箋が出ていればその後に薬局に寄って、そこでも混んでいればやはり待つので、もはや一日仕事です(ちなみに我が家から医大までは車で片道1.5時間かかります)。
2022年4月から不妊治療の保険適用範囲が広まったこと、かつ福島県内に体外受精以上の高度不妊治療を提供できる施設が少ないことから、医大はおそらく県内外の患者の総ポケットのようになっているので、余計に混みあっているのでしょう。この「施設ない問題」はすぐに解決できるものではないので、一旦はしょうがない。一方で、「待ち時間の過ごし方」はもう少し改善の余地があるのでは?とも感じています。

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11時から15〜6時までの私の待機方法は、「ひたすら待合室の椅子で待つ」です。受付に声をかければ1時間くらいは抜けられるようなのですが、実際にはいつ呼ばれるか分からないので、離れたところにいてもソワソワしながら待つことになります。その気ぜわしさが面倒なので、最終的に私はずーっと待合室に居続けるという手法にいたりました。もはや待合室の主です。
ただ、人が4~5時間じっと座り続けることとの健康的な弊害って、めちゃめちゃあるのでは…とも思っています。実際に待っている間、たとえ本を読んだりスマホで仕事をしたりして時間はつぶせても、体のほうはしっかりとガチガチになっていくんですよね。時折お手洗いに立ったり、腕を伸ばす程度のストレッチはしていますが、もはやそんな程度でカバーできる硬直具合ではない…。そしてそんなときに強く思います。「ああ、ストレッチスペースが欲しい…」と。

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大きな鏡が欲しいなんて贅沢は言いません。ただ清潔な(できれば厚めの)マットがあって、大人3~4人が気兼ねなくのびのびできるだけのスペースがあればいいんです。待合室のお子様スペースの、ストレッチ版みたいなやつが。子宮付近の血流が大切とも言われている不妊治療において、座りっぱなしによる骨盤付近の圧迫は、何より大敵。せっかく日ごろから頑張っている諸々が、この「待ち時間の長さ」による健康(血流)被害によって阻害されては、本末転倒です。待ち時間と不妊の相関関係のデータなんて、おそらくどこの世界にもまだないと思うのですが、それでも「選択肢がある」ということによる治療者への精神的な救いは、想像以上にあるのではと思います。というかお願いだからつくってくれ。

現代の働き方が子育て・不妊治療に合ってない。

そもそも論です。これは既述の「待ち時間もっとなんとかならない?」問題とも少し関わっていると思うのですが、結局のところ医療施設側からの働く女性への配慮が、ほとんど感じられないのです。私は福島県内での経験しかないので、これが東京や大阪などの大都市圏であれば違うのかもしれませんが、「待っている間もできれば仕事したい」というニーズに医療施設側がまったく鈍感なんですよね。その表れが椅子しかない待合室だし、待機スタイルの単一性に出ていると思っています。

さらにそもそもを言ってしまえば、体の方(排卵やホルモンなど生き物としてのサイクル)に、「働き方」のほうが合わせるべきなのではと思っています。当たり前ですが、女性の体は週休2日で稼働しているわけでありません。おおよその生理周期(28日~35日)や排卵周期、それに伴うホルモン変化サイクルはあるものの、個体差や年齢差だってかなりあります。人間(というか生き物)って、数字でパキっと割り切れない〝ゆらぎ〟があるということを、現代の社会制度のほどんどが無視しているように見えるのは、私だけでしょうか?

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「女性進出」の名のもとに、「うちでは育休産休取り入れてます~」「生理休暇導入しました~」とか、ドヤ顔で言ってる地方の中小企業の社長(もちろん男性)がよくいますが、その意味、ほんとうに分かってますか?と問いたい。現代の女性にとって「妊娠・出産・育児」がどれだけの大変さをともなうのか、どういった体のメカニズムでどう辛いのか、それらをきちんと理解したうえでの制度設計だし、意味のある福利厚生・社会制度、ひいては本当に「女性が活躍できる」社会なのだと思います。制度だけ導入して先進企業の仲間入りした気になっている企業のお偉方は、まず生理のメカニズムから言えるようにしてほうがいいのでは?と普通に思います。普通に。

不妊治療中の全女性へ告ぐ!「その辛さ、一人で抱え込むな!」

これまで言いたい放題に書き散らかしてきた「不妊治療ここが変だよ!~体験者は語る~」でしたが(笑)、まだどうしても言いたいことが、ひとつだけあります。それは不妊治療に向き合っている全女性に対して。

あんたたち、ほんと偉いよ。しんどい治療や検査に向き合って、体と家事と(お勤めしていれば)会社と、(上にお子さんがいれば)育児や学校と、(家庭によっては)夫への説得と、青天井の治療費と、必ずしも結果が出るわけではないという、どんなギャンブルよりもしんどい人生をかけた大勝負へのプレッシャーと…。これはもう、私たちでなければ向き合えません(笑)。我らはもはや鋼のメンタルを手に入れし猛者、勇者。たとえまだ子は産んでいなくとも、わが子を迎え入れるまでにこんなにも頑張っている時点で、もうすでに立派な母なのではと思うほどです(というか〝不妊〟って表現もそろそろやめていただきたいよな)。

でも、だからこそ言いたい。特に私の住んでいる福島県では、その県民性からか(あるいは初婚年齢と出産年齢が若いからか)、「不妊治療をしています」とさらっと言える雰囲気が、あまりないように感じています。
そもそも20代前半女性の県外流出率が全国でワースト5位な福島なので、県内企業のほどんどが男性中心指向。第一次・二次産業がメインという産業構造もあり、決して女性が活躍しやすい環境とは言えません。
不妊治療は、周囲の理解や協力がないとなかなか進めるのが難しいという側面があります。制度的なフォローはもちろんですが、そもそも女性が「不妊治療」について、もっとカラっとオープンに話せる空気がなければ、周囲への理解を求めることも難しい。これは強要できることではありませんが、私個人としては割と積極的に(さらっと)、「実はいま不妊治療をしていて、スケジュールに制約があるんです」と、仕事仲間や友人には言うようにしています。まったく恥ずかしいことではないですし、こちらの状況を伝えた方が相手にとっても親切、という場合もあると思っているので。何より「私は不妊治療している…ううう…」みたいに、一人で抱えてしんどくなるという悪夢を回避する、という意味合いもあります(し切れないくらい落ち込むときもありますが 笑)。

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くだくだと長くなりましたが、不妊治療を頑張っている皆さん、ぜひ恥ずかしがらずに「不妊治療」について、さらっと話してみませんか?もちろん各々の状況にもよると思うので、全員がそうなれ!という暴言を吐く気はありません。ただ、ひとりで抱えがちなこの不妊治療によって、自分自身の心がつぶれてしまわないようにだけ、本当にしてほしい。自分をつぶしてまでやるべきことなんて、私はないと思うんです。もし不妊治療に心を押しつぶされそうになったら、ひとりで抱えないで、だれか・どこかに助けを求めにいってほしい。心からそう願います。

私たちは〝特別扱い〟してもらいたいわけじゃない。

これまでつらつらと書いてきてきましたが、これによって少しでも私(たち)の不妊治療当事者としての気持ちや現状が伝わったらいいなと、希望観測的に思っています。
「不妊治療」というテーマを深堀りして見えてくる課題は様々ありますが、ここだけはぜひ誤解のないように念を押したいということを最後に。それは、私たちは〝特別扱い〟をしてほしいわけではない、ということです。

「不妊治療をしています」という人に会った時、もしあなたが当事者でないとしたら、どう反応するでしょうか?なかなか難しいですよね。でもそれって〝なぜ〟難しいのでしょう?相手の気持ちを不用意に傷つけなくないという理由が、大半かもしれません。でも冷静に考えてみてください。もはや日本は不妊治療大国。5人(正確には4.4人)にひとりは不妊治療をしている計算になるのです。となりの人も、会社では何も言っていないあの人も、もしかすると不妊治療をしているかもしれません。加えて女性のキャリア進出や晩婚化、それにともなう初産年齢の高齢化は、とどまる気配がありません。お分かりだと思いますが、不妊治療ってもはや昔ほど他人事ではないのです。

先に述べたように、「新たな命が宿る、出産する」という生命の神秘は、人間が勝手に作った社会のルールでコントロールできるものではありません。つまりは、本当に子供がいる社会を望むのであれば〝生命の側に、社会が合わせる〟必要があるということ。それってどうゆう社会なのか、それはこれからたくさん(そしてなるべく迅速に)、議論されていく必要があると思います。

だから、そういう意味で不妊治療に通っている女性を特別視しないで欲しいと思うのです。私たちが欲しいのは「大変ね~」という同情や哀れみではありません。同情するなら本気で「子を産み育てられる社会」について、考えてくれよ!と思います。これによって、本当の男女の平等ってなにかとか、子供への性教育のありかたとか、たくさんの大切な課題にも触れることができると思っています。究極は、「生きるってなにか」ということにもつながる話なのです。

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私は不妊治療をはじめてから、今ここに居る人間のすべて(自分も含めて)が、なんと尊い存在なのだろうと、もう本当に、心から感じられるようになりました。卵胞細胞からの排卵個数からのセックスのタイミングと受精の確立といくつもある妊娠・出産の壁を乗り越えて、いまここに居る私たち。これはもう、奇跡以外の何ものでもありません。だから一層、いただいた自分の命を一生懸命に生きようと思うし、いまここにいる人のすべてが健やかで、幸福であるようにと、心から願ってやまないのです。

最後に

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
不妊治療に向き合っているみなさん、不妊治療にどう触れていいのか分からなかったみなさん、医療従事者のみなさん。ぜひ日本の「不妊治療」にまつわるエトセトラを、少しでも良い方向にしていきましょうね。
そのために自分のできることを少しでもやっていこうと思い、地方のいち治療者としての声をここに書き連ねたという次第です。黙っていてははじまらない。
個人的見解や地域特有の課題もありますが、ぜひ小さき(でも大切な)声として、お読みいただけましたら幸いです。

2023年12月7日(木)
佐藤美郷/ローカルエディター

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