あの日、恋に落ちた場所
「ドブロブニクの旧市街が一番好きなのよ」
大学の講義に世界遺産を学ぶ授業があり、教授が言ったその言葉がずっと忘れられなかった。
添乗員としてヨーロッパ各地をまわっていた教授が見せてくれた一枚の写真。大好きな映画「魔女の宅急便」に出てきそうなオレンジの屋根が広がる景色に、私は一目で虜になった。
そして、数年後に世界一周のルートを決める時、クロアチアのドブロブニクは絶対に外せない場所になっていた。できるなら誕生日に合わせたかったが、数日足らずにザグレブで迎えることになってしまう。
クロアチアは、私の旅を救ってくれた場所でもある。東周りでスタートした世界一周。日本とはかけ離れた大自然の美しさに興奮しっぱなしだった南米から離れ、街並みが整ったヨーロッパにやってきた。
最初のうちは世界遺産や美しい教会に見とれていたが、正直飽きてきている自分がいた。当時付き合っていた彼とも別れたこともあり、テンションの低いまま物価の高い西ヨーロッパを後にして東欧へ。スロベニアからついにクロアチアへ入っていく。ザグレブから入り南下して目指すはドブロブニクだ!
アドリア海沿いをバスで走り、流れる音楽はもちろん魔女の宅急便のBGM。海ってこんなにもキラキラ輝くんだ。
ずっと、笑顔だったと思う。心が躍るってきっとこういうこと。旧市街から離れた場所に宿をとっていた。荷物を置いて宿の近くからバスに乗ればすぐ旧市街に到着するのに、じっくりアドリア海を眺めたくて歩くことを選んだ。
旧市街に到着し、スルジ山を目指してぐんぐん上昇していくケーブルカーに乗り真っ先に向かったのは展望台。そこから見えたのは目がさめるようなコバルトブルーに輝くアドリア海と、オレンジ色のレンガの屋根。
「アドリア海の真珠」と例えられている理由にも納得だ。キキの「決めた!私この場所に住む!」のセリフが頭に浮かんだ。
もうすでに恋に落ちていた。あの時の感動、興奮、高揚感、胸を鷲掴みにされた気持ちは今でも思い出すだけで私をドキドキさせてくれる。
この日のために持っていった黒のワンピースを着て、撮りたかったのが箒にまたがったキキのような写真だった。近くにいた韓国人に撮ってもらった時、「Witch!(魔女)」と言われ「Yes!」と満面の笑みで答えた。
ロープウェイで訪れたスルジ山には「戦争博物館」がある。こんなに美しいドブロブニクも1991年からの内戦で大きな被害を被っていた。街中に銃弾の跡がリアルに残っている。
もともと観光地だったこの街も大きな被害を受けて一時は危機遺産にも登録された。けれど戦後に街の人や、世界中からボランティアの人が集まって必死の復興作業の結果、1998年に危機遺産を脱し、アドリア海の真珠はもとの美しさを取り戻したのだ。
オレンジの景色だけではなく、路地裏散策もドブロブニクでのお楽しみの一つだ。治安は観光地だから最低限のことに気をつけていれば大丈夫と自分の危機管理センサーが感じていて、あてもなくずっと迷い続けていた。
ドブロブニクだけではなく、クロアチアにはおすすめの場所がいくつかある。青の洞窟の拠点となるフヴァル島。ザグレブから日帰りでいける世界遺産プリトヴィッツェ国立公園、小さな港町ロヴィニ。
まだまだ訪れた場所は少ないものの、どこの国が一番良かった?と聞かれると私は絶対にクロアチアと答えている。
ヨーロッパに入り、ずっと気持ちが落ち込んでいたけれど、滞在している時に久しぶりにときめく感情を体が思い出していた。
あの時手紙を書いていたら「おちこんだりもしたけれど、私は元気です。」なんて書いていたのかもしれない。