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【連載エッセイ】悪妻のススメ(第11話:婚約指輪)

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妻と同棲して以来、頻繁に頭の中で鳴り響いていたメロディーがあった。

よ~く考えよぉ~♪ お金は大事だよぉ~♪

保険会社のCMの楽曲だ。

毎月口座残高が減り続けている状況に「結婚には、お金だよ~♪」と、私の思いを代弁してくれていた。

妻曰く、私に気を使い日々できるだけ我慢して買い物をしていると言うのだが、妻が気を使っている生活が、当時の私からしたら どう考えても贅沢な生活だった。

例えば、妻が誕生日プレゼントにリクエストしたネックレスは、今まで私がお付き合いた人に贈ってきたプレゼントの値段とは 桁が1つ違っていた

この金銭感覚の違いには頭を抱えた。。


そんな妻のことだから、きっと婚約指輪も 高級なブランドのもの が欲しいと言うんだろうなと、私は事前にネットで調べていた。

そして、近く プレプロポーズ することが決まると、気の早い妻は婚約指輪を見に行こうと言い出した。

妻「ちなみに、ひでくんの予算はいくら位かな?

少し遠慮がちに、妻は私に問いかけた。
私はネットで仕入れた知識をもとに、

私「婚約指輪の相場って、一般的には30~40万円くらいみたいだけど、それだと選べる指輪が限られちゃうかもしれないから50~60万円ってとこかな!

もうアラフォーだし、年上の余裕を見せて、一般的な相場より高めの金額を伝えた。

すると

妻「・・・そっかぁ!でも、あれだね。予算ありきで見に行くと入れないお店も出てきちゃいそうだし、一旦、予算は置いておいて、いろんなブランドの指輪見に行ってみたいな!一生に一度のことだし!見るのはタダだし!

私「あ、、まぁ、うん・・・。

こうして振り返れば、見事な 論点のすり替え なのだが、まんまと妻の戦略に嵌った私は、それから銀座界隈にある、ありとあらゆる高級ブランドのジュエリー店を連れ回されることになる。

それだけでは留まらず、日常の買い物でショッピングセンターに行っても、旅行に行っても、遂にはアメ横の質屋まで、通りすがりにジュエリー店があると、妻は必ずお店を覗いて指輪を吟味していた。

そして、私はその全てに付き添った。


妻「あなたが良いと思う指輪を選んで!

そもそもブランドや宝石には疎く、私には指輪なんてどれも同じに見えてしまう。

私「いや、指輪とかダイヤモンドなんてよく分からないよ。う~ん、じゃあ、これなんて良いんじゃない?

そう、何となく意見してみても、

妻「う~ん・・・これね。。他のお店も見てみようかっ!

私「・・・

という感じで、採用された試しがない。

結局、自分で選ばないと気が済まないのに、なぜ私に意見を求めるのか?
妻と言う人間を理解しきれていなかった当時の私には理解ができなかった。

実は妻にとって私の意見が重要なのではなく、私と相談しながら楽しくウィンドウショッピングがしたいだけ なのだと知るのは、ずっと後の話だ。

当時は、そんなことは知る由もないから、超高級ジュエリー店で値段も見ず無邪気に

妻「これ素敵じゃない?

なんて話を振られると、これが欲しいと言い出すんじゃないかと、ヒヤヒヤしていたものだ。


そんなこんなで、超高級ブランド店から名もなき小さなお店まで、少なくとも20か所以上のお店を見てまわったのではないかと思う。

これだけ多くのお店で、店員さんからまるで千本ノックのようにダイヤモンドについて説明を受けると、少しづつ私にも その違いが分かる ようになった。

どれも同じようにしか見えなかった 透明な石 が違って見えてくるのだ。
確かに高価なダイヤモンドは綺麗に見えた。

そして、同じように目が肥えた妻が候補として選んだ指輪は、どれも前に伝えた予算からはほど遠く、結局のところ 桁が1つ違う値段 のものばかりだった。。

(まじか・・・)

もう半年も続く赤字生活に、トドメを刺すような金額だ。。

妻「この中から決めていい?

私は歯を食いしばって首をタテに振り、その候補の中から 本当に綺麗だと思えるダイヤモンド の指輪を選んだ。

それまでコツコツと貯金してきて、こんな容赦ないリクエストを何とか受け入れることができた自分を褒めてやりたかった。


今でも妻は友達に婚約指輪を見せて、すごい綺麗だと褒められると、

妻「ひでくんが選んでくれたのー。

と無邪気に話す。

まぁ、確かに最後は私が選んだ指輪なのだが、予定していない大きな出費に、この頃は幾度となく空を見上げ溜め息をついていた。

そして、結婚に向けた準備は、その後も予定外の方向にしか進まないとは、この時は全く想像できなかった。

続きを読む → 第12話:義父の乱
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