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【連載エッセイ】悪妻のススメ(第1話 : 出逢い)

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何を隠そう妻との出逢いは「マッチングアプリ」である。

結婚なんて男にとっては何のメリットもない。

そう考えていた私は、20代の頃は結婚を考えたことなど一度もなかった。

だから結婚して家庭を築いていく周りの友人や知人たちを横目に、私は30才を過ぎても悠々自適な独身生活を送っていた。

しかし、30代の半ばを過ぎると独身生活にも飽きてきて、家族のいる生活ってどんな感じなのだろう?と結婚という未知の世界への好奇心が芽生えてしまった。

そうして私は新たな出逢いを求めて、ありとあらゆる合コン婚活イベントに足を運ぶようになる。

いわゆる「婚活」である。


当時は今ほど世に普及してないかった「マッチングアプリ」を使い始めたのもその一環だった。

アプリの中で少しでも気になる人がいると、手当たりしだいに好意を示すハートを送る。

まだ見ぬ人と当たり障りのないメッセージのやりとりをする。

妻もそんな中の一人だった。

婚活というのは、長くやればやるほど迷走する。
出逢いの数が増えるほど、自分が結婚相手に求めることが分からなくなっていく。

次に出逢う人こそ運命の人かも知れないっ!

そんな淡い期待を抱きながら、いつまでも一人の人に決めきれずにいた。

そして、毎年のように年の瀬になると、

今年もたくさんの女性と出逢ったけど、現実は何も変わってないな・・・

と言って、男友達と忘年会をする。

いわゆる「婚活難民」だった。


そんな状況だから、妻と知り合ったときも

ビビっときた!
これは運命の出逢いかも知れない!

なんてことは全く感じなかった。

初めて会う日まで、アプリのプロフィール欄に書いてあった「職業:弁護士(べんごし)」を「職業:介護士(かいごし)」と読み間違えて記憶していたくらい、いい加減なものだった。

そんな出逢いが後に結婚に繋がるのだから、人生は本当に分からない。

しかも私はマッチングアプリをあまり信用していなかった。

アプリの中のプロフィールや写真などはいくらでも盛れるし、そもそも事実かどうかも分からない。

きっと婚活が目的じゃない人だってたくさん使っているだろう。

それに写真の見た目と、年齢や年収や身長などの属性だけで人を選別するなんて、本当のところは何も分からないよな〜と思っていた。

だから会える人とは、とにかく会って話してみよう。

アプリの中でメッセージを2〜3回すると、すぐに「今度ご飯でも行きせんか?」と誘うのが定番だった。

そこに深い思いはなく、まるで営業マンが商談のアポをとるような定型的な作業だった。


私「今度ご飯でも行きませんか?

私はいつもと同じように決まりきったメッセージを妻に送った。

妻「いいですよ。いつにします?それとアプリでのやりとりは面倒なのでLINEにしませんか?

私「(え!?もうLINE交換?)あ、はい。お店は予約しますので、有楽町のソニービルの前の待ち合わせでいいですか?

妻「現地のお店で待ち合わせにしましょう。

私「あ、はい。(まぁ、現地の方が楽だけど・・・)

今思えば、このやりとりから悪妻の片鱗はあった。

おわかりだろうか?

一般的な女性は、男性が会話をリードすると、はじめは従順な振りをして、可愛らしく応えるものだ。

ところが妻の場合、必ず返事に「合理的な提案」が付いてくる。

何か違和感はあったものの、本来マメでない私にとっては、余計なやりとりが省略できて楽に感じた。


初めて妻と対面したのは、食べログを見て私が予約した銀座にある小洒落た和食料理のお店だった。

土曜の午後1時の待ち合わせに、妻は少し遅れてきた。

そして私の話をまるで法律相談をするかのように少し食い気味に「うん、うん、うん、うん」と頷いて聞いていた。

ちゃんと人の話を聞いてるのかな・・・

妻の性格を良く知った今では、このリアクションをするとき妻の心情が良くわかる。

その話の結論はわかったから、次っ!次っ!

急かしているのだ。あのときの私には、そんな事を知る由もなかった。

この日は食事をしながら2時間くらい他愛もない話をしてお別れした。

この日、分かったことと言えば、帰り際に一瞬見せた妻の笑顔に、きっと悪い人ではないだろうということくらいだった。


その後も何度かLINEでやりとりをし、

私「とても評判の良いお店があって、2ヶ月くらい先の予約しか取れないのですが、良ければ行きませんか?

と誘うと、私は約束の日が近づくまで妻に連絡することはなかった。

よく考えれば、こんなズボラな対応をしていて婚活が上手くいくはずがない

婚活において少し連絡を怠ると、大抵は都合が悪くなったり、距離を置かれたりして、そのまま音沙汰が無くなることが多かった。

それはそうだ。女性だって皆、真剣に婚活している。自分のことを放置するような男に構っている暇はない。

気づけば約束の日が近づき、もしかすると返事はないかもと思いながら、久しぶりに妻のLINEにメッセージを送った。

私「そろそろ約束の日ですが、ご都合はいかがでしょうか?

妻「大丈夫です。現地のお店で待ち合わせしましょう。

妻は2ヶ月前の約束をしっかりと覚えていて、やはり「合理的な提案」が付いた心良い返事が返ってきた。

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