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木漏れ日の光のなかで読む本の愛おしさ│夏が来るまでの密かな習慣

心地がいい。朝起きて窓を開ける瞬間。太陽の光を浴びても不快じゃない最適な温度。目の前に飛び込んでくる深い深い緑の葉。

「私はいま、最高に心地がいいんだ」と行き交う人たちに言いふらしながら駆け回りたくなる、そんな気分だ。

瑞々しい緑が嬉々として一斉に顔を出す5月。

1年で1番好きな、5月。桜の華やかな雰囲気やGWの浮き立つ空気を終えて、静けさを取り戻す頃。静かで心地がいい空気に、溢れんばかりの新緑が目に飛び込む。暑い暑い夏が始まるまでのほんのひととき。どうか少しでも長くこんな心地いい日々が続きますように、と静かに祈る。祈りたくなる、私にとって大好きで、私らしくいられる季節だ。

今日も仕事を抜け出し、散歩に出かける。いつも通る道の、なんでもないマンションの庭にツツジが満開に咲いている。木々が揺れて、そっと視界に入る。「今日は散歩日和だ」とひとりでに呟きながら、前へ前へ歩く。

太陽の光によってキラキラと輝く。瑞々しく透き通る緑のシャワー

そうしてたどり着くのは、いつも立ち寄る近所の公園。今日は本を持参したのだ。心地のいい空気の中で読書を楽しむために。ひとり部屋で本を読むのも好きだけれど、自然のなかで本を読む幸福といったら、何にも代えがたい。鳥の声や周囲の人の騒ぐ声を遠巻きに聞きながら、ただ目の前の活字に目を向ける。

瞬間瞬間で変わる木漏れ日の光を眺めながら、文字に目を通す幸福。

そして、文字を追っているとあることに気づく。本が揺れているのだ。厳密にいえば、私の頭上にある木々が風に揺れていて、その葉の間から木漏れ日が差し込んでいて、それが私の本を照らしている、ということなのだけど。

本がさらさらと目の前で揺れている感覚を味わう。軽やかな空気感とともに、本の世界と自然のなかに溶け込んでいる感覚。光が照らされたり、隠れたり。自然は動いている。忙しない生活のなかにいると気づけないけれど、自然のなかにいれば痛感する。静かにひっそりと、動いている。

木漏れ日だからこその明るさと気持ちよさ。電気では味わえないこの幸福をどのように言葉にしたらいいのだろうか。

そうやって、私は何分間も、木漏れ日の光のなかで本を読み続ける。平日の昼間にこんな時間を持てることに少しの罪悪感を覚えるけれど、私がしたい時間の使い方をしているのだからいいのだ、と誰に言われているわけでもないのに言い訳をして。こんな心地いい空気がずっと続けばいいのに、とまた静かに祈る。

木漏れ日の光のなかで本を読む幸福を、どのように言葉で表現したらいいのだろう。まったく表現できていないようなもどかしさを感じながら、ここまで書き綴ってみている。言葉に表現できないからこそ、その空気をその空気であるがままに記憶しておけるのだろうか。忘れないぞ、と目に焼き付けておけるのだろうか。そうであったら、無理に言葉にしなくてもいいか。

外に出るのも嫌になるような夏が来るまでの、私だけの密かな習慣。1日でも長くこんな習慣を愛せますように、と願わずにはいられない。

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