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企業倫理とは何か :規範編

社会的規範を遵守する企業経営は、消費者に安心感を与えます。また法的拘束ではなく、自主的自発的行動という視点からも、企業の経営方針が社会に向けて公にされ、また社会が企業を評価する大切な要素です。

しかし、社会的規範を重要視することで利潤機会を失う可能性はあります。その反面、利潤の最大化を断念して社会的規範を重んじた行動によって、逆に企業が再評価されるケースもあります。

例えば、1985年か ら1992年までに松下電器によって約15万台販売されたFF式石油温風機による一酸化炭素中毒事故に伴うリコールはその一例です。

同社は新聞広告やテレビコマーシャルを使った大々的な告知活動と徹底した製品回収を行いました。それに伴うコストは、総額数百億円と言われています。2006年の松下電器の予算には、249億円の対策費が計上されました。この予算配分からも同社の社会的責任の自覚の強さがわかります。

同社の決断は、企業経営の第一義である最大限の利潤を上げるといった経営目的とは正反対の行為であり、高額な損失と利潤最大化の機会を企業自ら放棄しました。こうした決断は、企業存続の危機に見舞われるリスクを伴なう決断です。

結果として、この決断は社会的に評価されました。日本ブランド戦略研究所が行った「企業・機関の事件・事故に対する消費者の意識調査」によると、昨今の事件や事故のあとの対応で、最も評価が出来る企業は松下電器産業のFF式石油暖房機の対応であることが明らかになりました。

しかし、もしこの決断と行動を以ってしても、社会的非難が絶えず不買運動や更なる企業イメージの低下を招いたならば、市場マーケットを完全に失い、最悪の場合、倒産に追い込まれていたかもしれません。この企業の場合の倒産とは、世界にある子会社も含めると約28万5千人ともいわれている社員とその家族を路頭に迷わせることを意味します。

もしこうしたことが現実になっていれば、この企業の決断が果たして「100%正しかった」と言えるかは難しいところです。このように考えれば、社会的規範は結果が全てであり、それまでのプロセスやその背後にある倫理的思いというのは、あまり評価の対象にはならない場合もあることがわかります。


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