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帰結主義と非帰結主義

規範を問う倫理学には帰結主義と非帰結主義に分かれます。

帰結主義とは、行為の結果や効果といった結論から問題の原因を探していくといった方法です。一方、非帰結主義は行為や効果が起こる以前のそれに至るまでの動機や合意を考えます。

例えば、加工肉を製造する企業が「牛肉100%」と表示して混合肉を売っていることを知った従業員が「倫理的に間違っている」と感じている場合を考えてみましょう。正義感と義務感から偽装表示は悪い行為だと従業員が思ったとしても、その不正を上司や公に上告し止めさせることができなければ、結果としてその従業員は偽造肉の販売を容認したことになります。結果が伴わない以上、従業員は倫理的に正しい決断を下した行為をしてないとするのが帰結主義です。つまり、「不正を止めさせた」という結果があってはじめて、従業員は倫理的に正しい行為を実践したことになります。

一方、非帰結主義は、行為や効果に先立つ行動そのものを「正しい」とみなします。不正を行っていることを上司や公に報告し、企業の不正を暴こうと努力したにもかかわらず、偽造肉を販売することを企業にやめさせることができなかったとしても、従業員の行為を無意味とはせず、むしろ解雇を覚悟で企業の不正を止めさせようとした決断は倫理的に正しい行為と考える立場が非帰結主義です。

この2つのアプローチには、社会契約説的な要素も加わると更に違った見方ができます。例えば、その従業員がアルバイトスタッフであれば、どういう行為をとろうが特に大きな非難も浴びないかもしれませんが、食品衛生管理に関係する資格を持っていた人が従業員ならば、社会的合意の観点からその人は避難される可能性もあります。そればかりか資格を持っていたということから法的な責任を問われることになるかもしれません。

このように、同じ行為や結果であっても当該者の社会的立場や社会的契約内容次第では倫理観の評価や正当性は大きく違ってきます。これは行為や効果の帰結には関係ないことから、一種の非帰結アプローチと考えても良いでしょう。こうしたことからも、企業倫理の方針や意思決定に評価を下すにあたり、どういった立場で状況に対応するかで評価がかわってくるということがわかります。


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