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詩です
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ゆられぎ

ゆられぎ


つかれた吐息が
ゆれている
踏みしめた泥と
あしのした
から
私はたしかにその瞬間
髪の先まで張りつめてすぐに

ぐらっと!

ゆれてゆらいでゆられいで
ゆらゆられいでゆるられぎ
ゆらるゆらるぎるらるら
りらるぎ
りり

……
……

沈黙のあと、
短いクラクションの音がした。
ずっと立ち止まっていたのだ、
交差点の端で。

あぶないよ

おしえてくれて、
ありがとう。
ありがとう。
ろく

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アストロノート

アストロノート

むかしむかし
ひとりぼっちがさみしくて
時空をゆがめ
亜光速をこえて
虹の輪をくぐりぬけた
そのむこうがわを
見にいったことがある

だからもういちどつくったんだ
宇宙の終わりは
河原からみる夕焼けに似ていた

「‌ ‌ ‌ ‌ ‌」

「‌ ‌ ‌ ‌ ‌」



見えない
はいいろの
つめたい靄に隔てられて
見えないはずの山が
わたしに「 」と言った

聞こえるはずのない声を聞くたびに
私はきっと
だれも知らない生きものになってしまった

しずかに項垂れて
それからは
ただ
ゆっくりと
眠りにおちるのだ
本能のままに

日曜日

日曜日

ベッドから
ものが落ちる音が好きだ
読みもしないのに枕元に置いた本が
ずるりずるりと
這いずって逃げていく

安易に落胆するのが好きだ
窓辺の蝿取蜘蛛が
じっと狙いを定めている
昨日見た夢も忘れてしまったので
くりかえされるだけの日曜日

夏蜜柑

夏蜜柑

「なにがおかしいのよ」
まる裸の夏蜜柑が言った。
ひと房口に含むと、
ぐじゅり
もう何も聞こえなくなった。

なにがと言われても、
おまえ以外のすべての夏が、
という他ない。
かぐわしい精油の香り、
ぽろぽろ崩れる金の粒。

あとは白くひかる遠くの街と、
渦をまく蚊柱、
乾いた乱杙歯、
なにかのしっぽ
だけが。

こんなにすずしくて、
誰からも望まれて、
お前は幸せだよ、と
夏蜜柑に言ってみた。

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おそろしきもの

おそろしきもの

夏は夜。
窓をほそく開けると、
鼻の奥に
甘い山ゆり、
湿った苔と月の光、そして
しんと冷えた墨汁を混ぜた、
闇がながれこんでくる。
ねむれねむれと囁かれても、
頭は冴えてゆくばかり。
そり、と頬に怖気がはしって、
もう二度と
もとの世界に戻れまいと思う。

夏

夏というのは
とかくつまらぬ。
汗は風にさらわれ消えて
蝉の声
頭を垂れる向日葵
がたん、ごとん、列車の音と
ぐわしゃ
取り落としたガラス瓶の
そのあざやかな、
青だけ。

エコロジー

エコロジー

小さな幸福を
乱獲するように生きております

こともあろうに
「もっと早くにこうしておけば」と
思いながら

すべてが身に過ぎたる日々だからこそ
使い果たす時を想像したくないのです
無為にふくらむ影絵のようにおもわれて
思わず叫びたくなるような

その瞬間を!

そのおそろしさを誤魔化すために
今日も世界をむさぼりました

地獄

地獄

冷蔵庫の野菜室で、地獄を飼っている。
私が着けた名である。
地獄は何よりも赤く、
ぼこぼこと湧き出す液状の固体である。

私は考える。
これは路地に垂らした鼻血であり、
子供の皮膚から滲んだ血膿であり、
チフスに罹った兵士の下血であり、
堕胎を繰り返した女の真っ黒な血、
なのかもしれないと。

地獄は今日もぼこぼこと湧いている。
そうしてなぜか、
私が先週買ってきた一袋のモヤシを、
今日も新鮮なま

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ノック

ノック

こん
こん
こん
はあい
がちゃり

こつぜんと
白いかべ
ぐちゃっと
しみがついていて
あしもとに
ぬるくひろがる
まあるいまるい
血溜りと、
潰れた子犬。

夏_20220828

まったくもって、
口ほどにもない夏であった。

仕事もなく、
金もなく、
さして気にすることもなく、
ユリの花はいつも美しく、
ハグロトンボの背は青く、
山の麓に身を切るような緑が茂り、
わたしはそれらをただ愛でて歩いて、
安酒を呷って眠っていた。
いつでも蝉が鳴いていたことは知っているが、そんなことよりヒグラシの鳴き声の方が私の焦燥感を煽った。
玉ほどの汗も何度かかいた気がするが、理由のない冷や

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