夏_20220828

まったくもって、
口ほどにもない夏であった。

仕事もなく、
金もなく、
さして気にすることもなく、
ユリの花はいつも美しく、
ハグロトンボの背は青く、
山の麓に身を切るような緑が茂り、
わたしはそれらをただ愛でて歩いて、
安酒を呷って眠っていた。
いつでも蝉が鳴いていたことは知っているが、そんなことよりヒグラシの鳴き声の方が私の焦燥感を煽った。
玉ほどの汗も何度かかいた気がするが、理由のない冷や汗の方が多かった気がする。
諦めようとしたことは意外にも今までより少なかった割に、星の数ほども怒られた。
幾度涙を流したとて朝日は毎日昇り、
ユリの花はいつも美しかった。

要するに、
口ほどにもなかった
とは単に私の虚勢であって、
実のところは
何も無かったうえに、
ろくでもなかった。
ということの言い換えなのである。

短いズボンから生やした足は、
もはや総毛立っている。
もうすぐ秋が来るのだという。
性懲りもなく。

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