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FUNNY DANCE

 木枯らしが吹き、冬が駆け足で近付いてまいりました。卒業式の日、本当はちょっとやりたかった答辞みたいなものを読みたいと思います。

 高校生活を振り返ると、本当にいろいろな日々が思い出されます。
 数学のテストで100点満点を取ったこと。その次のテストで8点を取って、あまりの落差に担任から呼び出されたこと。
 修学旅行で行った沖縄の、海が見える宿で、友だちが YUI の『SUMMER SONG』をギターで弾いてくれたこと。それをふたりで歌ったこと。
 チアダンス部で全国大会に出場し、幕張メッセで演技をしたこと。同じ高校の野球部だった兄の引退試合を、チアの衣装を着て応援したこと。

 「これ、ドラマのワンシーンじゃん」と思う瞬間がいくつもあって、きっとあの校舎で過ごした誰もがそうでした。
 取るに足らない出来事が、自分にだけ起きた奇跡のように見えたのです。

 「たった3年で、人生は変わる」。
 高校一年生の頃に放映されていた、ドコモのCMのキャッチコピーです(当時大人気だったワン・ダイレクションが出演してた)。
 私はこの言葉をなぜかずっと覚えていて、卒業式の日「あれってほんとだったんだ」と思いました。私の人生は、たった3年で大きく変わりました。
 体型とか、性格とか、洋服の趣味とか、変わったところはたくさんあるけれど、一番は変顔ができるようになったことだと思います。

 嫌われないように、目立たないように。そればかり考えて高校に入学した私は、そんな自意識のせいで変顔をすることができませんでした。
 キモいと思われたらどうしよう。変な笑われ方をしたらどうしよう。それがずっと不安だったのです。
 しかし部活やクラスの集合写真で、同級生たちはみんなひどい変顔をしている。すごい、みんなは嫌われるのが怖くないんだ。私にはできないや。
 そう思ってうまいこと変顔からは逃げていたのですが、ある日同じグループの子たちが言いました。
「変顔、練習しよう」。
駅前のマックで、限定メニューだったアップルパイとソフトクリームのパフェを食べながら、私は変顔の練習をしました。
「何を恥ずかしがってんの?」
「もっと、こう、だよ」
と、実践を交えながら、粘り強く変顔を指導してくれた彼女たち。それは長い道のりでした。気付けばとっくに日は沈んでいました。
 今考えるとかなり地獄なのですが、私はこの日から変顔ができるようになって、嫌われたくないと殻にこもっていた弱い自分から一歩踏み出せたような気がします。
 この日の写真が今でも残っていて、時々見返しています。本当に、ひどい顔。不細工で、キモくて、とてもいい顔。
 友だちにはすごく感謝しています。

 最後に、あの頃の私に伝えたいことがあります。
 今あなたは「自分のことを本当にわかってくれる人なんて、どこにもいない」と思っているかもしれません。
 学校へ行けば友だちはいるけれど、どこか居場所がないと感じている。
 だけどあの頃、私たちはきっとみんなそうだったのだと思います。孤独を抱えながら、その孤独を、矜持として、盾として掲げられる青さを持っていた。
 今なら隣にいたあの子の孤独を想像することができます。教室は見えない孤独の寄せ集めだったことを、あなたは大人になって知る。でも、それでいいのです。
 なぜならば、あの日の孤独が、今の私を作ったからです。

 高校生活、あなたは本当によくやりました。
 たしか卒業式で、本当の答辞を読んでいた子も言っていた気がするのですが、高校生に戻りたいとは全く思わないし、もう一回やりたいとも思いません。
 もう十分。2度もいらないくらい、いろんな思い出や感情がぎゅうぎゅうに詰まった3年間を過ごしました。
 思い出してつらくなることもあるけれど、時に鋭く、時にやわらかく光り、私を照らす、若くて脆い青春時代を送れたこと、とても幸運だったと思います。
 とはいえ、まだまだ若くて脆い。これからの私のますますの発展を祈って、答辞とさせていただきます。


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 こちらは、文学フリマで販売したはじめてのZINE『踊り場でおどる』に収録したエッセイです。

 また売るかわからないので、noteでも公開してみました。買ってくれた方、ありがとう。ちなみに各章のタイトルは、高校時代好きだった漫画をもじっています。

 ほかにも4篇あります。

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