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ネタバレ:「エブエブ」鑑賞

Filmarks転載(ネタバレ含む)
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前提として、この映画はあらゆる意味でバリアフリーではない。思いっきりふるいにかけられる感じなのに、主軸にあるのは普遍性の強いテーマというのが面白い。「目の前のことをコツコツと」とよく言うけれど、見えているものだけを追いかけることに必死になれば何だって複雑になってしまう。

これまで観てきた映画のマルチバースは体ごとジャンプして別の自分を見つけて一緒に戦っちゃったりするイメージ。それに対してこちらの表現はひたすらたった一人の精神の往来。エヴリンの「アジア人は感情を表に出さないの」というセリフが印象的だったが、アジアの中でも特に日本人である自分たちは肉体と精神に距離がある(だって踊るのを特別なことだと思っていちいち報告したりするじゃないですか)と常々感じてきたため、なんとなくその形式にも意味があるのかなと思った。そしてアジア人の親を持ち中華系アメリカ人として育った娘だけはアクセスが自由で体ごとジャンプしているように一瞬見えるが、変幻自在な姿によってそう錯覚させられただけかもしれない。

思いっきり変なことをするとバースジャンプできるという設定は、別ユニバースの自分全員が「未経験」な行動じゃないと意識(興味関心)を引き寄せられないからだろう。序盤で税務官への愛の告白が変なこととして認定されない場面があったが、おそらくソーセージユニバースの彼女が経験済みだったからだと想像できる。
なんていう適当考察はラストで一気にぶっ飛ばされた。愛の表現は何度繰り返されようとも常に新しく、おまけにどんな方法であろうと全くばかげた行為じゃないというメッセージがこれでもかというほどいっぺんにやってくる。一人残らずみんな連れてくぞって感じでアツかった。(ここまで来るとほとんど感覚麻痺)

人は共鳴によって感動するものだが、よく考えるとこれは一体何なんだろう。もしかしたら別ユニバースの自分と思いを通わせている瞬間なのでは?映画を観て笑ったり泣いたり、こうやって感情を震わせること自体がマルチバースの証拠だとしたら、それって結構おもしろい。
昔、ケン・ウィルバーを研究していた友人が「あなたが知を得たとき、宇宙全体が知を得たことになる」と言っていた。彼は数ヶ月後に亡くなり既にどこにもいないが、彼が教えてくれたアイディアは誰しもの潜在意識の中に元々あり、とても身近なものだった。これは理解できないものなんてこの世にあるのかという問いかけとも言える。
私は彼のことが結構好きだった。とにかく心を動かすものにもっとたくさん出会うべきだと思った。

可能性を考え出すときりがない。
私自身「あのときこうしていたら」という後悔はギャンブル以外ではあまり考えないタイプなので「選択を間違え続けて全てのユニバースの中で最も成功していない君」というパンチの効いたセリフに対して私のことだなと思いながらも気楽に受け止めた。むしろこんな自分が最もとは言わなくても割と成功してる方って言われるほうがガッカリでしょ。
だれかに「きみは最悪」と言われて「こんなはずじゃない、もっと良い自分がいるはずだ」と思えるのなら、そこからが本当の可能性の話だ。
ウェイモンドも「楽観的なのは無知ってことじゃない」と言っている。彼の戦い方は先を読むこと。過去の可能性ではなく常にこれからの可能性に備えている。誰かのマイナスな感情への予知(余地)。未知なるものへ地味に挑戦し続けてきた結果、ADHDエヴリンの衝動的拡大解釈によって愛へと着地する。(ここまで来るとほとんど事故)
たまに「平和主義最強」みたいな感想を見かけるけれど、多分そういうことじゃない。ウェイモンドは誰よりも敵に挑んできた部類の人間だ。

いろんな人生があり、あらゆる面において様々な違いを見せつけられる中で、共通することが何かを見つけられるか。視覚的な部分に集中していたけれど、聴覚に集中するとまた違う捉え方が見つかるのかもしれない。(音楽最高でした!)

個人的にglee俳優のハリーシャムjrが出ていてとても嬉しかったです。gleeはキャストたちのスキャンダルが多く悲しいこともたくさんあった作品。その中の一人がしっかり地道にキャリアを積んでオスカー最高賞の舞台に立っていることにとても感動した。この映画を知ったきかっけも彼のinstagramで、半年ほど前からずっとこの思い切りへんてこな映画をめちゃくちゃ楽しみにしていた。
コック帽の秘密が公にバレる瞬間は何度思い出しても笑える。

西村ツチカが描いた日本版ポスターがほしい。


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