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無目的なものの中にこそ、お客様それぞれに寄り添える価値がある。



世の中に、紙ってどれくらいの種類があるんだろう?」

そんな途方もない問いについて、ふと考えてみた。

ぼくらが普段生活の中で目にする紙はごくわずかでしかない。おそらく指で数えられる程度だと思う。

ノート
新聞

手紙
ハガキ
ティッシュ
トイレットペーパー

紙は生活のなかに溶け込んだ、ものすごく身近な存在ではあるが、そのほとんどを私たちは知らない。


そんな未知の紙への魅力と出会わせてくれるお店が名古屋にある。紙好きには言わずとしれた “ 紙の聖地 ”「紙の温度」。

看板 (1)

家庭紙の倉庫を改装しオープンした紙の温度
そこには、約20,000種類を超える世界各国の紙や紙製品が常備されている。


驚くことに、そのほとんどを社長みずから産地におもむき買い付けてきているということ。

紙の温度の花岡社長とは、展示会をきっかけに知り合った。
(ぼくからの一方的なアプローチでしたが…)
花岡社長はいつも、紙の「おもしろさ、うつくしさ、すばらしさ」を気さくに教えてくれる。

ぼくがこのnoteを書くきっかけになったのも、花岡社長との出会いがあったからだ。

今回は花岡社長にあらためて、「紙の温度」立ち上げについてや紙にまつわるアレコレをおうかがいしました。

花岡社長 (1)

紙の温度株式会社 社長 花岡成治さん


「紙の温度」の立ち上げ

花岡家の長男として生まれた花岡社長。

高校卒業後、東京へ行きたかったものの親戚一同の大反対を受けた。
祖母からは「お前は亡くなったおやじ(花岡社長の祖父)の生まれ変わりだ」と説得され、家業を手伝うことになった。

「当時は洋紙、家庭紙ともに半々くらい取り扱っていた。誰かがていねいに仕事を教えてくれるわけでもないから、右も左もわからない中、洋紙の配達のたびに紙の見本帳をあさっては、洋紙の勉強をしていた。」

子供の頃、先生からあだ名として花岡を文字って「はなかみや」と呼ばれ、鼻紙屋だけにはなるもんかと思っていたが、これからの流通の未来を考え、家庭紙に活路を見出していくことになる。

「当時はちり紙が主流だったから、今のようなティシュやトイレットペーパーという存在はなくて。ちょうど山陽スコット(のちに十條キンバリーと合併し、日本製紙クレシアとなる。)のトイレットペーパー のCMがはじめて流れるようなタイミングだった。」

当時から歯に衣着せぬ物言いで、なかなかの「あばれん坊」ぶりが有名だった花岡社長。メーカーや取引先とのやりとりの中で、さまざまな逸話を残している。

また、社員からも「また社長のご乱心だ。」とたびたび言われていたそう。

だが、全てに共通しているのは、徹底的な現場主義における先見の明。現状に甘んじることはせず、妥協しないということ。

それがいまの「紙の温度」にも生きている。

「家庭紙では全てやり尽くした。」
「紙問屋の存在は今後どうなっていくのか?」

そんなオモイをいだき、紙の温度の前身となるようなことをすこしづつはじめ、

「社員10人以内の会社で、紙以外には絶対に手を出さないこと」

を肝に命じ、

岐阜の美濃、京都の黒谷をまわったときに、和紙の魅力にひかれ、「紙の温度」をオープンすることとなった。

それは社長が、ちょうど50歳になったときのことだった。



「和紙の業界を変えてやろう。」と決めた。


「和紙の世界は斜陽産業だし、周りからもただの道楽だと言われた。だから、モデルのない中でどう成功させるのか?をとことんまで考えたし、逃げ道は一切なかった。」

そこで、大切にしたのはお客様の声だった。

「お客様の声は、常にメモしてすぐさがす。」
「見つかるまでとことんさがす。」

「そのためには、日本全国の和紙(機械漉きから高級品まで)はもちろん、アジアやヨーロッパ、世界各国、お客様の期待に答えられそうなものはとにかく取りそろえた。それが紙の温度のオリジナリティにつながり、お客様の価値へとつながった。」

「紙の温度は、お客様、産地、関係している方々、さまざまなつながりによって支えられてきたお店。」

だからこそ、誰からも愛されるようなお店になることができた。

友禅 (1)

きれいに並べられた色とりどりの友禅紙は圧巻。
お気に入りの一枚を見つける楽しさがある。


また、陳列方法や管理方法にもお客様への配慮がつまっている。
そこには、問屋時代の経験が生きているそう。

「通常、和紙のお店で一枚一枚にバーコードシールを貼って品番管理をしたり、ロケーション管理を正確に行なっているところはまずない。生産者も、何を作って何を売ったかなどを管理できているところはほとんどない。でも、お客様はいつ、どんなものを買ったのか、ちゃんと覚えていて、それをリピート購入したい。そのためにはしっかりとした管理体制の構築が必要。」

「システム構築にしても、すべて独自のシステムを導入している。でないとここまでの品揃えの実現はできなかった。」

まちまちではあるが、ほとんどの紙が四六版とよばれる(模造紙くらいの大きさ)サイズでの入荷となっている。そのサイズだけではお客様が買いづらいし、多くの種類を買うことができない。そのため、A4サイズにカットし、なおかつ1枚ずつ袋づめをして販売しているものもある。また、お客様の要望に合わせて買いやすいサイズで販売したり、店内には紙を購入後、セルフカットできる断裁コーナーも用意されている。

ラック (1)

店内に並べられている紙専用のラック。
すべて特注でつくってもらっているとのこと。


こういった積み重ねが、お客様への満足度の向上につながり、産地にとってみれば継続的に商品を購入してもらえることにつながる。



お客様に寄り添う価値を提案する。


「お客様の目的に合わせて適切な紙をご紹介する必要がある。それぞれに文化的・歴史的背景、気候・天候に基づいた商品特長が存在し、似たような紙でも一枚とておなじものは存在しない。」

そこには、心をこめてつくった生産者のオモイがある。

「産地の職人も今のままではいかんとがむしゃらに挑戦している人がいる。挑戦している人達はとにかく勉強している。」

「いい紙とは、記録と研究の積み重ねにより、再現性を高めていくことの中で、さらに良いものを作るという向上心と、何のために作るのか?を明確にすることで生まれる。」

「日本の文化として和紙を残していきたい。原料ひとつとっても楮(コウゾ)、三椏(ミツマタ)、雁皮(ガンピ)だけでなく、世界には面白い原料を使ったものもたくさんあるし、発想を変えていけばもっと可能性はひろがる。」

藍染展示 (1)

オリジナルで染めてもらっている藍染め紙。
いつも季節やテーマに合わせたディスプレイを施している。


テクノロジーの進化に伴い、素材としての紙の必要性を、生活のなかで感じることは少なくなってしまった。

しかし、だからこそ素材としての紙の価値を再認識できることもある。

特に、繊維どうしのからみあいによる、偶発的自然のなかで、つくられる手すき和紙は、現代においては無目的なものなのかもしれない。

でも、それは文化の継承であり、伝統を守ること。その紙を知ればしるほど無目的なものが輝きだす。無目的であるからこそお客様の創造性はひろがっていく。

そして、そこに価値を見出せるのは、お客様でしかないということ。

開店以来とにかくお客様の声を大切にしてきた花岡社長。

お客様の言葉を真摯に受け止めて、つねにお客様のためにを考え、お店づくりがなされている。そのために、ときには社員へ厳しい言葉をかけるときもあるが、愛をもってとことんまで話しあう。

それは社長の人柄にもにじみでている。


「千人に一人でもその価値が伝わればいい。」
そういって笑う花岡社長の笑顔はとても素敵だった。

きっとそこには、あなたにとっても特別な一枚があるだろう。

きっとある (1)

紙の温度が平成8年のときに年賀状としてつかったポスター。24年前の取扱アイテムはいまの約1/4しかない。


これからさきも“ 紙の聖地 ”「紙の温度」はみなさまにとっての「想庫で、創庫な、倉庫」として進化しつづける。


紙の温度株式会社
〒456-0031 愛知県名古屋市熱田区神宮二丁目11番26号
Tel:052-671-2110 Fax:052-671-2810
WEB https://www.kaminoondo.co.jp/
instagram https://www.instagram.com/kaminoondo/






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