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ウエディングドレス (創作)

【どこかにあるようなないようなそんな時間。
   完結してるようなしてないようなそんな短いお話】




なんで現地集合にするかな、とタケルの提案に不満をもちながら試着会の会場へ向かう。

「すみません、予約している高山といいますが」という私の言葉に、どことなくぎこちない笑顔をするお店の方に疑問を感じながらもついていくと。

「こちらの部屋でございます」と案内された扉を開けると、ウエディングドレスを着た人が?!

「え?!は?何やってるの?」と素っ頓狂な声が出て歩み寄るとそこにはタケルがいた。

「はぁ?!なんでタケルが着てるわけ?????ってか似合ってるのがむかつくんですけど」

そういう私の台詞にニヤニヤしながら、

「だろう、店員さんもお似合いですって言ってくれたんだよ。町田啓太みたいに素敵だからウエディングドレスも似合ってますよってさ」

「いやいや、それ真に受けない」と本人に向かって言ったあと「本当に申し訳ありません。すみません、何かこんなことになってしまってて」と平謝りし店員さんに頭を下げた。

「いえいえ大丈夫ですよ、今日は一組様のみで、それに事前に連絡をいただいておりましたので」そういう店員さんの説明にますますクエスチョンマークが頭に浮かんでいた。

改めてタケルの姿を見ると男なのに整った顔とすらっとしたシルエットで違和感を感じさせないところに妙に感心してしまった。危うく見とれてしまいそうになったところでタケルがドレスの裾をガバッとめくった瞬間「あぁぁ!」と足を指さし思わず叫んだ。

「ねぇその足!すね毛が綺麗になってる!昨日はそんなじゃなかったのに!」大胆にめくりあげたドレスからキュッと引き締まった足が出てきた。

「そりゃぁ夜に剃ったからな」そう言うとタケルの足はいっそう綺麗に見えるようになっていた。

「あのさ、どんだけ着る気満々なのよ」と思わず笑みがこぼれた。

あははとタケルが笑いながら「サキがこの前、自分の代わりにウエディングドレスを試着した男が目の前にいた夢を見たって言ってたろ。なんだそれって思ったけど、どこのどいつかわかんないってのが何か嫌だったんだよ。それで俺が代わりに着ようじゃないかって思ったわけさ。お店の方に相談したら今日は俺らだけだし、サイズも少し大きめがあるからって承諾してもらったんだ。」そんな理由でここまでしちゃう彼が面白くもあり少し呆れてもしまった。

「ほら今度はサキが試着する番だから。行って来いよ」そういわれ、お店の方の後をついていって試着室へ向かった。試着をしながら「本当にすみませんでした。なんかこんなことになってるなんて知らなくて、本当にお手数をおかけしてしまって」と謝っていたら店長さんが来て言った。

「謝る必要はありませんよ。高山様が最近結婚についてとても不安になっているようで笑顔が少なくなっていたことに吉永様が大変心配されていて、くだらないことだとわかっているけどこれで少しでも不安がぬぐえ笑顔になれるきっかけになれば、そうおっしゃってました。現に、先ほど高山様はとても素敵な笑顔で吉永様とお話しされていました。」そういわれると確かに結婚するんだと思えば思うほど不安を感じていた。一緒にいると楽しいし安心するし心地よい空気感だから結婚は嫌じゃないけど、未知の世界に踏み込む気がして不安だったのかもしれない。タケルに迷惑かけちゃうんじゃないかとか、私でいいのかなとか、ここにきてあれこれ考え始めて不安になっていた。それを私以上にタケルは感じていたということなんだ。

「最初詳しいお話をうかがう前は男性がウエディングドレスを試着なさるのはちょっと、と思っておりましたが、熱心にお話しされる吉永様に心を動かされました。それに実際に試着された姿を従業員が見て感嘆の声をあげておりました。こちらとしても貴重な体験をさせていただいた、そんな風に思っておりますので、高山様が気になさることではありませんよ。」

店長さんの言葉がとても優しく温かく、胸がいっぱいになっていた。鏡に映る自分がいつの間にか不安な顔から穏やかでいつもの自分に戻っていたように思えた。ドレスを着て試着室を出るとそこにはタキシードに着替えたタケルが待っていた。うっとりと見とれてしまうほどいい男すぎてこっちが照れてしまうほどだったが、負けじと自分のドレス姿をお披露目しようと駆け寄った。

「どう?私のドレス姿は?」と腰に手を当てちょっと生意気に言い放った。

「似合ってるよ、うん。マジで!最高だよ!」と言いながら突然私を持ち上げくるっと一回りすると、ぎゅっと抱きしめられた。

「これから色々と不安になることもあると思うけど、俺はいつでもそばに寄り添ってるから。一生守るなんて偉そうなことは言えないけど、それでもお互い頼り頼られいい関係で一緒に歩んでいきたい。」背中に回っていた手が私の肩をつかみ、タケルの顔が見えた。

「俺はこの先ずっとサキの味方でいたい、どんなことがあっても一緒に乗り越えたい。それにもっと甘えてくれていいんだから、苦しい時とか不安な時とか、言葉で伝えてくれて構わない。俺はそれぐらいなら受け止められる自信はあるからさ。」そんな風に言われてぽろぽろと涙がこぼれていた。こんなに自分のことを大事に思ってくれていたことを改めて知ることが出来て、私は幸せ者だとつくづく思った。

「私を見つけてくれて好きになってくれて、本当にありがとう。私いますっごく幸せでタケルのこと悔しいけどかなり好き」と最後は恥ずかしさで俯きながらしゃべると、タケルは笑いながら「悔しいけどって、ほんと負けず嫌いだよな。まっそういうところも好きだけど」とグッと引き寄せられたことに驚き、タケルの顔を見上げると同時に唇がふれた。

と同時に「わぁ」と小さな声が聞こえ従業員の方に見守られていたことに気づいた。

「あっすみません」と恥ずかしさで慌ててタケルから離れようとしたらドレスの裾を踏んづけ盛大にしりもちをつき、そしたらなんか可笑しくて大声で笑ってしまった。恥ずかしさと嬉しさと痛さで、もう感情がごちゃまぜだけど全部ひっくるめて幸せでいっぱいだった。目の前で心配そうにのぞき込むタケルの顔を見ながら、この人とならきっとこの先何があっても大丈夫だと何の根拠もないけど、そう確信した。


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