リアルタイム議席数推定シミュレーション
もしも今、ただちに衆院選や参院選が行われたとしたら、各政党は比例代表でどれだけの議席を得るポテンシャルを持っているのでしょうか。今回はその推移を一日きざみで計算し、追跡することを試みました。
政党支持率の平均
議席推定の出発点としたのは、世論の動向で公開している政党支持率の平均です。図1に全政党を含むものを、図2に10%未満の拡大版をそれぞれ示しました。
これらのグラフでは、時間的な解像度を引き上げるために、各社の世論調査を統合して平均をとっています。先月、産経新聞・FNNの世論調査の反映を再開したことにより、大手マスコミを網羅したものとなりました。
即時投票を想定した得票数の推定
政党支持率の平均をもとにして、比例代表の得票数を推定する方法を次に示します。ここからはしばしば「絶対得票率」という言葉が出てきますが、これは棄権者も含めた有権者全体のうち、何%の票を得たかということを意味します。日本の有権者はおよそ1億人なので、1%はおよそ100万票に相当します。
この方法によって得られた結果を以下に示しました。図3が全政党で、図4が1000万票未満を拡大したものです。
この得票数の推定は、あくまでその時点の政党支持率をもとにして行ったものであることに留意してください。実際の選挙では、公示日から特定の日数の選挙期間を経た後に投票日をむかえます。選挙期間中に各党の支持率は大きく動くため、それにともなって票の推定も変化していきます。
この推定では「その時点の支持率」を「その時点の得票数」に換算しているため、普段は「選挙運動なしでただちに投票した場合、各政党は比例代表で何票得るポテンシャルを持っているのか」という仮想的な数字が出ています。それはいわば、選挙のスタートラインで持っている票のようなもので、選挙期間が始まればここから票の開拓や争奪が始まるというわけです。
参院選の議席数推定
得票数を議席数に変換する計算はドント式というやり方で行われます。
ドント式
一例として、定数が10議席のとき、A党が600票、B党が380票、C党が300票、D党が200票を得た状況を考えてみましょう。
このときドント式ではA党について次のような計算を行います。
「除数」は「割る数」のことで、まず除数1の横にA党の得票数をそのまま書き込みます。除数2の横には得票数を2で割った結果を、除数3の横には得票数を3で割った結果を書き、以下、定数までこの計算を繰り返していきます。
B党、C党、D党についても同様の計算を行います。ここで定数は10議席としていたので、割った結果が大きい順に10人までを当選者とします。
当選者には赤い●で印をつけておきました。つまり政党名の下についた●の個数だけ、議席が得られるというわけです。A党は4議席、B党は3議席、C党は2議席、D党は1議席となりました。
計算結果
図3~4に示した得票数の推定を用いて、ドント式の計算を1日きざみで行った結果を次の図5に示しました。
また図6は、参院選の比例代表の定数50議席を、各政党で塗りつぶしていったグラフです。下から立憲、共産、れいわ、社民、国民、維新、みんな、参政、公明、自民の順に積み上げました。野党の議席は下から読んで、与党の議席は上から読めるようになっています。
得票数推定をもとにしているため、これもまた「その時点でただちに投票を行った場合、各政党は何議席得るポテンシャルを持っているのか」という仮想的なものとなっています。選挙期間が始まればここから変化することに留意してください。
衆院選の議席推定
衆院選の比例代表を扱う上では若干の仮定が必要です。それというのも、衆院選の比例は全国が11のブロックに分割されており、各党がそれぞれのブロックで獲得した票にもとづいて議席が決められていくからです。
比例ブロック
現在の比例ブロックの区割りと定数を以下に示しました。
それぞれの比例ブロックの定数は、最新の法改正によって変化しています。前回の第49回衆院選(2021年)は改正前の定数で行われましたが、次期衆院選の定数は改正後となります。
議席計算を行う上では、改正公職選挙法が施行された2022年12月28日をもって定数が変化したものとして扱いました。
票の分配
世論調査でわかる政党支持率は全国をまとめた数字であるため、それをもとにした得票数の推定も全国のものとなっています。衆院選の議席を求めるうえでは、これを比例ブロックごとに分配しなければなりません。
その分配には前回おこなわれた第49回衆院選(2021年)を参考としました。次の表5は、各政党が全国で得た票のうち、それぞれの比例ブロックの票が占める割合(%)です。
これは得票率とは異なる数字なので、誤解のないように説明を加えます。表5では、日本維新の会について、近畿ブロックの値を赤枠で示しました。これは、第49回衆院選(2021年)で維新が全国で得た805万0830票のうち、39.502%にあたる318万0219票が近畿ブロックのものであったことを意味します。つまりこの表では、それぞれの政党について横方向に各ブロックの値を足していくと100%となるわけです。
今回、比例ブロックに票を分配するのにあたっては、全国の得票数の推定がいかに変化しても、維新はそのうちの39.502%を近畿ブロックで得るという仮定をおきました。他の政党の他のブロックについても同様の扱いです。
ただし、参政党は初めて国政選挙に臨んだのが第26回参院選(2022年)であるため、代わりに第26回参院選(2022年)の票を衆院選の比例ブロックごとに集計したものを用いました。
教育無償化を考える会は国政選挙を経験していないため、近畿ブロックの得票率が他のブロックの2倍になるように個別に定めました。これは近畿に地盤を持つ政治家が多く所属することにもとづく仮定ですが、2倍というのはあくまで適当な値であり、正しくは今後の選挙を経たうえで決められるものです。教育無償化を考える会の現在の得票数の推定は現時点では小さいため、このことによる議席推定への影響は最大で1程度になると見込まれます。
また、みんなでつくる党も国政選挙を経験していないものの、前身政党にあたるNHK党の第49回衆院選(2021年)の値を対応させています。
計算結果
以上をふまえてドント式の計算を1日きざみで行った結果を次の図8に示しました。
衆院選の比例代表の定数176議席を積み上げた結果も示します。個別の比例ブロックは後ほど一つづつ見ていきます。
前回選挙を再現できるか
第49回衆院選(2021年)と第26回参院選(2022年)の投票日当日における議席数推定と、実際の選挙結果をまとめました。差がプラスのものは議席数推定のほうが過剰で、マイナスのものは過小となっています。
第49回衆院選(2021年)で維新の推定が大きく外れたのは、このときの維新の選挙ブースト(選挙期間中におきる政党支持率の急激な上昇)が過去10年間で特に大きかった影響によるものです。自民、立憲、国民、れいわが過小評価されたのは、維新に圧迫されたためといえそうです。
一つの選挙がその先の形勢を変える
詳しくは続編の記事でとりあげますが、大きな選挙が行われると政党支持率は動くので、議席数推定も劇的に変化します。その例として、図8から立憲民主党を抜き出したものを以下に示しました。立憲が全勝した衆院3補選(今年4月28日)に前後して、衆院選の比例代表で推定される議席が36から45まで伸びていることがうかがえます。
衆院3補選の結果は、それだけで立憲の議席を衆院選の比例で9つ伸ばすインパクトがあったのです。比例でこれだけの議席が動くなら、接戦の小選挙区ではその2倍、3倍が動いても不思議ではありません。衆院3補選を制したことで、立憲は次期衆院選の負担を大きく軽減したわけです。
ここぞという時に力を振り絞ることで次の選挙の形勢は大きく変化します。一つの選挙を闘うことは、その先に続く未来の選挙を変えていくことにつながります。そうしたことを念頭に置いて、いま行われている選挙と向き合っていくことには大きな意味があるのではないでしょうか。
ここからは、参院選と衆院選の議席推定について、政党ごとに分解したグラフを掲載しています。衆院選については全政党・全比例ブロックのグラフも示しました。全文公開の形でなくて申し訳ありませんが、これを作るのはかなり大変なので、見ていただけたらとても嬉しいです。
みちしるべでは様々なデータの検討を通じて、今の社会はどのように見えるのか、何をすれば変わるのかといったことを模索していきます。今後も様々な発見を共有できるように取り組んでいくので、応援していただけたら幸いです。