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【日経新聞から学ぶ】もしも、日本の長期金利の水準が適正となったら、日銀はすでに実質債務超過か?

1.日銀に抑え込まれている長期金利

世界の中央銀行が利上げを行っており、長期金利が上昇するなか、日銀だけは「異次元」の存在になっています。日銀だけが頑なに金利を抑え込んでいる。しかし、そのひずみは大きくなってきています。

日経新聞に「日銀支配の終幕は突然に 国債、たまる需給のひずみ」という記事がありました。その中に以下のような記述があります。

米ゴールドマン・サックスは実質成長率や物価、世界の金利動向などを加味して、日本の金利の「適正な」水準をはじいている。8月時点では0.61%があるべき金利で、市場で付いている金利よりも0.4%ほど高い。

(出典:日経新聞2022年9月5日
(出典:日経新聞2022年9月5日

もし、ゴールドマン・サックスが試算している0.61%が適正だとすると、日銀が意図的に抑え込んでいる分は0.4%となります。この0.4%分が日本の抱える「歪み」ということになります。

この「歪み」に海外の投機筋からの日本国債の売りがかけられています。ピークは今年の6月だったようですが、まだ売りが残っています。

(出典:日経新聞2022年9月5日

海外からの投機筋の日本国債売り、そして、何よりも世界の中央銀行の利上げの連続から、日銀が金融政策の変更を迫られてきているといえるかもしれません。

2.もしも、適正金利になったとしたら

もしも、ゴールドマン・サックスがいう0.61%が適正で、0.4%金利が上昇したら、日銀はどうなるか?を考えてみます。

(国債の下落時に日銀の資産状況から損失を考えることについての詳しい記事はこちらにもありますので、参照してください。)

①日銀が保有する国債残高
日銀の国債保有残高は、日銀毎旬報告で確認することができます。

令和4年8月31日現在 
547,608,818,912千円
(参照:日銀毎旬報告令和4年8月31日現在

②国債評価の下落率=国債残高×デュレーション×金利上昇幅
国債残価547兆円×デュレーション9年×金利上昇幅0.4%=19兆6920億円

③日銀の純資産
引当金勘定7,700,573,165千円+資本金100,000千円+準備金3,443,971,384
=11,144,644,549円(11兆1446億円)

もし、金利が適正水準に是正された場合、日銀は11兆1466億円の純資産に対して、19兆6920億円の含み損を抱えることになります。つまり、8兆5480億円の債務超過に陥るということです。

3.突然の金融政策変更の可能性

では、日銀の金融政策は変更されるのでしょうか。これは、非常に難しい問題です。上記のように金利が上昇すれば、日銀は実質債務超過となります。また、政府の利払いも上がります。したがって、簡単に上げることはできない。

そして、金融政策変更を予想することも非常に難しいのです。日銀が行っているイールドカーブコントロール(以下、YCC)は事前に修正を市場に織り込ませるのが非常に難しい政策です。YCCの放棄や修正を示唆した瞬間に、投資家からは国債の売りが殺到します。特に海外投機筋は一気に売りをかけてくると思われます。YCCは特定の利回りで国債価格を下支えしているので、その支えが無くなると、値下がりするのが確実だからです。

もし、こうなったら、YCCの枠組みの下では、投資家からの国債売りの買い手は日銀になっていきます。そうしないと、際限なく下落するからです。日銀の国債保有残高はさらに急激に膨らみ、日銀の意図を超えた緩和効果が生じてしまいます。日銀が国債を引き受けるということは、その分の支払代金が市場に出ていくので、金融市場には緩和効果が出てしまうのです。実態経済と比べて異常なほど金融が緩和された状態となり、インフレやバブルを引き起こしてしまいます。

それを避けるには、一切の宣言無しにYCCをやめるしか方法がありません。だから、動きを読まれないように日銀は動きます。そのため、予測が極めて難しいということなのです。

つまり、日銀がYCCを放棄するときは突然やってくるということです。
日銀と同じYCCを採用していたオーストラリア準備銀行は21年にYCCを突然放棄しました。結果、金利は急上昇しました。

長期金利操作、放棄で混乱 オーストラリアの総括に驚き
豪中銀は新型コロナウイルス禍で低迷した経済を下支えするため、2020年3月に政策金利を0.25%に引き下げ、3年物国債の利回りを政策金利と同じ水準に抑える目標を導入した。同年11月には過去最低となる0.1%への利下げと同時に3年金利の目標も0.1%に引き下げ、操作目標を達成するために国債を積極的に買い入れた。

21年に入ると世界経済が回復するとの見方から3年金利に上昇圧力がかかった。豪中銀は追加の国債購入に加えて投機的な空売りを防ぐため、投資家が豪中銀から国債を借りる手数料を引き上げ、ロウ総裁もYCCに対するコミットメントを強調した。その結果、3年物国債の利回りは再び0.1%近くの水準に落ち着いた。

だが、こうした姿勢も物価上昇の加速で揺らいだ。21年10月に発表された7~9月のコアインフレ率が2%を上回ると、早期の利上げ観測が強まり金利が急騰。豪中銀が翌日に国債購入を見送ると金利上昇はさらに加速し、3年物国債の利回りは一時0.7%を上回った。豪中銀は金利上昇を追認する形で11月にYCCを放棄した。

(出典:日経新聞2022年7月8日)
(オーストラリア3年物国債の利回り:出典/Trending Economics

日銀の金融政策も変更の時は突然に、そして、一旦変更となったら、金利の急上昇の可能性は十二分にあります。

4.これからの注目ポイント

次回、日銀の金融政策決定会合は9月21日から22日です。米FRBの政策決定会合は9月20日から21日です。

米FRBの方が1日早く始まります。そこで、0.75%の大幅利上げとの報道が出れば、日銀の金融政策変更へのプレッシャーがかかります。その時、海外投機筋は売りを加速させるはずです。

もし、日銀が金融政策を変更しなければ、米FRBの利上げによって、円安はさらに加速します。すると、輸入物価指数は上昇し、輸入インフレが加速することになります。

日本銀行法第二条に以下のことが書かれています。
「第二条 日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする」

果たして日銀はどう動くのか?これは、我々日本国民の財産の維持の大きな問題と言えることです。

しかし、現状では日銀は動けず、さらなる円安が続くというシナリオの可能性が高い気がします。ただ、問題の先送りはますます大きな爆弾を抱えることになります。

私たちは自己責任で自らの資産を守る必要があるのは間違いありません。預金は一部をスイスフランに移しました。

未来創造パートナー 宮野宏樹

自分が関心があることを多くの人にもシェアすることで、より広く世の中を動きを知っていただきたいと思い、執筆しております。もし、よろしければ、サポートお願いします!サポートしていただいたものは、より記事の質を上げるために使わせていただきますm(__)m