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駐妻記 タイサッカー

 TPL(タイプレミアリーグ)のサッカーを観戦したことがある。

 東南アジアの国々でもサッカーは盛んな競技だが、中でもタイはマレーシアと並んで強豪国だ。タイの選手はJリーグでも活躍している。しかし日本ではあまり知名度が高くないように思う。

 タイリーグの存在が良く知られるようになったのは、おそらく2019年に前日本代表監督であった西野朗監督がタイ代表とUー23タイ代表の指揮官を兼任する形で就任したことがきっかけではないかと思う。

 東南アジアでは強豪でも、アジアとなるとなかなか厳しくなり、W杯ではなかなか突破口を開けないタイ。日本サッカー殿堂入りを果たしている西野監督に並々ならぬ期待をかけているんだろうなと感じていた。

 それより数年前の2014、2015年頃には、日本人選手がこぞってタイリーグに移籍するという時代があった。今も日本人選手は何人も在籍しているが、当時ほどの勢いはないようだ。2015年には1部2部合わせると60人以上の日本の選手が在籍していたそうだ。

 つまり我々はタイの日本人選手黄金期(?)にタイにいたらしい。

 私が観戦したのは2012年頃で、ちょうどタイプレミアリーグがJリーグとパートナーシップ協定を結んだころだ。「TPL(タイプレミアリーグ)」は現在トヨタがメインスポンサーとなって「T1」と名称を変えているらしいが、タイサッカーリーグの1部に当たる。当然、2部(T2)もある。

 日本人選手が活躍する先駆けとなったのが、猿田浩得(さるた・ひろのり)選手だ。タイで選手として活躍したのち、2018年に引退していたらしい(知らずにいた。残念…)。

 ある日、以前「駐妻記」で紹介したフリーペーパー「DACO(ダコ)」で特集されていた記事を読んで、夫がどうしても観に行きたい、と言ったのがきっかけで、家族で猿田選手の出る試合を観に行くことにした。

 日程的に近々であったのは、サイアムの近くにあるスパチャラサイ国立競技場で行われる、パトゥムタニー県のチームとバンコクのチームの試合だった。バンコクにはもうひとつラジャマンガラ競技場という陸上競技兼用の国立スタジアムがある。どちらも比較的近い。

 パトゥムタニー県のチーム名は「バンコク・グラス(現:BGパトゥム・ユナイテッドFC)」。うさぎのマークがついていて、チームカラーは緑(アウェイカラー?)。スポンサーはLEOビール(現在のHPを確認したところ、うさぎのマークはどこへやら、レオビールのマークになっていた)。猿田選手はこの「バンコク・グラス」で主力選手として活躍していた。息子は当時園児だったので、彼は勝手に「うさぎさんチーム」と名付けていた。

 一方バンコクのチーム名は「テロ・サーサナ(現:ポリス・テロFC←どうやら現在はT2にいるらしい」。海賊のマークがついていてチームカラーは赤。スポンサーはタイの3チャンネルテレビ。息子は「かいぞくさんチーム」と呼んでいた。もしかしたら、J1のコンサドーレ札幌で活躍していた「タイのメッシ」、チャナティップ・ソングラシン選手がいたかもしれない時期だが、申し訳ない、相手チームだったし、猿田選手以外の選手をよく覚えていない。

 前年度の成績は、バンコク・グラスが5位、テロ・サーサナが8位。バンコクグラスは優勝経験がなく、テロサーサナは2回の優勝経験があったが、その時点での実力はほぼほぼ互角のチーム同士だった。

 バンコクのチームであるテロ・サーサナにとってはホームの試合で(たぶんホームスタジアムではなかったが)、日本の某埼玉県のチームや某茨城県のチームの試合のように、スタジアムがすべて紅に染まり応援も激しいのでは!と思ったのだが、バンコク・グラスのサポーターも大勢いて、盛り上がっていた。

 猿田選手目当てで出かけた我々はアウェイ側(バンコクっ子にはホーム側)のスタンドで観戦したのだが、外国人の我々にホームもアウェイもへったくれもない。急遽だったし自由席でいい席はなかったが、ふらりと出かけても大人1人120バーツ(350円程度)で、子供は無料という破格のチケット代。素晴らしい、と思わずつぶやいてしまった。

 国立競技場とはいえ、6000人規模の小さな競技場だ。こぢんまりしていたが、はじっこに座っても、ちゃんと試合を見ることができた。

 会場内は熱心な観戦者が多く、飲食をしながら、と言う人はあまり見当たらず、サポーターの白熱した応援以外は、みんな割と冷静で静かだった。しかしチームのプレイヤーがチャンスを逃すと「オーィ」(タイ人はワーとかキャーとか言わずオォーィと言う)と声があがる。その日は前半、あまりチャンスらしいチャンスがなかったので、大歓声よりも「オォーイ」ばかりがこだましていた。

 我が家はアウェイ側から一生懸命猿田選手がいる「うさぎさんチーム」の応援をしたが、試合は一方的な「かいぞくさんチーム」の優勢だった。

 猿田選手は160㎝台の小柄なストライカーで、あの暴虐ともいえる殺人的暑さの中で人一倍動き、素人の私が言うのも何だがプレーがテクニカルな感じで、とてもカッコよかった。

 最初は明るかった会場も次第に夜になったが、とにかく暑い。正直こればかりはたまらん、と思ってしまった。園児が眠くなってしまったので、前半が終わった時点で帰宅。電車で家に戻ってからテレビで後半の試合を見る贅沢を味わった(それだけ競技場が近い)。

 結果は「かいぞくさんチーム」のハットトリック勝ち。我々が応援していた「うさぎさんチーム」は負けてしまったが、それ以後夫の仕事が忙しくなり家族で試合を観に行けなくなってしまったので、いい経験だったと思う。

 つい先日の、西野監督がタイ代表のW杯アジア2次予選敗退を受けて解任されたというニュースは残念だった。それだけ、タイは代表の予選突破が悲願だったのだろう、と思う。たった一度の観戦だったが、あの蒸気があがっていそうなリアルな熱気を思い出すと、仕方がないのかもなぁ、と思ったりもする。

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