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命を守れ!〜【企画】感動した体験談〜


12月24日、
私は決して忘れない。


💠💠💠💠💠💠💠💠💠💠


私は銀行マンのおじさんが作った
新設の社会福祉法人
新設の特別養護老人ホーム
新卒でサービス提供責任者
生活相談員(ソーシャルワーカー)として
働き始めました。


あ、ショートステイの
サービス提供責任者兼
生活相談員もやっていました。


新卒が4兼務。


もう、めっちゃくちゃ。


私は社会福祉士の資格を
持っていましたが、
当時社会福祉士はとても珍しく、
市内に5人もいなかったそうです。



資格があるからというだけの理由で
責任者になったのです。

更に、
同僚の介護士は
理事の寮母長と
ホームヘルパーの経験がある
40代の女性、
ガソリンスタンドで働いていた
3歳年上の男性以外、新卒でした。



つまり、この3人以外は
社会人経験さえ
ありませんでした。


介護士さん達は専門卒または
短大卒だったので、
私より大部分が年下です。
19歳です。


その分、新卒介護士は全員が
国家資格である介護福祉士だという
当時としては資格所有率のみが
高い人員
でのスタートでした。


我々は人の命を預かります。


だから、開設前に
近隣施設で1ヶ月の実習
国家資格を取るために
学生時代に何度か実習
重ねた以外は
経験のない私たちは
大変怖がり、
それゆえに非常に熱心に
学んではいたかと思います。


新卒の介護士さんたちは
例外なく真面目で恐ろしく熱心、
心優しいのが救いでした。


開設後はじめての
12月。

クリスマスイブのことです。

毎月行う行事の中でも
もっとも盛大なクリスマス会は
翌日です。

何となく施設全体が
浮き足立った雰囲気が
ありました。

私はご入居前の方や
ショートステイを新規でご利用の方の
実態調査や契約で
ほとんど日中は外出しており、
夕礼前に帰所し、事務は夜中
23時ごろまで行っていました。

その日も夕方に帰所すると
すぐさま看護師さんに呼ばれて

救急車要請して」と言われました。

「はい?」

「Oさん。心肺停止
 今心マ(心臓マッサージ)と
人工呼吸してる」

すぐ状況を確認しに行きました。
Oさんは焼きそばを喉に
詰まらせたそうです。

どうしてこの時間に

普段2階が居室のOさんは
リハビリのために偶然
1階に行き、
偶然、介護士の目を盗んで
食堂へ行ったところ、
普段施錠してある食堂の鍵が
偶然開いていて、
普段何もないはずの食堂に
偶然1食、置き忘れてあったそうです。

よりによってそれが
偶然、誤嚥しやすい
麺類だったのです。

普段、救急車対応は
私の仕事なのですが、
その日は夕方、来客があったので
救急車要請のみ行い、
後のことは看護師さんに頼んで
接客に向かいました。

接客が終わって
Oさんが亡くなったことを
知りました。

防げたはずの事故です。

私の責任です。
責任者ですもの。

翌日、ご家族がいらっしゃって
状況をご説明すると

「おじいちゃんは最期に
 この施設にいられて
 本当に幸せでした。
 今まで怒ってばかりだったのに、
 入居してからいつも楽しそうでした。
 心から感謝していますよ。
 ありがとうね。」
と、仰いました。

違う!
本当は、防げたはずの
事故なんです!
私たちの完全なる
過失なんです!


施設を守るために
こんなことは言えませんでした。

後にも先にも
ご入居者が亡くなられて
私が泣いたのは
この時だけです。

私たちは
緊急会議を開きました。

調理室は施錠の2重チェックを
ルーチンにして、チェック表を
つけることにしました。

看護室はより吸引力の強い
吸引機を購入し
使い方の訓練。

そして、誤嚥された方の
対応を全員で再確認。


小さい身体の方は逆さ吊りにして
男性が持ち上げ
背中を叩き続けながら
下から吸引機で吸引する
その間、ずっと声かけ
諦めない。

💠💠💠💠💠💠💠💠💠💠

日々は過ぎたある日、
管理栄養士さんが
話しかけてきました。

「よう!お前さ、
 相談があるんだけど」

この管理栄養士さんは
私より3つ上の美人さん。
こちらも熱心で素晴らしい
人でした。

私が毎月給食会議をやって
ご入居者を参加させたい、と言うと
すぐに対応してくれ、

日によって朝はパンとご飯と
気分が変わるご入居者のことは
本来は事務手続きが大変なのですが、
「私たちだって、日によって
 食べたいものは違うよね」と
対応してくれました。

「施設も大分落ち着いたから
 そろそろバイキングを
 やりたい
って考えてるんだけど」

「それいいですね!
 皆さん喜びますよ!
 やりましょう!」

「やりい!お前さ〜
 やっぱすげえよな〜」

くるくるくる〜。
(回って踊っている音)

彼女は美人でしたが、
言葉遣いが男で
更にいつも突然踊り出す
変人でした。

私が合わせて踊っていると
「ははっ!
 やっぱりお前、変人だな‼︎」

どっちが‼︎

バイキングは
人手が要ります。
誤嚥を起こすかもしれません。
別の事故があるかもしれません。

私たちは
ボランティアさんを呼び、
何度も会議を開き
メニューをチェックし、
介護士さんの動線確認、
看護師さんの準備など
入念に行いました。

メニューについては
悩みました。
誤嚥しやすいものを
除去してしまうのは簡単です。

でも、我々は福祉従事者です。
ご入居者のADLよりも
QOLをより重視して高めるべき
当日、人の目や手を増やすことで
カバーすることにしました。

当日。

ボランティアさんへの説明後、
私が電話での取引先との
話を終えると、
介護士さんが呼びに来ました。

「相談員、ちょっと来て。
 Sさんが誤嚥した。」

すぐに現場に向かうと
99歳のSさんは逆さづりになって
背中を叩かれながら
口から看護師さんが
吸引を行っていました。

「Sさん、頑張って!」
叩いている介護士は
声をかけ続けていました。

私はすぐに
状況確認して救急車を呼び、
ボランティアさんの様子を見に行き
(その日、小学生のボランティアさんが
団体で来ていました)、
他のお年寄りが
動揺しないていないか確認してから
背中叩き役の介護士と代わろうとすると、

「いいよ、みおいちさん。
 私、頑張るから
 他の準備してて!」

目が真剣です、19歳。

そこで救急車同乗準備をして
戻りましたが、
まだ誤嚥物は取れません。

看護師さんは這うような
苦しい姿勢で
吸入し続けています。

口からは血が滴り落ちます。

他部署の看護師さんが来て
「チアノーゼ(顔面蒼白)出てるよ。
 ご高齢だし
 もうダメじゃない」
と仰る。

酷い。
ご本人に聞こえている
かもしれないのに。

介護士さんと代わり背中を叩きつつ
「Sさん、もうちょっと!頑張って!」と
声をかけます。

今ではどうだか
分かりませんが、
救急車というのは呼んでから
30分も来ないのが
普通でした。

酷い姿勢で吸入されている
看護師さんが言います。

「みおいちさ〜ん。
 救急車まだ〜?」

「もう少しです!
 何とか頑張ってください!」

「分かってるけど、なかなか
 取れないのよ〜」

「相談員!」
介護士さんが来て
「救急車到着しました」

それとほぼ同時に
「あ、取れた!」

詰まっていたのは
お刺身のマグロでした。

私は詰まっていたそのマグロを
紙に包み手に持ち、
小学生のボランティアさんの面倒を
寮母長にお願いし、
介護士さん達に後を頼み、
意識のないSさんと一緒に
救急車に乗り込み
協力病院へ急ぎました。

Sさんは息の出来ない時間が
比較的長かったので、
だいぶ心配でした。

車内で私が
Sさんの手をさすっていると
突然Sさんは咳込み
ゲホッと嘔吐されました。


「Sさん、大丈夫ですか?
 苦しくありませんか」

「すみません〜」

声が出ました‼︎

「よく頑張りましたね!
 これから病院へ行って
 見てもらいましょうね」

病院へ到着し、
状況を説明してマグロ片を見せてから
私は廊下で待っていると
暫くして呼ばれ、
お医者さんに言われました。

何ともありません
 良かったですね。
 喉のあたりが少し傷ついているけど
 問題ありません」

「皆さんの対応が早くて的確だったから
 助かったんですよ。
 あなた方の素晴らしい行いを
 誇りに思います」

Sさんは念のため
入院しましたが、
私がお見舞いに行くと
ものすごい速さで車いすを
自分で漕がれてやってきて

「みおいちさ〜ん。
 本当にありがとうございました〜。
 なむなむ〜」

いや、そんなに
手を合わせないで。
私まだ
死んでいませんって。



Sさんが逆さ吊りでも
99歳でも頑張られたこと。

介護士さんが会議で決めた通り
迅速に逆さ吊りにして背中を叩き続け
声をかけ続けたこと。

看護師さんが
すごく辛い体勢でも
諦めずに吸引し続けたこと。

みんなの頑張りが
一つの命を救いました。

後に小学生ボランティアさんから
お手紙を頂きました。



本当にありがとう、って。



あの時、みんなは小学
3年生だったかな。
怖いところを見せて
辛かったでしょう。
ごめんね。忘れられないでしょう。

だけど、
他のお年寄りを
動揺させないように
一生懸命
声かけしてくれました。


クリスマスイブに亡くなった
Oさんは帰って来ませんし、
後悔や罪悪感は
いつまでも私たちの心に
残り続けますが、

みんなみんな頑張って
一つの命を救いました。

専門家としては
当たり前のことかもしれません。

だけど、
これが私の人生で一番
感動したことです。


💠💠💠💠💠💠💠💠💠💠

こちらは日頃お世話になっている
マサ兄さんの企画の
応募記事です。

マサ兄さん、
素晴らしい企画を
ありがとうございます✨

長文でごめんなさい😅
皆さんも良かったらどうぞ。

#感動した体験談



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