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意外に迷信深い?日本のショービジネス

お祓い…ってしたことありますか? 私はないです。ていうか、音楽事務所に勤めてたころ、神社に向かう社員御一行さまに置いてけぼりをくらいました。

音楽事務所勤めっていったら、縁故かと思われたりして……? 昨日の未来ノートに、「才能が満ち溢れてる人以外は、自力でやらないほうがいい」なんて書いたので、「じゃあコネ?」とか疑われないよう、以前日本でしていたエンタメ関係のお仕事のことを今日はちょっと書いてみます。

自慢にならないけれど、コネで新規の仕事やチャンスを得たことは一度もありません。昨日言いたかったのは、「大賞を獲れば出版できる」とか、「優勝すればCDが出る」といった、勝率の僅かな、華やかなところばかり狙わないほうがいい、ということ。娘が小さい頃に勤めてたこの事務所も、Japan Timesという普通の英字新聞の求人広告から。外タレの音楽制作や通訳が、私の仕事でした。

代官山にあったこの事務所では、アメリカの音楽アーティスト以外に、ラスベガスのダンス・ショーも招聘していました。新しいショーがスタートして間もない頃、なぜだかダンサーに怪我が相次いだことがあったんです。担当外の私までが、度々夜のショータイム後に病院につき合わされたり、チームの混乱を整えるために楽屋にはりついたり……。そんなゴタゴタがやっと一段落したある夜、私は純粋にショーを鑑賞するため、新宿のヒルトンホテルにあったショーパブに向かいました。

ところが、ショーがクライマックスに差しかかった群舞のステージ上で、あるダンサーがふいにステージ袖に引っ込んでいったんです。非常事態と察した私は、そっと席を立ってステージ裏に急ぎました。

騒然となった一座の中心には、世にも奇妙な姿のダンサー。片方の腕が幽霊みたいにダラ〜ンと垂れ下がっています。肩の脱臼でした。チームの中では若手の彼女は、痛みよりもショックのほうが大きいみたいでした。

私はダンサーを落ち着かせようと、「私も小さい頃、肩を脱臼したことがあるの」と話しました。「その後母は、私に洋服の脱ぎ着をさせるのが怖かったんですって。肩が外れちゃいそうと思ったらしいわ」などと明るく励ましながら、タクシーで病院に向かいました。

ドクターによる処置が無事に終わり、ダンサーを宿舎に送り届けた深夜。猛然と怒りが湧いてきました。よりによって、またダンス・ショー担当の社員Tさんが帰宅してしまって現場にいない時に、怪我人が出た――。結局、とばっちりは部外者の私にばかり……。

翌朝、出社した私は社長に怒りをぶつけました。「なんで今回はこんなに怪我人が出るんでしょう? お祓いでもしたほうがいいんじゃないですか?!」

私より一回り年長の社長は、芸能界では「名マネージャー」の誉れが高い有名人。それでもアメリカ帰りのためか、社員には同じ目線で接するかたでした。不躾な私のいいがかりにも「おう、そうか」と素直に応じたかと思うと、あちこちにお祓いについて問い合わせの電話をかけ始めました。

程なく耳寄り情報を仕入れたらしい社長は、Tさんを含む私以外の社員を呼び集めました。「じゃあMくん(私の苗字)、留守番頼むな」と颯爽と言い残し、社員一行を引き連れてバタバタと出かけてしまったのです。

え?? ダンス・ショー担当じゃないからって、なぜ私だけ留守番?! 呆然と目を向けた窓の外は、うららかな行楽日和……。

「お祓い」と言ったのは、ほんのはずみというか、言葉のアヤ。なのに、本当に行っちゃうなんて……。「怒りに任せて暴言を吐くのは考えたほうがいい」と学んだ出来事でした――。

冒頭の写真は、来年2019年春に米 Supermoon Press から出版予定の、新進作家による短編コンピレーション YARNSWOGGLE の表紙見本。私の短編集 Hotel Fantasiaから4作が収録されます。

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