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調香師の仕事

調香師と聞いて、どんな仕事を思い浮かべるだろうか。多くの人が香水の調合をイメージするかもしれない。しかし実際の調香は石鹸やシャンプー、化粧品、洗剤など、カバー範囲が広く、香水はそのごく一部にすぎない。さらにお香やルームフレグランスなど、生活空間に取り入れる香りもあり、こうやって見渡すと身の回りには実に多くの香りの製品があり、その種類は日増ししている。一方で、調香の仕事が表にでる機会は依然として少ないし、その道を志すためのはっきりとした道筋もない。

日本で調香師として職を得る一般的な方法として、大学で化学を専攻したのち、香料、化粧品、洗剤などを扱うメーカーに研究職で採用され、そこから社内調香師としての訓練を積む、という道がある。香りの習得はOJTで、およそ10年かけて1000~2000に及ぶ香りを記憶し、識別するための長い下積み時代が始まる。しかし日本では調香師のポストや募集が非常に少ないと言われ、運良く就職が決まっても、必ずしもフレグランス部門に配属されるとは限らない。国内香料メーカーで扱われる8~9割の香料が食品向けで、食品の味(フレーバー)を専門にするフレーバーリストの方が圧倒的に多いためである。このことからも香水(パフューム)を扱う調香師であるパフューマーが稀有な存在であることがうかがえる。このルートでは企業での一社員としてのキャリア形成になるが、ほかにも独学して開業する、海外の調香学校で学ぶなどして調香師になる人もいる。

では香水の本場であり、自由と芸術の国フランスはどうだろうか。調香師達は独立した存在で自由闊達、思い思いの香りを創造しているのだろうか。現実にはフランスであっても調香師の多くは香料メーカーに所属する会社員で、そのポストを得るのは大変狭き門であるという。香りのプロフェッショナルを養成する専門、高等教育期間がいくつかあるが、そもそも就職口が少ないので学校数も多くない。フランスの複数のサイト(求職サイトや香水メーカーのブログ)によると、現在フランス国内で調香師として働いているのは100人程度、さらに大手ブランドの香水を手がけることができるのはその中でもほんの一握りだという。ただ今日では日仏含め世界中で、新しいメーカーや小規模ブランドが次々と誕生し、日々新作が発表されているので、少ない椅子を奪い合う以外の選択肢ができ初めているのかもしれない。


いずれにせよ、どこの国でどの道を通ったとしても、チャンスを掴むのは大変で、掴んだとしてもそのあとの道のりはもっと長い。前述した香料の学習のほか、芸術的感性や化学的知識はもちろん、顧客やチームの声を聞く協調性、粘り強く試作を重ねる忍耐力などが求められる。

今日は組織も個人も情報発信の時代で、香りに関する情報は一般にも届きやすくなっている。世界の主要な香料メーカーのSNSを見ると、各社共どのブランドのどの香水を手掛けたのかを積極的に発信しているだけでなく、担当した調香師についても明記されている。さらに調香師の多くも個人アカウントを開設しているので、その人の仕事ぶりやライフスタイルを垣間見ることができる。

前述のように沢山の資質が求められる職業だが、だからこそ情熱を持ち、才能溢れる人々が就く職業ではないかと思えてくる。写真で見る調香師たちの表情はみな、愛する仕事についている喜びや誇りに満ち、いきいきと輝いている。

今回インタビューに応じてくれたローランスからもそのような底抜けの明るさ、エネルギーがインタビュー中だけでなく、メールや書面のやりとりからも伝わってきた。ローランスへのインタビュー、関連記事はこちらから。

>>感性と化学を行き来する調香の世界:インタビュー Laurence Fanuel 
>>ローランスとの出会い 






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