誰かひとりが、その子に一目置いてくれたなら
講演録は①から⑤まで。⑤の質疑応答から読むのもおすすめ。
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西郷先生は言った「iPhoneってさあ」
ー西郷先生と出会ったのはいつ?
岡原:去年かな。西郷先生が出演していた「夢みる校長先生」と「夢みる小学校」を観た。本も読んだことがあったよ。別府に講演も聴きに行って、お話がとても良かったので出待ちして「一緒に写真を撮ってください」って頼んだ。周りの人たちは「もう車に乗りましょう」という雰囲気だったけど、西郷先生は「ああいいですよ」とかでもなくて「iPhoneってさあ」って言いながら私たちのほうに寄ってきたんよね。何にでも興味がある好奇心旺盛な方なんやけど、その姿を見て、この人はなんとまあ同じ目線の人だなって思った。それでもう、がしっ、みたいな。心を掴まれた。
ーで、その日に西郷先生に講演会の感想をメールして、約束通り1週間後に返事が来た。そのときにもう講演会を自分でしようと思ったん?
岡原:そうそう。また来てほしいと思った。前の年に「透明人間」という写真展をやったんだけど、同規模のイベントを年に1回はやりたいと思っていて。お話を聴いて「これだ!」と思った。障害のある人のことをどんなに言っても、みんなあんまり興味を持ってくれないんよね。障害のある人が家族にいる人とか、一部の人に関心が限定されてしまう。けど、学校のインクルーシブ教育のことだったら、多くの人が分かってくれると思った。補助金の申請をしないといけないと思ったから、別府市で講演会を開いた担当者さんに2月に内容についての相談に行ってる。
ー2月。岡原さんの手術の前の月やね
岡原:そうだね。結果がわかる前。病気かもしれないと思ったけど(関心を持ってくれていた)APU(立命館アジア太平洋大学・別府市)の人たちもいたし(できると思った)。
すごいんじゃなくてやばいんですー笑
ー大変なこともあったと思うんやけど、なんで突破していけたん?
岡原:補助金が決まったらやるしかない。コンパルホールも押さえてしまったし。コンパルとったらやるしかねえよ!笑。500人も入る大きなホールだし、備品とかもあるじゃん?。ライトとかも当日に入れたら6万ぐらいかかっちゃうから、自腹ですか、ってなる。じゃあ「やるしかなああい!!」
ー自腹にならんでよかった…。報告書の作成とかも大変やろうに。いつやりよんの?
岡原:家でやる。コンサートとかは、終わったらその日の写真をまとめておくんだ。最近はちゃんと毎回作ってる。私は「夜できるやん」って思うんよ。だから例えば竹田に行こうよ、って中学生の息子を誘って「宿題があるけん無理」とか言われたら「おい。宿題は夜でもできるだろう!遊び行くぞ!」みたいな考え。今しかないこのイベントに行くぞ!っつったら行くんだ!って。時々「岡原さんすごい」とか言ってくれる人もいるけど、すごいんじゃなくてやばいんですー笑。振り返ったら誰もおらんことがある。笑。病気をしたことで、そんなにぶっ飛ばさんようになったけんまあまあ人と足並みが合ってきたよ。
・自分で行動する人を私は信じる
ー講演会とか講演の中で印象に残ったこととかある?
岡原:今日の先生話が飛ぶなーっていう感じで前半はヒヤヒヤした。笑。
ーでも文字にしたら一貫しちょったなぁ
岡原:うん。話を聞きに来ていた人もそんな風に言ってた。みんなついてきてるかな?と思ったけど、あんな感じだったから眠くならんで最後まで聞けたっていう人もいたし、それが良かったって言う意見が多かった。私はあの「車椅子の人が多数派のレストラン」の話がめっちゃ好き。健常者と車椅子の人の立場が逆転していて、健常者の人が「えー?!車椅子じゃないの?迷惑なんだけど」とか言われる場面がある。あれは(障害のある人にとって)あるある過ぎて、みんなに見てもらいたいって思う。
ー講演会を通してみんなに伝えたかったことは。
岡原:親でも先生でもなくてもいいけど、その子に一目置いてくれる大人が誰か1人いるといいなと思った。時には理不尽なことを味わうのも悪くないんかもしれない。だけど、その人の良さって、学校のものさしで測ったら分からないことがあるから。1人の大人の物差しで測っただけでは分からない場合でも、他の誰か1人が一目置いてくれたら生きていけると思う。
ー岡原さんは講演会の最後に「私はこれをやります。みんなのワンアクションがあるといいと思います」って言っていたよね
岡原:私は息子の話を最後まで聞いて、誰かが何かするときは応援したいと思いますって言ったんよね。学校が変われ、先生が変われじゃなくって、自分で行動する人を私は信じる。あと、みんな子どもやったんやから、子どもの痛みが分かるやん?って思う。
西郷先生の話を聞いていると、その後ろで「いいぞ!いいぞ!」って思ってる自分がいる。子どものときはまだ未熟で言語化が難しいじゃん。普段は泣かない自分が西郷先生のお話に泣いてしまうのは、たぶん子どものときの自分が出てくるんだと思う。誰か分かってほしかったよぉー!誰か私の話聞いてよぉー!って。注目するとか様子を見るとか、そういう大人が1人でも増えたらいいじゃないかー!って感じる。
自分の気持ちを言ったときはなかったんや
ー岡原さん、前にたのしいプロジェクトの記事で昔の先生が、海とかに連れてってくれたって書いてたやん。
岡原:そうそう、担任の先生が連れてってくれた。でも私、誰かに自分の気持ちを言ったときはなかったんよなー。だけどそのとき確かに気にかけてくれた人がいたっていうことは、一生忘れない。
ー言えんかったんよな
岡原:そうやな。誰にも言ってなかった。大人って勝手でな。今でも「おばあちゃんの方が悲しかったはず」とか言われることがあるけど、私だって悲しかった!。悲しさなんて比べられない。そして、子どもの悲しさは誰が聞いてくれるん?。子どもだって悲しかったよ、絶対。
ー子どものときってさ、受け入れてもらえんやったこととかたくさんあるやん。
岡原:ある。本当はそうじゃないのにーと思っても言い返せんかったとかね。例えば「あなたたちはそういう人」って言われたら、私もう「ガーン」って感じなんよ。そういう見方からスタートせんでほしいし、挽回するチャンスがほしいって思う。「修学旅行の班長を決めるときに宿題をいつも出してない人はなれません」みたいなことだと、永遠にこの子が浮上できるチャンスないじゃん。「あなたは信頼がないから無理です」みたいなさ、今回頑張って信頼回復しようと思って立候補したのにその理由で却下されるんや、って。できる子、できん子って先生が思い込んでるけん…。なんかやってみようかというときに「いいと思う!できるよ!」って背中を押してくれる人がいたら、その子はグンって成長できるかもしれない。
「私は何をする?」って考えるといいな
ーそういうときに「できるよ!」って言える大人になろうぜ、という思い。
岡原:そうそう。そういう大人を1人でも増やしたいぞって思う。話を聴いた人それぞれが「私は何をする?」って考えるといいな。
時々、子どもの思いをくじく風景を見ることがある。学校で何かがあったとき集められて「お前らがやったに違いない」って言われたとか。私は逆に「お前らがやるわけねえやん」って言ってくれればいいのに、と思う。そしたら万が一悪いことをしたとしても、次はもう絶対しないのに。
ー私も子どものときに感じた理不尽を絶対忘れんようにしようと思ってた。こんなこと絶対大人になっても忘れんって、節々で思い続けたな
岡原:大人って汚ねえー!みたいな気持ちがずっと残ってる。「そういう決まりやろ」とか「みんなやりよんやん」とかは、絶対に言いたくない。西郷先生は映像や言葉を巧みに使って、子どもたちの言語化できない気持ちを代わりに怒ってくれる。(連載の)第2話はもう怒ってるよね?。西郷先生は本当にちゃぶ台ひっくり返す人。体制っていうか、大きいものに向かってケンカを売っていく人だと思う。「違うことは違うんだ」って。それは別府の講演会の時に思ったな。
ー今は世の中が鬱屈した感じになっていて「ひっくり返してやるー」って、なかなかなりにくい。だけど、実は心の中でそういうふうにしたい人は結構いると思う。いろいろなやり方があるんやろうけど、講演会ってその気持ちに着火する方法でもあるよね。
岡原:そうそう!本当に繋がっていく。別府市の職員さんが西郷先生を呼んでくれたことで私も呼びたい気持ちになったし、とりあえず何かしたらそれを受けてまたする人がいるかもしれん。だから完璧じゃなくていいんですよ。もう思いついたときには半歩でとんのやけん、しょうがない。自分はそういう人。「こうだ」と思ったらアクセルをぐいっと踏むんよ。
ー岡原語録だけで記事が書けるなぁ。笑。松岡修造の日めくりカレンダーみたいな。
岡原:わからーん。もう子どもなんやと思う。「大人になってよ」ってめっちゃ言われるー!笑
〈おわりに〉
ミンタラマガジン編集長のKEYちゃんは、このマガジンを100年後の人にも向けて発行しているそうです。これまで筆者はそこまで考えずに記事を書いていました。でも今思うのは、100年後に岡原さんの子孫がこれを読んだとしたら、きっと「おおー!これが俺らの先祖かー!」と思うだろうなってこと。子孫のみなさん、ゆかりばあちゃんからのメッセージをスクショしましたので、よかったら読んでみてくださいね。最後になりましたが、講演録の配信を快く了承してくださった西郷孝彦先生に心から感謝いたします。そして岡原ゆかりさん、読んでくださったみなさん、心を寄せてくださった皆さん、本当にありがとうございました。
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次回は11/23 土曜 更新!?
そろそろ今期予定していた企画内容も満了してきたぞ。どうするミンタラ?!
おたのしみに♨️
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プロフィール
岡原ゆかりさんプロフィール
たのしいproject代表。障がいのある人たちも含めて、誰もが楽しめるワークショップを開催している。子どもは3人。17歳の次女・めいちゃんは18っ子。大分市在住の元公務員。座右の銘は「やりたいことやりたいときにやっておく」。最近水泳とカリンバを始めました!
《西郷孝彦さんプロフィール》
1954年横浜市生まれ。上智大学理工学部を卒業後、東京都立養護学校をはじめ、都内中学校等で教員、副校長を歴任。2010年、世田谷区立桜丘中学校長に就任。生徒の発達や特性に応じたインクルーシブ教育を取り入れ、段階的に校則を解消。定期テスト等の廃止。個性を伸ばす教育を推進。誰1人切り捨てない、全ての子どもが安心して学べる学校、行きたいと思える学校作りに尽力した。2020年に退職。著書は「校則なくした中学校 たったひとつの校長ルール」「『過干渉』をやめたら子どもは伸びる」(ともに小学館)など。
「校則なくした中学校 たったひとつの校長ルール」
「『過干渉』をやめたら子どもは伸びる」
Magazine Crew
三浦順子(あのね文書室)
ライター/インタビュアー。 大分県の片隅でドタバタと4人の子育て中。猫3匹と6人家族で暮らしています。元地方紙記者(見出しとレイアウト担当)。2019年、インタビュー記事を書きはじめました。2022年からは地方紙と専門紙の契約ライターもやってます。
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