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『アルハンブラ宮殿の思い出』 2周目にして思うこと

 「アルハンブラ宮殿の思い出」2周目を完走。

この作品はARの世界と現実の世界が交錯する複雑な物語。
とてもチャレンジングな作品だ。

加えて、ヒョンビン演じる主人公が輝かしい場所から転げ落ちていく過程が描かれること、またハッピーエンドではないところも、これまで見てきた彼の主演ドラマとは一線を画している。

それが観了後の余韻になるとも言えるし、消化不良になるとも言える。
つまるところ、人によって感じ方が大きく分かれるドラマだと思う。

ここでは、「アルハンブラ宮殿の思い出」2周目の感想を徒然なるままに書いてみたい(物語に登場するゲームの結末まで言及していますのでご注意ください)。


1. 野心家ユ・ジヌー人生の暗転

主人公ユ・ジヌは、急成長を成し遂げた投資会社ジェイワンの創立者で同社の代表でもある。

そんな彼が、天才プログラマー、チョン・セジュが制作したARゲームの権利を購入するため、奔走するところからこの物語は始まる。

ユ・ジヌは、セジュを探す過程でセジュの姉チョン・ヒジュと出会い、右葉曲折ありながらも彼女に惹かれていく。一方で、セジュの制作したゲームに関わったことで、それまで輝かしかった彼の人生が暗転してく。
その様を描いたのがこのドラマだ。


この物語を串刺しにしているテーマは「成功者の転落と復活(への第一歩)」だと思っている。

ドラマのラストでは「信じること」がテーマであるかのような説明「信頼という魔法が世界を変える」が、テロップで表示されるが、「信頼」は成功者の「復活」の部分にかかる一部の事象であり、この物語の主軸ではない(と個人的には思っている)。

ユ・ジヌが復活したとは言い切れないラストでながらも、彼が生き残ったことは復活への第一歩。また、一連の悲劇にも負けず、自分の運命を受け入れていることも然りだ。


話を戻す。
ユ・ジヌは、ARゲームの中で体験した諸々の出来事が、現実世界での生活を脅かすことになるとも知らずにゲームの世界に足を踏み入れる。
たかがゲームのはずなのに、ゲームの中で繰り広げられる異世界で、彼は文字通り命をかけて戦い続ける。

ちなみにユ・ジヌにはこの苦しい戦いを辞める方法がなかったわけではない。チャ教授をはじめとするステークフォルダーの反対には会うだろうが、ゲームの発売を諦め、サーバーを動かさなければ異世界から逃れることができたはず。
でもそうしなかった理由はただひとつ。
自身が創立した会社、ジェイワンを守るため。彼は社運をかけたゲームの発売をやめるわけには行かなかった。


ゲームの世界に身を投じる前のユ・ジヌは、あらゆるものを手にしてる成功者だった。
会社や財産といった物理的なものから、経営能力、明晰な頭脳、そして完璧なルックスまで。

一方で、家族や愛情には恵まれていない。
親兄弟はおらず、最初の妻を親友に奪われ、二番目の妻は財産狙いのワルい女で離婚訴訟中。

成功者には違いないが、実は側から見るほど幸せではない。
そんな彼にとって最も重要なのは、自分の人生が詰まっている会社、ジェイワンだった。
会社こそが彼にとっての拠り所であり、また、生きた証でもあった。



2. ユ・ジヌが「失ったもの」と「得たもの」

ユ・ジヌがこのARゲームに関わることになった最大のトリガーは、自身の最初の妻と略奪婚をした親友チャ・ヒョンソクの存在だ。

ユ・ジヌの中に潜むヒョンソクへの復讐心が、ゲーム購入の判断を急かし不幸を招いた。
そして彼は多くのものを失うことになる。


その悲劇の内容は凄まじく、「ゲームの被害者」と自分を称するユ・ジヌの言葉そのままだ。

現実社会では、会社での地位を追われ、かつては親友だったヒョンソクをゲームでの戦いによって失う。
父親代わりとも思っていたチャ教授には裏切られ、彼もまたゲームによって命を落とす。
そして、最も信頼していたソ秘書も同じくゲーム中に死亡。

ユ・ジヌ自身も無傷ではなく、ゲーム中に階段から転落し、左足の機能を一部失う。それでもゲームの世界から逃げられない彼の行動は、側から見れば奇妙としか言いようがなく、周囲から精神を病んでいると思われている。

極め付けは、チャ教授の策略により、ヒョンソクの死に関し疑いをかけられ、殺人事件の参考人として招集される(結局は逃亡して出頭はしないが)。彼は社会的にも追いつめられ、居場所を失くしていく。

まさに悪いことのオンパレード。

それでも運命はユ・ジヌに容赦しない。
現実社会で彼からいろいろなものを奪う原因になったゲーム、つまりはARの世界で彼はバクとして削除されてしまうという結末。

一方で、得たものがないわけではない。
それはヒジュ。
彼女の存在が彼の精神的な支えだった。しかし、だからと言って二人が幸せになれたわけではない。



さて、この不幸エピソード満載の物語を観ながら考えたことは、「人間は何のために生きているのだろう」ということ。

何かを達成するため、つまりは自己実現のためなのか。
それとも誰を愛し、愛されるためなのか。

自分にとって本当に必要なものが何であるかは、経験を重ね、時間を経なければ見えてこない。

ユ・ジヌは大きな代償を払いながら、結局のところそれを見つけることができたのだろうか。



3. ユ・ジヌは今、何処にいるのか

戦いの末、ユ・ジヌは自身の会社ジェイワンを守ることができた。
その意味において、彼の目的は達成されたと言えるかもしれない。

しかし、戦いを終えたユ・ジヌが、現実世界、ARの世界のいずれにおいても、何処に存在しているのかは最後まで不明のままだ。ゲームのマスターだけが隠れることができる場所の存在がセジュによって明らかにされるものの、そこにユ・ジヌがいる確証はない。


やがて、人々は、時間と共に彼を忘れていく。
あるいは、死んだものとして忘れようと努力をする。

でも、ヒジュだけは違う。

彼女は彼を信じて待つと決めている。
その健気な決意にも関わらず、彼女の想いは成就することなく、宙に浮いたまま置き去りにされる。

そしてラストシーン。
ついにユ・ジヌの生存が仄めかされ、希望の光がかすかに見える。
でも多くの謎が解き明かされないままだ。

そして視聴者は思う。

彼は今、いったい何処にいるのだろう。



この素朴な疑問に関する想いや、ドラマの演出や構成について思うところを少し述べておきたい。


まずは、AR内での戦闘場面の演出について。
敵が迫り来る雰囲気を醸し出す音楽は、観ているものを不安な気持ちにさせ、物語に引き摺り込む効果があったと思う。でも、戦闘シーンが多すぎるし長すぎるかな。とはいえ、万人受けはせずとも丁寧にシーンが作られている印象。

また、同じシーンがエピソードをまたいで複数回登場するのも特徴だ。
謎解きのストーリーでもあるのでその手法は理解できるが、理由はそれだけではないだろう。ゲームの内容を含め、視聴者に複雑なストーリーに対する理解を深めてもらうため、繰り返し同じ場面を登場させているのだと思う。

一気観した身としては、同じシーンが多過ぎて「早送り」に忙しかったが、いずれにしても良く練られた物語だと思う。ハッピーエンドでないところも重いドラマのトーンを鑑みればかえってよかったと個人的には感じる。


一方で、すっきりしない部分が多いのも事実だ。

視聴者の多くが疑問に思うのは「ユ・ジヌはどうなったか、今、何処にいるのか」ということ。

前述のとおり、ラストでユ・ジヌの生存自体は仄めかされたものの、不親切な終わり方だった感は否めない。視聴者に判断を任せるという考え方もあるけど、少々残念だった。

あるいは「続編を考慮してあえて謎を残しているのかな?」と勘ぐってもみたが、ヒジュとの恋愛も中途半端な感じだし、少なくとも、ゲームの開発者であるセジュがもう少しゲーム世界における「謎」に関して説明する場面があっても良かった。

また、エンマに「天国の鍵」を渡したこと、つまりはクエスト達成でゲームがリセットされるなら、「バクを消去するくだりはいらなかったのでは?」と思ったり。きっとこのリセットによって、唯一削除されていないバグで、セジュを追い込んでいた「マルコ」も消去されたはず。要はリセットで全てすっきり消去できるので、「皆まとめで一掃」でよかったような。

確かに、ユ・ジヌがヒョンソクに抱いている感情の精算や、ソ秘書との別れの場面は物語の流れとして必要だろう。またクエスト達成によってゲームがリセットされてしまうことを登場人物全員が知らない設定なので、ストーリー展開としては不自然ではない。

でもオールリセットって。
言うなれば、クイズ番組で「最後の問題はポイント10倍!正解なら今までの成績に関わらず優勝!」みたいな、それまでの過程を台無しにしかねない手段に等しい。とにかく、視聴者としては肩透かしをくらった感じ。


と、納得がいかない部分はあるものの、ヒョンビンの演技には引き込まれたし(というか、ヒョンビンが出ていなければ途中で挫折も十分あり得た)、ユ・ジヌという孤独な男の人生も、彼の演技のおかげで見応えもあった。


いずれにしても「アルハンブラ宮殿の思い出  シリーズ1」は、謎を残したままで終わっているので、続編があればいいのにと思う。

「愛の不時着」のような、ヒョンビン主演のラブストーリーを期待する視聴者にはウケが悪そうではあるけれど、ユ・ジヌのその後がひたすら気になる私なのであった。



トップ画像:tvN「アルハンブラ宮殿の思い出」公式サイトより引用
http://program.tving.com/tvn/tvnalhambra



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