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映画・ドラマのレビュー

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映画・ドラマ・ドキュメンタリーなど鑑賞した映像のレビューと、作品から感じたことを綴ります。(ネタバレあります)
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#映画感想文

韓国ドラマ『ボーイフレンド』からみる純愛ドラマと年下の男

韓国ドラマ「ボーイフレンド」を完走。 パク・ボゴムの笑顔が見たい一心で一気観したこの作品、よくある純愛ドラマといえばそうなのだけど、主人公たちの気持ちが丁寧に描かれていること、そして主演のソン・ヘギョ、パク・ボゴムの演技が素晴らしく、見応えのある優しい作品に仕上がっている。 じわじわと泣いたこの作品、流した涙と共に溢れた感情を忘れぬうちに、感想を綴っておこうと思う。 1.女にとっての理想の年下男像とはソン・ヘギョ演じるチャ・スヒョンは政治家の娘として常に世間の注目に晒さ

「今」という時間の価値について『ナビレラーそれでも蝶は舞う』

Netflixで配信されている韓国ドラマ「ナビレラ-それでも蝶は舞う」を完走。 全16話と思い込んで観ていたら全12話だったので心の準備なく最終回を迎えてしまった。 ともあれ、とにかく泣いた。特に最終回。 先日「マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜」で号泣したばかりの私だけど、「ナビレラ-それでも蝶は舞う」でも激しく感情を揺さぶられ涙が止まらなかった。 このドラマは、スランプに陥っている23歳のバレエダンサー イ・チェロクと、バレエへの憧れを捨てきれず70歳にしてバレ

映画『スウィング・キッズ』ーそして自由の価値を知る

昨年公開になった韓国映画「スウィング・キッズ」をようやく鑑賞。 映画「フラガール」的な展開になるのかと思いきや、着地点は全く別の場所だった。 2時間を優に超えるこの作品の鑑賞後、なんとも言葉にできない感情が渦巻き、いつもはブチっと切ってしまうエンドロールまで観終えてもなお、余韻に浸っていた。 1.映画「スウィング・キッズ」の背景にあるもの物語は1951年朝鮮戦争下、捕虜を収容した韓国巨済島捕虜収容所を舞台に繰り広げられる。そこに収容されているのはアメリカ的自由主義思想に染

私は私であることから逃げられない-映画『私をくいとめて』

昨年末に観損ねた「私をくいとめて」が早くもAmazon Primeにやってきた。 主人公、黒田みつ子は31歳・恋人なしの一人暮らし。 気楽なおひとりさま生活を楽しんでいるが、脳内にいるもう一人の自分「A」との会話が心の支え。「A」はみつ子の精神安定剤的な役割を果たしている。 そんなみつ子が近所に住む取引先の年下男に恋をする。 恋人は欲しいけど、今の生活もそこそこ快適。 ゆらゆら揺れる三十路女の心情が、脳内「A」との会話と共に、コミカルに描かれるのがこの作品。 1. 誰か

自分の道は自分で切り開くー映画『あのこは貴族』

映画「あのこは貴族」を鑑賞した。 東京松濤で暮らすお嬢様華子と、上京し苦労しながら生きる美紀。 「あのこは貴族」は、この二人の人生を軸に展開する静かな物語だ。 1. 華子 ー 求めていたのは壁の内側で生きることではなかった箱入り娘の華子は東京で生まれ育ちながら、ある意味東京を知らない。 なぜなら彼女の生きている世界はとても狭く、まさに箱の中だから。 華子は親や家族の言いつけを守り、良き伴侶を見つけ結婚することこそが人生の幸せだと信じている。周りの友人も同じような価値観の人

「誰にも私の未来はわからない。私にさえも」ー映画『野球少女』

映画「野球少女」を観た。 女性の社会進出において「ガラスの天井」というたとえがよく使われる。 この物語はまさにその天井を突き破ろうと進む少女の話だ。 また、諦めないことの意味と力について考えさせられる作品でもあった。 私はと言えば、主人公チュ・スイン(イ・ジュヨン)にどっぷり感情移入してしまい、映画を見ながら涙が止まらなかった。 1. 誰であろうと私の未来はわからない前例のないことに挑むのは勇気がいる。 人に理解されないだけでなく、ひどい時には笑われたり馬鹿にされたり、

生きていくためには居場所がなければー映画『すばらしき世界』

西川美和監督の「すばらしき世界」を鑑賞。 鑑賞後なんとも言葉にできない感情が胸の中に渦巻き、気持ちの整理がつかなかった。 とにかく、心揺さぶるすごい作品なのだ。 この心の揺れを忘れないうちに映画を観て感じたことを綴っておきたいと思う。 1. 不寛容な社会と生きるための居場所について 「人生のレールを踏み外した男が見た世界とは」 このキャッチフレーズ通り、レールを踏み外した男「三上正夫」が見た世界と、挫折を味わいながらも懸命にもがき生きる彼の姿を描いたのがこの作品。

恋っていつか必ず過去形になってしまう 『花束みたいな恋をした』

映画「花束みたいな恋をした」を観た。 前評判がとても良かったので楽しみにしていたけど、期待しすぎると往々にして肩透かしを食らうので、気持ちを落ち着けつつ映画館に向かった。 結果、多くの人が賞賛するわけがわかったし、私自身、観てよかったと心から思えた作品でもあった。 1. 「恋」が上り坂な時間の尊さを噛みしめるこの映画は大学生の麦(菅田将暉)と絹(有村架純)との5年間の恋を描いた物語。 二人は趣味嗜好が驚くほど似ていて、お互いを知れば知るほど惹かれ合い、恋に落ち、最終的

40歳、迷走の先には光が見える 『チャンシルさんには福が多いね』

絶対観ようと心に決めていた作品「チャンシルさんには福が多いね」。 なんだかめでたいタイトルも気に入った。 この物語の主人公であるチャンシルさんは、映画プロデューサーとして仕事に人生を捧げてき40歳、独身、恋人なしの中年女。 ある日、一緒に仕事をしていきた監督が急死し突然失業することに。 それだけではない。自分は映画製作に欠かせない重要な役割を担ってきたと自負していたのに、他人の評価はそうでないことを知りショックを受ける。 おまけに生活苦。 仕方なく、妹のように可愛がっ

心揺さぶられた映画で振り返る2020年

先日、2020年に鑑賞したドラマの総括をしたので、本日は映画について語りたい。 今年は100本越えの映画を鑑賞した。 これほど映画を観た年が今まであっただろうか。 それもこれも「巣篭もり生活」という特異な状況がもたらした結果。この生活を乗り切れたのはひとえに映画とドラマのおかげである。 たくさんの愛すべき作品群に助けられた一年だったと心から思う。 そんな2020年も残りわずか。 総括として、今年鑑賞した映画で気に入った作品、または強く印象に残った作品を記録しておきたい。

「私にとって写真とは何か」を考えるー『浅田家!』を観て

映画「浅田家!」を観た。 写真とは長い付き合いの私にとって、この作品は映画として楽しんだだけでなく、写真について考える良い機会となった。 私にはかつて、写真を真剣に学んでいた時期がある。 その経験を生かし現在もカメラマンとして仕事をすることもある。 そんな私がこの映画を観ながら考えたことは「私にとって写真とは何なのか」という根本的な問いだった。 映画の主人公である浅田政志(二宮和也)が、自分のスタイルを確立するきっかけになったのは、写真学校の卒業製作のお題「もし1度きり

『82年生まれ、キム・ジヨン』 自分が主役の人生を生きるために

映画「82年生まれ、キム・ジヨン」を観た。 泣いた。 とにかく涙が止まらなかった。 今まで心の奥底に封印していたあれこれが映画を観て一気に吹き出したような感覚だった。 映画「82年生まれ、キム・ジヨン」は、韓国作家チョ・ナムジュの同名小説が原作。小説が大ヒットしたことで映画化された作品だ。 この映画は公開前からすごく楽しみにしていたので、台風前の悪天候にも負けず、仕事を早々に切り上げ公開初日に映画館へ足を運んだ。 *以下、ネタバレ含みますのでご注意ください。 1.

『ミッドナイトスワン』 なりたい自分との距離が生む苦悩

2020年/日本 監督:内田英治  出演:草彅剛・服部樹咲 「ミッドナイトスワン」 哀しみと希望、そしてせつなさが入り混じる作品だった。 あらすじは以下のとおり。 トランスジェンダーの凪沙はニューハーフクラブで働きながら孤独に生きている。そんなある日、従姉妹に虐待されて育った彼女の娘「一果」を一時的に預かることになる。はじめは相容れない二人だが、バレエに興味を示す一果とそれを支える凪沙の間に、信頼関係と温かな感情が芽生え始める。 社会的マイノリティという孤独凪沙(草彅

外見と内面、人はそのどちらを愛するのか 『ビューティー・インサイド』

2015年/韓国 原題:The Beauty Inside 監督:ペク 「主人公キム・ウジンは、眠りから覚めるたびに外見が変わる」 この設定だけを見るとコメディ映画と勘違いしそうだが、全くもってそうではない。むしろシリアスな純愛映画だ。 この作品は「もし、眠りから目覚める度に外見が変わったら?」という仮定の元、「外見か内面か」というある意味「普遍の問い」に挑んでいる作品だと言える。 そしてこの実験的作品にすんなり感情移入できるのは、追及するテーマがはっきりしているから