Webメディア業界の変遷まとめ

ここ数年の間で急激な発展を遂げてきた、Webメディア業界。その変遷には、ネット(スマホ)の発達、SNSの台頭、バイラル・キュレーション・オウンドメディアの流行、WELQ問題、ネイティブ広告問題、PR問題など、さまざまなものがある。

本記事では、Webメディア業界に関しての知識がない方でも、ざっくりとその変遷がわかるようにまとめて紹介する。

ネット(スマホ)・SNS時代の到来

4マス(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌)が主流だった時代では、情報は企業から人々に向け、一方的に発信されてきた。これにより、多くの人々が情報を受信することしかできず、自ら取りに行くことはほとんどなかった。

しかし、ネット(スマホ)の発達により、情報は受信するものから、取りに行く(検索する)ものに変化した。「ググる」という言葉が象徴するように、これまで受け身でしか得られなかった情報が、自分が欲しいときに欲しいだけを得られるようになったのだ。

● コンテンツマーケティング

そのため、従来のように一方的に発信される情報には、人々は振り向かなくなった。そこで、登場するのが「コンテンツマーケティング」である。人々の興味を引く情報(コンテンツ)を発信することで、広告主(企業)と顧客の双方向的なコミュニケーションを行い、商材の広報・購買につなげるマーケティング手法だ。

これにより「オウンドメディア」と呼ばれる、企業独自のメディアが作られるようになった。この段階では、SEO(検索エンジンから流入する顧客に向けサイトを最適化すること)対策が重視されたため、まとめ記事を量産する「キュレーションメディア【※1】」が流行った。

【※1】特定の切り口にしたがって、情報をまとめるメディアのこと。取材・調査をせず、インターネット上にある情報をまとめるだけのメディアという認識も。

●バズ(インフルエンス)

SNSが身近なものになってくると、バズ(拡散)も重要な施策となった。ここで注目を浴びたのが、「バイラルメディア」である。話題性やインパクトのある情報を出すことで、短期間で爆発的なアクセスを集めるメディアのことだ。

また、SNSはこれまで一部の企業やメディアが独占していた、発信する権限を一般の人々に与えた。これにより、誰もが情報を発信する時代が到来し、個人が影響力を持つようになった。いわゆる「インフルエンサー【※2】」が生まれたのもこの時期だ。

現在ではこのインフルエンサーを活用し、商材を広める「インフルエンサーマーケティング」が注目を浴びている。

【※2】SNSのフォロワーが多く、影響力のある人材のこと。かつては、アルファツイッタラーと呼ばれていた。

ブームの裏の葛藤

コンテンツマーケティングブームにより、まとめ記事やバズ記事が大量生産されてきた。しかし、ここである葛藤が生じる。それは「目先の利益」を取るか、「倫理(メディアとしての健全性)」を取るか、という葛藤である。

先に挙げた「キュレーションメディア」や「バイラルメディア」において重要なことは、低コストで高利潤を得ること。そのためには、クラウドソーシングやアルバイトでアマチュアのライターを雇い、コストを掛けずに大量の記事を生産する必要があった。しかしそうすると、信憑性のない情報やコピペした情報が横行するようになり、ネット上に良質な記事が出てこなくなってしまう。

そして残念なことに、時間とお金を掛けて記事を作っていくメディアは、基本的には儲からない【※3】。例えば、インタビュー記事は、検索上位に表示されることが少ないうえ、バズらせるにはそれ相応の企画力が必要となる。コラム記事にしても、執筆者にファンが付いていない限り、読まれることは少ない。つまり、倫理を優先させたところで、掛けたコストに見合う利益は得にくいのだ。

その結果、利益を重視するメディアがますます注目されるようになった。コンテンツマーケティングブームから、のちに記述するWELQ問題までの時期は、利益重視型のメディア人がパネルディスカッションに登壇していたり、マーケティング系の情報メディアに成功事例として取り上げられたりと、とにかくモラルのない時代だった。

【※3】メディアを通じて得られる利益を、お金と考えた場合の話。ブランディングやカルチャー作りという観点もあるため、一概には言えない。

●WELQ問題

しかし、こうした状況が長く続くわけもなく、2016年9月に公開された、ある記事をきっかけに脆く崩れていった。その記事とは、BuzzFeed Japan(当時は有限会社ノオト)に所属するライター・朽木誠一郎さんが書いた「医療情報に関わるメディアは「覚悟」を - 問われる検索結果の信頼性」である。

この記事がメディア業界の「倫理」側の人間を中心に拡散され、多くのライターやメディアがこの問題を追求するようになったのである。代表的なものを挙げておくと、「DeNAがやってるウェルク(Welq)っていうのが企業としてやってはいけない一線を完全に越えてる件(第1回)」、「無責任な医療情報、大量生産の闇 その記事、信頼できますか?」、「[死 にたい]でSEOされたwelq(運営:DeNA)の大きな問題」など。

この問題はマスメディアでも取り上げられ、とうとうDeNAの謝罪会見までに至った。これこそが「WELQ問題」である。この問題から飛び火し、多くのモラルのないWebメディアが閉鎖することとなり、Webメディアの在り方が問われるようになった。

ちなみに、現在は大企業が運営するモラルのないWebメディアはほとんど閉鎖されたが、中小企業や個人が運営するものはあまり閉鎖されていない状況である。

WELQ騒動後のメディア業界での問題

●ネイティブ広告問題

ネイティブ広告とは、サイト内に自然な形で広告を表示させることで、ユーザーにストレスなく情報を届ける広告のこと。

このネイティブ広告を巡っての論争が、2016年11月頃に行われた。事の発端はJIAA(日本インタラクティブ広告協会)が公開した「ネイティブ広告ハンドブック2017」。見てもらえばわかるかもしれないが、かなりわかりづらい。

この資料について、フリーランス(執筆や司会など)の塩谷舞さんが「わかりづらい」という旨を呟いたところ、広告業界の著名人である高広伯彦さんや藤代裕之さんらが「プロのライターとして失格」と反応。

これに対し、ライター業界側からはヨッピーさんが「ネットには素人も入ってくるのだから、いろんな人に対してわかりやすく書くべきだ」と反論。そこからSNS上で論争が始まり、たくさんのメディア業界・広告業界の人間を巻き込んだ騒動となった。

結局、明確な解決には至ったか定かではないが、この騒動をきっかけにネイティブ広告の勉強会がたびたび開催されることとなった。

●PR問題

記事広告とは、通常の記事と同じ形式でスポンサーの商材をPRする広告のこと。通常記事内で「※この記事は◯◯の提供でお届けしています」といった注釈が入る。

2017年6月、この記事広告のPR表記についての問題が発生した。元々はこの問題以前に、有限会社ノオトの代表・宮脇淳さんとネットウォッチャーであるおおつねまさふみさんが、記事広告のタイトルに「PR」表記を付けるかどうかの論争をしていた。

そして再度、宮脇さんが「「おもしろい広告」ってどうやって作るの?人気ライターのヨッピーさんに聞く」という記事を引用して、「以前おおつねさんと議論したが、不毛な議論に終わった」という旨をFacebookに書いたところ、おおつねさんが反論。そこから、ヨッピーさんなどメディア業界の人間が集まって、PRをつけるかどうかの問題が取り上げられた。

結論としては、「PRをつけた方が読者にとって親切」ということで、なるだけタイトルにPRを付けるようになった。

まとめ

以上、ざっくりメディア業界で起こった主要な問題を取り上げた。細かいことを取り上げるとまだまだあるので、気になる方は細かく追っていくと良いだろう。

たぶんこうしたメディア業界の変遷を知っておいても、実際の執筆や編集に生きることはあまりない。ひたすら文章を読んで、書きまくった方が絶対に生きてくる。

ただ、メディアというのは、ほんの少しの油断や無知が取り返しのつかないものになってしまうもの。重大なミスにつながらないように、メディア業界のタブーとなっていることは押さえておくべきだろう。

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