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読書記録:楽園のカンヴァス 原田マハ

ルソーの絵にまつわる謎を巡って繰り広げられるストーリー。この舞台のひとつに、スイスのバーゼルという都市が出てくるという。

スイス旅行を予定していたわたしは、本の中で誰かとスイスを共有したくて、この本を手に取った。ただそんな理由だったのに、わたしは素敵なミステリーに出会ってしまった。

物語は、大原美術館から始まる。
大原美術館―わたしが絵画に魅せられたいちばん最初の場所だ。絵が放つ静かなパワーと、それを引き立てる重厚感ある空間。わたしがそこで感じたようなことが、文字になって綴られているのを読んで、それだけで胸が震えた。その描写だけで一気に引き込まれた。

「謎」の中心となっているのはルソーとピカソ。「新しい時代」を創ろうとした彼らと、そんな彼らの絵に魅せられたコレクターや研究者、、そのどちらもが、夢があって素敵だと思った。

ルソーの絵はその当時、「子供が描いた絵だ」などと嘲笑されていたという。それでも自身のスタイルを最期まで貫き通した。すごい信念だ。

新しい何かを創造するためには、古い何かを破壊しなければならない。
他者がなんと言おうと、自分にとって、これが最高にすばらしいと思えるものを作り出すには、そのくらいの覚悟が必要なんだ。他人の絵を蹂躙してでも、世界を敵に回しても、自分を信じる。それこそが、新時代の芸術家のあるべき姿なんだ。

p.352より

これはピカソがルソーに伝えたメッセージとして書かれていた。その真偽は別にしても、美術館で観る絵(ルソーとピカソに限らずだが)にはそのくらいの信念とパワーが、確かにある。”今”の評価に囚われず、その先にある”夢”を真っ直ぐ見据える、彼らの生き方が格好いい。

そしてその絵に魅了された、コレクターやキュレーター、研究者たち。彼らは絵から自分だけの意味を感じ取って、その思いを大切に持っている。それは実体のない、正解のない”夢”なのだと思う。そしてそれは、自分を生きる糧にもなってくれる。
それぞれの思いや立場は違えど、ただその絵がすばらしいという気持ちを分かち合うシーンは、とても温かかった。権力や地位や名誉など一掃した、まっさらなところで生まれた気持ちを分かち合うって、こんなに感動的なのだ。そういう”夢”もあるんだな。


絵画鑑賞の新たな楽しさをこの本は教えてくれた。この感動を鮮やかに思い出すためにも、また大原美術館へ行こう。そしていつか、MoMAにも。

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