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読書記録:号泣する準備はできていた 江國香織

過去も未来もずっとひとつづきになっている人生だけど、どの点にいても”いま”がすべてで、わたしたちは今という点をひとつずつ生きるしかない。
過去や未来に翻弄されながら、その点を一生懸命に生きる人たちを、この本は描いている。その一挙一動、一語一句にすべてに重大な意味を含んでいるのではないかと思うほど、すごく丁寧に。

私たちが持っているものは、いつも「いま」なのだ。(p.56)

本文より


誰もかれも、孤独だなと思った。
いま確実に愛し合っている人がいても、保証され得ないふたりの未来を考えると不安に襲われ、結婚していても、どちらかの心の中に違う人が居れば心安らぐ場所を失い、仲間と過ごす楽しいひとときがあっても、そこから一歩出れば互いに知らぬ別々の生活へ帰らなければならない。

誰もかれも、孤独であることを分かっているから、”号泣する準備はできていた”。
人は弱くて強い。それらは相反しながら、きっと同じ。弱いから泣き出す勇気がなくて、強いから涙を止めることができる。だから、号泣する準備はできているんだけれど、泣けないし泣かない。ただただ、孤独な”いま”をちゃんと受け入れて、”いま”に静かに耐えながら、”いま”を生きている。

それでいい。それが精一杯。

孤独を突きつけられるんだけど、そうやって、どこか自分を肯定してくれるような優しさと、ほんの小さな強さを、ぽつんと心に残してくれる。そんな本でした。


わたしは、『熱帯夜』と『号泣する準備はできていた』が好きだった。
読み手の”いま”によって、響くストーリーは違うのだろうな。また違う”いま”になったときに、読み返すのが楽しみ。

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