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シュークリームの時に

むしゃくしゃして、どうしようもなくなって

頭の中がパンクしそうになったから、私は外へ出た。

まっすぐまっすぐ、

出来る限り何も考えないように、

少しずつ肌寒くなりつつある青空の下をただただ歩いた。

そうするうちに、なぜかふとシュークリームのことを思い出した。

+++

昔から好きだったシュークリーム屋さん。

高校生の時に友達と放課後に出かけては時折食べていた、あのシュークリーム。

少しの罪悪感と、甘酸っぱさが混じったあのシュークリーム。

なぜ今このことを思い出したのだろう?

理由は分からないけれど、ふとそのシュークリームについて思い出してから、頭の中が今度はシュークリームでいっぱいになった。

+++

私はふと歩く速度を緩めて、スマートフォンを取り出す。

マップを見てあの店の名前を入力したら、2軒先の駅にそのシュークリーム屋さんがあることがわかった。

だから今度は方向を変えて、

またまっすぐまっすぐ、

そのシュークリーム屋さんへ向かって私は歩みを進めたのだった。

+++

その店に入るや否や、私は看板に大きく書かれた期間限定のポスターを指差し、

「このシュークリームを2つ下さい」といった。

どうせ食べるのは私一人なのに、なぜかそこは変な見栄を張ってそう言ったのだった。きっと後で2つも同じものを食べることを後悔するだろうにも関わらず。

すると店員の若い男は、はいと言ってレジに金額を入力する。

+++

ただ、なぜかレジの画面にはシュークリーム1個の金額が表示されたままだ。

その若い男は首を傾げ、すみません少々お待ちくださいと言ってレジに沢山配置されているキーを手探りで打ち始めた。

私はその時「本当は1つで良いですよ」なんて言おうかどうか一瞬だけ考えてみたけど、今更言うのは気が引けるし、何よりむしろもっと虚しくなるじゃないかと思って、口をつぐんだ。

少しだけ時間が経つと、どこかからかもう一人の女の店員が表れて、その男が苦戦しているレジを見るなりスッとあるキーを指さした。

そうしてレジの画面はシュークリーム2倍の金額になったのだった。

+++

そうして私は期間限定のシュークリームがきちんと2つ入った紙袋をもらって、2人の店員に笑顔で見送られた。

きっとあの若い男はまだこの仕事を始めたばかりだったのだろう。

苦戦する表情や、おぼつかないレジを打つ指先がそれを物語っていた。

でもきっとあと数か月もすれば、あの男だって今日のこと等すっかり忘れて、人生の中で一度も間違えたことの無いような素振りでレジを打つようになるのだろう。

私は紙袋を見つめた。

そういえば、すっかり忘れていた。

誰だってそうなのだ。

始まりがあること、始まりがあったこと、

あの時緊張したこと、成長するために間違いも失敗もしたこと、

そういうことを忘れて、私たちは何事もなかったかのように今を生きている。

けど、誰だって始まりはあったのだ。だからこそ人は成長していくのだ。

+++

私は紙袋から視線を外し、顔を上げた。

そうして小さく息を吸って、また歩き始めた。

なぜだか少しだけ、足取りが軽く感じられる。

さあ、このシュークリームの美味しさが損なわれないうちに家に帰ろう。


今度は、まっすぐじゃなくても良いから。


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