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「才能」か「努力」か論争にケリをつけようじゃないか

 7月は文月と言いますが、文披月(ふみひろげづき)とも呼ばれます。こんな暑さの中、文を広げる気になるかい。和歌でも詠む気になるかい。暑さで寝苦しい不眠月だよ(現在北の国在住なのでエアコンという文明の利器がない)。
 前置きはさておき、新聞を開けば、初防衛を掲げた藤井二冠を抑え、一面を飾るは大谷翔平。先発でありながら、見事な抑えぶりだ。今やメジャーといえば大谷選手だが、幼き私の中の伝説は、やはりイチローだ。まったくもって野球の俄かファンですらないのだが、彼の言葉には心動くものがある。なにより、有言実行であることが、彼の言葉を真実にする。
 さて、彼は己の才能で光り輝いていたのか、それとも努力で光をつかんだのか。才能と努力、盾と矛の論争に一石を投じるべく、書いた生徒たちへのおたよりです。文披月のおともになれば。

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「小さなことの積み重ねが、
とんでもない所へいく道だった」

 42歳になっても現役を貫き、メジャーで活躍していたイチロー選手。前人未到の記録を立ててきた彼の強さはどこにあるのでしょうか。「今までに“これだけはやったな”と言える練習はあるか?」という問いに、彼はこう答えました。

「僕は高校生活の3年間、1日にたった10分ですが、寝る前に必ず素振りをしました。その10分の素振りを1年365日、3年間続けました。これが誰よりもやった練習です。」

 野球でもテニスでも、上手な子にアドバイスをすると、器用にこなし、すぐできるようになります。でも、下手な子は、アドバイスを聞き、言われたとおりに挑戦してみるものの、なかなかうまくいきません。ところが、不思議なことに、そうやって下手な子が、悩みもがいているうちに、先にできるようになった上手な子は、気が付けば、その技術を自分のものにしたような気になって、いつのまにか練習をやめてしまうのです。
 人は、一度「できるようになったこと」の大切さや、それができずに悔しい思いをしたことを忘れがちです。
 一方で、下手な子は、なんとかできるようになりたいと、あきらめないで練習を積み重ねていく。彼らは「継続することの大切さ」を、自分の経験から知っているからです。
 だからこそ、「できるようになった」後も、その練習を「継続」し、より高く、より強く、その技術を磨き上げることができるのです。そして、それは「心の強さ」にもつながっていきます。
 イチロー選手の「強さ」は、生まれ持った野球のセンスにうぬぼれることなく、「継続すること」を積み重ね続けるところにあります。確かに、人には得意・不得意があり、一人ひとり生まれ持った才能もあるでしょう。しかし、「才能」と「強さ」は別物です。どんなことでも、最後に勝つのは「強い人」。そして、その「強さ」は、大樹の年輪のように、少しずつ少しずつ、時を重ねてつくられます。
 イチロー選手だけではありません。世界で活躍するトップアスリートは、みんな「基本の動きや型」を大切にしています。テニスプレーヤーの錦織選手も、基本的なステップやストロークをくり返し練習することで、動きが身体に染みつき、試合のときに頭で考える間もなく身体が同じ動きをするようになるといいます。
 学校総合体育大会(いわゆる引退試合)という大舞台を目前に、そんな話を思い出しました。陸上部は一足早く、通信陸上という大舞台を終えましたね。今、あなたの心の中にはどんな自分や仲間の姿が描かれていますか。
 明日からの戦い、コートに立つ時間、マウンドに立つ時間、トラックを駆け抜ける時間、きっとあっという間の時間でしょう。でも、その瞬間には、あなたが今まで積み重ねてきた時間や努力が全部つまっています。
 また、大きな戦いの舞台に立つあなたの姿は、後輩たちへのギフト(贈り物)でもあります。あなたのその背で、まなざしで、後輩たちへ良き伝統と、「本当強さ」を伝えてください。
 そして、時にぶつかりながらも、ともに励まし合ってきた仲間のために、「自分のためにすべきこと」「みんなのためにできること」を考えながら、悔いのない戦いをしてきてくださいね。応援しています。大丈夫!あなたが重ねてきた日々は、しっかりと今のあなたへつながっています。がんばれ!!

ーあとがきー
 才能か努力か論争。才能って、案外自分では気づかないもので、他人が相対化して与えてくれるものだったりする。私は文章を書いたり、資料をデザインしたり、工作(教室掲示とか)したりするのが好きだし、苦労したことはない。かといって、得意だと思ったこともない。でも、あるとき、誰かが「みんなが君のようにはできないよ」と笑いながら(今思えば皮肉だったかも)言った。
 そのとき、初めて私は自分が、そういうことに長けているのだと知った。才能なんてそんなものじゃないかな。どうかな。
 私は才能も努力も、矛と盾にするつもりはない。2つは同じだ。才能がないなんて言うな。あきらめるな。誰にでも等しく与えられた才能があるだろう。それこそが、「努力」じゃないか。

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