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梅見月に香る風に酔いしれて、あなたへ

 2月。陽射し柔らかく、風が優雅な香りを連れてくる「梅見月」。「梅は百花(ひゃっか)の魁(さきがけ)」とも言われ、「梅に始まり菊に終わる」という言葉のとおり、梅は1年の花暦の序開きなのです。
 そんな梅の香りに酔いしれながら書いた、大きな挑戦を前にした、あなたに贈る言葉です。

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「あなたは、あなたでいいのだ。」


 コロナの影響で、例年とは異なる郵送による出願など、先生方も慣れない中で、みなさんと一緒に受検の準備を進めてきました。願書を書く真剣なまなざしには、不安や希望、緊張など、さまざまな思いを感じました。
 受検票が手元に届いてからの日々は、無事に出願を終えた安堵と、いよいよその時がやってくるのだという決意が見えました。受検までのカウントダウンが1桁になると、「もっと頑張らなければ」「このままじゃだめだ」と、必要以上に不安や緊張を感じている人も増えたように思います。
 自分で決めた大きな決断を前にしているわけですから、緊張するのも当然です。今夜は、充分に食事と睡眠をとって、まずは体調を万全に整えておきましょう。忘れ物がないように、しっかり持ち物を確認しておくことも忘れずに。

 夏から三者面談を重ねる中で、「受検に失敗したくない」という悩みを打ち明けてくれた人がいました。もちろん、自分の目標や希望が実現するのは、とても素敵なことです。
 しかし、どんなに偉大な人でも、人生で一度も挫折したことがない、あるいは自分の願いはすべて叶えてきた、という人は一人もいません。挫折したり、失敗したり、悩んだり、迷ったり。思うような自分に手が届かず、必要以上に落ち込んだり、恐れたり、自信をなくしたりしている人が多いような気がします。
 自分を認めてあげることができずに、そんな気持ちを重ね続けた結果、たどり着く先は「私なんて」「どうせ私は」。あるいは、壁を越えられなかったことを恥じたり、悲観したり。
 心の成長期の真っただ中を生きるみなさんに、「自分を愛してあげなさい」と言っても、照れくさく、なかなか難しいことも、同じ思春期を越えてきた者としては分かっています。「自分を認める」ということ自体、具体的にはどんなことなのか、みなさんより15年ちょっと先を生きる私自身、まだまだ模索している最中です。
 ただ、これからたくさんの出逢いをし、壁を越えていくあなたへ贈りたい言葉があります。「あなたは、あなたでいいのだ。」
 いつかのCMで流れていた言葉です。今まで経験したことのないような容赦のない就職活動の折、いろいろなことがうまくいかず、大学卒業後の道に悩んでいたときでした。この言葉を目にしたとき、ふっと心が軽くなった気がしたのを覚えています。

これでいいのだ。
それは赤塚不二夫さんが、
漫画の中で幾度もくり返してきた言葉。
現実はままならない。
うまくいかないことばかり。
毎日のほとんどは、これでよくないのだ、の連続だ。
自分を責めて、誰かを責めて、何かを責めて。
そして、やっぱり自分を責めて。
だけど、ためしてみる価値はある。
これでいいのだ、という言葉のちからを。
信じてみる価値はある。
あなたが、
もうこれ以上どうにもならないと感じているのなら、
余計に。
胸をはる必要はないし、
立派になんて、別にならなくたっていい。
「あなたは、あなたでいいのだ。」
あなた自身がそう思えば、世界は案外、
笑いかけてくれる。
人生は、うまくいかないことと、つらいことと、
つまらないこと。
そのあいだに、ゆかいなことやたのしいことが
挟まるようにできているから。
どうか、あなたの人生を大事に生きてほしい。

 受検に限らず、「失敗したくない」なんて言わないでほしい。成功はいつも必ず失敗の先にあるし、大切なのは、その過程から「何を得るか」であって、結果がすべてではない。
 もし、自分の挑戦に先回りして、あなたのことを常に成功へ導こうとしている人がいるとしたら、それは本当のあなたのサポーターではない。あなたから、成長する貴重な時間を奪う人だ。
 もし、あなたのゆく道を、そっと陰から見守ってくれる人がいるとしたら、あなたは感謝の気持ちを忘れてはならない。大切な人を、黙って見守るというのは、あなたが思っている以上に辛いものだから。
 その先に石が落ちているかもしれない、穴があるかもしれないと思いながら、そのことを伝えられない。あなたが転んでも、涙しても、手を差し伸べることが叶わない。ただ、じっと、あなたが立ち上がるのを「がんばれ、がんばれ」と心の中で唱えながら、その時がくるのを待っている。

 明日。あなたの挑戦を、見守っている人がいる。この半年間、自分や家族と進路に向き合う中で得たものは、すでにあなたの中にある。結果を恐れる必要なんてない。
 卒業式という最後の舞台。終わりと始まりが同時に訪れる日。あなたを見守ってくれたすべての人に、感謝の気持ちを捧げよう。伸びた背筋と、まっすぐなまなざしにのせて、あなたの成長を伝えよう。

 Keep on believing yourself. Where there’s a will, there’s a way.


ーあとがきー
 もう少しで訪れる別れに、少し寂しさを感じながら、それでも緊張と不安を背負う子どもたちの背中を押す気持ちで書いた学級通信でした。子どもたちには、いつも「あなたは、あなたのままでいい」と伝えますが、たまに、ふと思うことがあります。
 「あなたのままでいい」というのは、「そのままでいい」という意味ではないのではないかと。向上心も持たず、夢も描かず、野心さえない、現状維持の自分。果たして、そこに生きがいや、本当の「自分らしさ」があるのだろうか。
 「あなたのままでいい」という言葉を甘えや逃げ道にせず、強さも弱さももった自分とまっすぐに向き合い、認め、受け入れ、常に変わり続ける自分さえも愛してほしい。そして、早春にいち早く目覚める梅のごとく、美しく花開く「私」に出逢える日まで、雨にも風にも負けず、本当の自分を探す旅路に幸多からんことを。梅の香りとともに。

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