見出し画像

女性の生き方を考えるはなし

山本周五郎さんの小説に『笄(こうがい)堀』があります。石田三成の大軍が、忍城(埼玉県行田市)を攻める話でございます。この話はのちに『のぼうの城』の小説、映画としても有名になったのでございます。

『笄(こうがい)堀』では、城主の妻、真名女(まなじょ)が城を守ったということでございます。山本周五郎という作家らしいではございませんか。

城主は歴戦で勇士と共に留守をしている忍城は、わずか三百の兵です。城を守るのは、城主の妻の自分だけ。残っている兵士は実戦に乏しい、しかも老兵だけなのです。

城を捨てて逃げるか、それとも、弱小でも戦うか

葛藤のすえ、真名女は戦うと決めたのです。
「そうだ…自分はごくあたりまえの女にすぎない。ただ、その平凡さをできる限り押しとおし、つらぬきとおすことよりほかになんのとりえもない。だけど、強がりはやめよう

そして、真名女は領民たちにありのままを話し、共に堀をつくったのでした。


共グモさんが、鶴ヶ城堀の周りを歩いている他イクツさんに、話を聞かせています。

これでおわかりでしょうか。忍城の城主の妻、真名女さんは平凡でありながら、勇気のある女性であり、自分の仕事をやってのけたのです。これが「天才」つまり「天からさずけられた才能」ということになります。

城主の妻が自ら動くことで、老兵も実戦の経験が少ない兵も、農民も、子ども、皆が鼓舞されるわけです。これが「共雲の原理」なのですよ。

雲を見てください。農作物にとって、どれだけ大切な存在なのか、わかっていただけますでしょうか。農作物は天候にも、水や土地の状態に左右されて育つもの。それは、太陽と雲は深い友情で繋がっているからなのです。

その友情を壊すようなことをすれば、人間が生きていけなくなるのです。だからこそ、いつも、太陽と雲は友情を深めるための対話をしているのです。

雲が泣くことがなければ、雨を降らせることができません。雨を降らせるためには、怒らなくてはなりません。雲にも喜怒哀楽があるのです。


山本周五郎さんの小説は、女性の特性をよくつかんでいるようです。男性から見た女性像として、女性にとっては自分を見つめる参考書にもなりえますね。

書物をどれだけ広く、深く読んだか。それは自分自身をどれだけ広げ、深めたのかでもある。

1989年

「たしかに…太陽と雲の深い友情は、家庭の中でもみられますね」と、他イクツさんは、空を見上げました。

(終わり)