アラン・ヴェガよ永遠に

 さっき、仕事から帰ってきてテレビをつけた。終わりかけのガキ使を見ていて、あー遠藤がホホホイやってんなー、はは、おもれえ、とか思ってたらいつの間にか終わっていてCMになっていた。テレビの反対のソファでは3匹いる猫どものうちの2匹が若干距離を取って眠っている。猫どもの安眠を邪魔しにでもいこうかしらん、と思ったところでなんだか聞き覚えのある曲が流れてきた。視線をテレビに向けたらGapのCMで、絶対"Dream baby dream"って歌ってるんだけど、絶対そのメロディラインなんだけど、知らないヴァージョンのカバーだった。ネットで調べたらどうやらYeah Yeah YeahsのKaren Oによるカバーらしいけど、どのメディアもオリジナル曲がSuicideによるものだということには触れていなかった。というかたぶんそれを書いた人たちはSuicideなんて知らないんじゃないかと思う。

 ということで、今日は70年代の後半から活躍していたアラン・ヴェガ(Alan Vega)とマーティン・レヴ(Martin Rev)の二人から成るアメリカのプロトパンクユニット、Suicideについて書こうと思う。

Suicideという衝撃

 高校生時分、平成生まれで70年代とか80年代のロックとかそういうの聴いちゃってるし、Joy Divisionとかむっちゃカッケぇし、なんだか俺色々わかってるし?とわかった気になっていたクソガキのそういう固定観念を根源からひっくり返したのが、このバンドだった。Talking Headsとかそういうミニマルな音楽も好きで聴いていたけど、Talking Headsなんかより全然シンプルで、なのにもっともっと尖っていた。まったくもって初めて聴くタイプの音楽だった。

 とりあえずこの曲が収録されているアルバムを一通り聴いた後、インターネットを駆使して色々調べていくうちにどうやらZE Recordsというレーベルと関連が強そうで、"Mutant Disco"というZE Records所属のアーティストの曲を集めたコンピレーションアルバムにも違ったリミックスなどが入っているらしいということで、そのアルバムも図書館で借りて聴いてみたけど ー 文京区の図書館には、当時Vol.2を除いたすべての"Mutant Disco"が収蔵されていた。無論私以外誰も借りないので、いつでも借りて聴くことができた ー その他のどのアーティストよりも魅力的だった。James Chanceももちろんイカれてるし、Lizzy Mercier DesclouxのエセDivaっぽさもそれはそれでクールだったし、Kid Creole & The Coconutsのごちゃまぜ感も心地良かったけど、やっぱり有無を言わさずSuicideが一番ストレートなのに、全然普通じゃなくてカッコいいと思った高校生当時。

Suicideというバンドの存在意義

 冒頭でも触れた"Dream Baby Dream"という曲は、あらゆるミュージシャンにカバーされている。その中でも私が好きなのはSavagesによるバンドアレンジのものなのだけど、驚くべきことにかのBossことブルース・スプリングスティーンでさえもオルガンを弾きながらひとりでこの曲を弾き語っていたりする。そんな様々なミュージシャンから愛される曲でありバンドなのに、日本での一般的な知名度はまったくもって低い。

 さっきまで散々尖ってる、とか言っていたこととは若干矛盾するかもしれないがおそらく、Suicideのような音楽は一般的にはあまり需要が無いけれど、古今東西様々な音楽を聴いてきてそれらに疲れた人々が一番心地よく聴ける音楽なのではないだろうか、と最近思う。というのも、ゆらゆら帝国の坂本慎太郎がたしか今世紀に入ってからのインタビューでむちゃくちゃ良いことを言っていて、覚えている限りで引用すると”最近のそのへんで流れている音楽なんかより、Suicideのほうが全然牧歌的ですよ。最近の音楽は音圧が殺人的で聞けたもんじゃないです”ということだ。

 いやまったくもってそのとおりで、一見(一聴)全然意味の無い歌詞と同じ伴奏の繰り返しで、アルバム通してそんなんだからこういうの聴くに耐えない人がいるのはわかるけども、あらゆる意味で作り込まれた音楽をたくさん聴いている人からしたら、絶対にこういうのでお口直しならぬお耳直しをしたいときがある。そういうときにとてもうってつけなんである(なので、スプリングスティーンのカバーはぶっちゃけ言うとあんまりよくない。あんなに暑苦しく歌うもんじゃない)。そしてそんなバンドはSuicide以外には、思いつかない。もし思い当たるバンドなどある人は是非教えてください。短いですけど今日はこのへんで。とりあえずオリジナルヴァージョンを聴いて酔いしれろ。かしこ。


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