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自己紹介にかえて―日経小説大賞授賞式・受賞の言葉

ただいまご紹介いただきました、湊ナオです。
このたびは、第十一回の日経小説大賞をいただき、本当にありがとうございます。審査員の先生方はじめ皆さまが、きらびやかな経歴もない私の書いた作品を評価してくださったことに、自分自身大変驚き、また、深く感謝しております。

また、今年2020年、東京五輪を迎えようというこの年に『東京普請日和』という、都市開発、現代アート、今ここ、この現在への、否定も肯定も含んでいる実は複雑な作品を、このような現代的な装丁で出版していただけることに感謝します。

百年以上前、森鴎外が「日本はまだ普請中だ。」と書いたように、私は現在の東京を、組織の中で設計に携わる郁人と、自由人の兄英明の目を通し、書きたいと思いました。
『東京普請日和』の作中の兄の英明が、このところのニッポンの、この波乱含みの様相を見たら、きっとまた、それみろ、東京はまだ普請中だろ? とでも言いそうな気がしています。

今回は、日経小説大賞初のダブル受賞、夏山かほるさんの「新・紫式部日記」とのダブル受賞ということで、会社員生活が長かった私は、実は、同期がいることにちょっとほっとしています。
会社員生活の中では、同期は、出世すると悔しいし、辞めちゃうと悲しい。ライバルであり仲間。文学の世界で言えば、夏目漱石と正岡子規などがすぐ思い浮かびます。紫式部と清少納言も同期と言えば同期にあたるのでしょうか?

誕生日で言うと、私は脚本家の宮藤官九郎さん、あまちゃんやいだてんを書いたクドカン先生と生年月日がまったく一緒で、勝手に、科学的根拠もないのですが、運勢の波がもしかして近いんじゃないか、などと、ある意味、その生きざまや作品を、ベンチマークのように横目で確認していました。
これからは、先輩・同期・後輩の仕事をしっかり横目でチェックしつつ、自分自身を鼓舞する指標にしていきたいと思います。

そして、人生百年時代の、私は今年折り返しになるのですが、ここから作家としてスタートさせていただけるめぐりあわせに感謝します。
就職氷河期世代の逆襲、とまではいかないかもしれませんが、自分の目に見えている〝今〟を書き記したいという初心を忘れず、がむしゃらに書いていきたいので、ぜひ、湊ナオの作品はどれほどのもんや、伸びしろ見たるわい、ぐらいの気持ちで、この東京普請日和も、これからの本も、お手に取って読んでいただければと思います。

最後になりますが、このような大変な時期にお運びいただきましてありがとうございます。
ここに立てているのも、自分ひとりの力ではなく、小説を愛し、ここにいてこの場を支えて下さっている皆さまのおかげです。加えて、小説の師匠の根本昌夫先生、同門の皆さんのアドバイス、そして友人や勤務先の会社、家族、夫の支えあってのことだと思います。あらためてお礼申し上げます。

みなさま、今日は本当にどうもありがとうございました。
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この受賞の言葉をお話ししたのは2020年2月27日、木曜日です。

例の疫病の蔓延により前日の夕方に受賞式の一般公開中止が決定。日経ホールで身内と関係者のみに披露した「受賞の言葉」。同年の3月に一瞬公開記事にしたものの、お蔵入りさせておりました。
その後の日本の、世界の? わちゃわちゃな状況や顛末もあり、今読むと青臭くて「なーに言っちゃってるんだなんにも見えてないな大丈夫かコイツ」感が激しいのですが、ここにて披露とともにお焚き上げをしてしまいます。

デビュー後の難しさが身にしみてきた今、少しひねくれてしまって、がむしゃらに取り組んでいた初心を忘れがちになっていたので。
みんな、がんばろうね。そして、がんばるぞ。


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