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“世界の終末”に備える「プレッパー」という人々を知っていますか

新種の伝染病、蝗害、大地を焼く自然災害
・・・そろそろ"世界の終末"に備えよう!
という冗談は今となっては笑えない状況になってしまった。
新型コロナの影響は、健康被害に止まらず経済分野に強く影響し、アメリカでは銃弾の売上が急造したというきなくさいニュースまで流れてきた。

しかし、このような状況をずっと前から想定し、「世界の終末ともいうべき現代社会の崩壊が近いうちにくる」と本気で信じて、それに向けて備えてきた人々がアメリカにいることをあなたは知っているだろうか。
それは「プレッパー」と呼ばれる人々だ。
彼らは"終末世界"を生き残るために、何年分もの食料、水、医薬品、日用品を備蓄し、武器庫を充実させ、狩猟採集のスキルを会得している。

今回の新型コロナが広がった状況でも改めて彼らの存在が注目されつつあり、プレッパー向けのショップが大盛況のようだ。下の動画で紹介されているDonna Nashさんのように、プレッパーとして新しい伝染病のパンデミックを予想し、食料や水はもちろん、消毒液やN95マスクや隔離服を大量に備蓄していた人もいる。

私自身はコアなプレッパーではないが、普段から"Doomsday Preppers"というナショジオ製作の彼らについてのドキュメンタリーやYoutubeで彼らがアップロードしている動画を見るのが好きだったので、そこで観察できた彼らの特徴について、この機会にまとめてみようと思う。

◾️プレッパー と 終末のシナリオ

改めて、プレッパーとは、先にも述べたように近いうちに"世界の終末"が訪れると本気で信じて、それに備える活動している人々だ。英語でPrepperという名前は、Prepare / 準備する から来ていて、「準備する者」を意味する。

”世界の終末”と言っても彼らが考えているのは、現代の社会システムが崩壊することであり、それに至るまでに想定されているシナリオはプレッパーによって異なるが、(それが実際に起きる確率がどれくらいかという話は一旦置くとして)、金融危機、ハイパーインフレ、石油危機、新種の伝染病、蝗害、地震、気候変動、火山の噴火、太陽フレアやEMP攻撃によって発生した電磁パルスによる電子機器の壊滅、核戦争、ポールシフト・・・などだ。そして、その想定するシナリオによって備える方法も、備える規模も変わる。(ポールシフトなどの科学的に判断することが難しく、ややオカルト的だと思えることを想定している人もいるが、それについては、後述の「一部のプレッパーの"不健全"な側面」という項で触れる)

プレッパーは年齢、性別、職業も様々で、50代の女性事業家、60代の男性医師、20代の女性ITプログラマー、テキサスの農家一家など、多種多様な人が活動している。ただ、ほぼ全員のプレッパーに共通して言えるのは、どのようなシナリオ想定するかに関わらずそうした"終末世界"では、生産や物流が止まり、人々はスーパーなどで食料や日用品を買うことはできず、社会的なパニックの中で暴徒化し略奪や戦闘が起きると考えている。それゆえに、彼らが備えるのは地震や核戦争などの直接危険を及ぼす出来事に対してだけではなく、それ以降の法秩序が失われた世界で生き延びるための手段も備えている。

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◾️プレッパーになるきっかけ と 彼らの思想

ややナンセンスに聞こえるかもしれないが、彼らが想定しているものがどのようなシナリオだろうが、彼らにとってその物語は極めて深刻でリアルなもので、備えることは生活の一部でありライフスタイルになっている。中には趣味やライフスタイルの範疇を超えて、自分で製品を作ったりすることで、プレッパーとしての活動を職業にしている人までいる。

彼らがそこまで人生をかけて本気で取り組むのは、プレッパーになる過程でインターネットなどから情報を得ただけでなく、従軍経験や9.11テロ、強盗被害、噴火した火山からの避難、リーマンショック、日本の3.11など、実際に見たりその身で経験したりしてトラウマになったことをきっかけにプレッパーズになる人が多いからだ。しかし普通に考えて、そのような経験をしたからといって、全員がプレッパーのように何年にもわたって数万から数十万ドルもの投資をして準備をするようになるかと言われるとそうではないだろう。何らかの知識やトラウマをきっかけに、一般的な人より強い強迫観念を持ってしまっている人がプレッパーになりやすいという側面は否定できないと思う。(実際に「自分は取り憑かれている」と話す人もいる)

そういう彼らにとっては、備えることこそが、恐怖に立ち向かい安心を得るための方法であり、自由に感じられるための方法なのだ。これは同じ「安心感や自由感を得る」という目的で、3.11以降の日本ではどちらかというと「モノを減らして身軽になる」という断捨離やミニマリズムの動きが強かったのに対して、やや対称的なマキシマリズムの動きだとも考えられる。確かにアメリカでコンマリも流行っているのだが、プレッパーも増加しているのだ。

そして、彼らがよく口にする、彼らの価値観をよく表している言葉は「自立と責任」という言葉だ。現代社会は、非常に多層的なインフラや技術の上に成り立っており、人々はそれに依存しすぎている。基本的なライフライン、通信と電子機器、生産、物流と貿易・・・いざ、その多層的な土台のどこかが崩れれば現代社会はあっという間に成立しなくなり、多数の死者が出る状況になる。それに備えて、現代的な社会システムに依存せず自立できるようにしておくことが、自分や自分が守りたい人々に対する責任を果たすことだ。ということを考えている。

彼らは、「起きる確率がそもそも計算不可か、仮に計算できてもその確率が非常に小さいにも関わらず、いざ実際に起きてしまえば社会を壊滅させるほどの大きな影響を持つ不確実性の高い脅威」に対して、人間は驚くほど無力にも関わらず、あまりに多くの人が無関心であると考えている。大地震や今まさに新型コロナを経験している日本人として、彼らを”ちょっと頭がおかしくなった人たち”と切り捨てることはできないと思うし、学べることもあるはずだ。

追記:プレッパーになる理由は、インターネットで知識を得たりトラウマのような原体験を経験したりしたからだと書いたが、経済的な要因も大きそうだ。2000年以降アメリカでは、ガソリン、電気、食料品と言った生活に欠かせないものの価格の上昇傾向が長く続いた。その価格上昇に対して実質賃金が上がっていない層が、「貯金ではなく、今モノを買い貯めておかないと、今後も物価が上がり続ける」という危機感をつのらせたこともプレッパーになるモチベーションにつながったと思われる。

追記2:彼らが想定している世界観を非常によく表している映画が、「コンテイジョン」という映画だと思う。(リンクはNetflixだが、他のサイトでも見れると思う)この映画は、致死率の高い未知の伝染病が世界に広がる話だが、病の恐ろしさだけでなく、それをきっかけに人々が暴徒化し、人々のモラルや法秩序が効かなくなっていく様子も描かれている。この映画の世界を生き残るためにプレッパーは活動してると考えていいと思う。

◾️実際に彼らは何をしているのか

では、彼らは実際にどのように”終末”に備えているのか。
彼らの備え方を見ていると基本的な方針は
「非常時でも安全な場所を作り防衛できるようにする」「必要なものを備蓄する」「現代のライフラインに依存しない生活水準でも生き延びられるスキルを身に着ける」の3つだと思う。
しかし、これらの似たような方針をとっているとしても、どの方針に重点をおくかやそのスタイルが人によってかなり異なる。食料備蓄や設備をガッチリ備えて定住し防衛することをメインに想定している定住タイプや、備蓄をそこそこにして移動しながら狩猟と採取を行って食料を確保することをメインに想定しているサバイバルタイプなどがいると思う。社会性についても、備える活動を個人や家族だけで完結するタイプもいれば、その近隣地域全体を巻き込んで備えるタイプもいる。

そこで、そのタイプごとに彼らがしていることを分けるのではなく、「食」「水」「住居」などのテーマごとに彼らがしていることをリストアップしてみた。網羅性を重視した結果非常に長くなったので、気になるテーマだけ拾い読みして、最後の「一部のプレッパーの"不健全"な側面」と「彼らから学べること」の項を読んでもいいと思う。(この記事は合計11000字です。)

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「食」

・食料を備蓄する
食料の備蓄はプレッパーのほぼ全員がしている最も基本的な準備と言っていい。人によって期間にして1週間分〜20年分の食料を備える。備蓄するのは当然長期保存できる食料で、米や乾燥とうもろこしなどの乾燥穀物、豆類、フリーズドライ食品、ベーコンやハム、ピクルス、チーズ、缶詰類、軍の非常食など。ただ、極端にサバイバルタイプに偏ったプレッパーには一切備蓄をしない人もいる。(実際に彼らがどこに備蓄するかについては後述する。)

追記:巨大地震を想定しているのに、食料を瓶詰めにして棚に並べて保管する人もいて、瓶を何の対策もなしに棚に置くと地震の時に何が起きるか知っている日本人としては結構ツッコミたくなる。

・農業 / 農作物の種子の貯蓄
定住タイプのプレッパーが、人が殆ど住んでいない田舎の広大な土地を買取り、自給自足することを前提に農業をすることが多い。育てるのはトマトや芋など定番のものが多いが、種を採取して何度も植え直すことができる遺伝子操作されていない在来種を選ぶ人が多い。また、土地を持っていないプレッパーで、様々な農作物の種子だけを備蓄する人もいる(1万種以上の大量の種を備蓄する人もいる)。種は、適切に保存されれば人間の寿命を遥かに超える長さ保存できるものがある上に、”終末世界”では物々交換において貨幣の代わりのように扱われると考えるプレッパーが多い。

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・酪農 / 昆虫の飼育
酪農は農業と同じく広大な土地で自給自足を志すプレッパーが好む。卵を得ることができる鶏、ミルクを得ることができるヤギと牛に加え、非常に繁殖が早く資源として再生しやすいという観点からウサギを飼育している人もいる。昆虫は酪農に比べて飼育や繁殖のハードルが低くタンパク源になるため、コオロギやミルワームを飼育している人もいる。普段から昆虫食を食べて、慣れるようにしているようだ。

・狩猟/採集スキルの取得
太陽フレアや他国からのEMP攻撃によって電磁パルスが発生し、電送網や電子機器が全滅し、狩猟/採集生活に戻ると本気で考えているプレッパーは多い。銃、弓、パチンコ、罠などを使って野生動物や魚を狩猟する練習を行ったり、可食植物の知識を学び、採取し調理する練習をしたりする。定住タイプよりも移動しながらのサバイバルタイプがやりがち。調理の際には、落ちている道具で火を起こす方法なども学んでいる。

「水」

・水の備蓄
ペットボトルで何千リットルも家に備蓄する人がいる。ただし、水と食料を同じ年数分備蓄するとしたら、水は食料より遥かに大きなスペースが必要になる。そのため、広い家を持つことが難しいNYなどの都市エリアに住むプレッパーはそこまで多くの量を備蓄できない課題がある。その課題を何とか解決しようと、ベッドをウォーターベッドにしていざというときの水源にするなど、その備蓄方法にはプレッパーごとに工夫が見られる。

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・水を得る設備を作る
井戸を掘ったり、雨水を貯める装置や池の水や尿を飲める水にする濾過装置を作ったりするのが定番の方法だ。

・植物などから水を得る練習をする
サバイバルタイプのプレッパーは、ミズゴケを絞って水を得たり、植物の蒸散を利用して水を得る方法を練習する。

「安全な拠点 と 防衛策」

・安全な拠点を確保する
拠点で重要視されているのは、防弾、防水、防放射能、耐震、耐核爆弾などの項目で、実際に自分の家に銃弾を撃ち込んで強度を確認する人までいる。一箇所だけを拠点にせず、そこが暴徒に制圧された場合を想定して、複数の拠点を持っている人が多い。安全な住居を確保するという目的は一緒なのだが、プレッパーが選ぶ場所は、地下室、地下シェルター、鉄筋コンクリートの要塞、隠し部屋、蛸壺壕、無人島、軍用トラックを改造したキャンピングカーなど様々だ。極端なプレッパーで、冷戦時代に政府が400万ドルで作ったミサイル格納庫の地下施設を4万ドルで買い取って改造して家にしている人もいるが、3000ドル前後で安く買える貨物用コンテナを改造してDIYで地下シェルターを作る人が多いようだ。貨物用コンテナは、その本来の使用目的上、普通の家よりはるかに頑丈で水によって発生する問題(サビや腐食)にも強いためプレッパーが好む。サバイバルタイプのプレッパーは、テントや木と木の葉でできる簡易的な穴蔵で凌ぐことを想定しているようだ。

・備蓄庫を複数箇所に分けて管理する
大量の備蓄をどこに置いておくかという問題があるわけだが、
住居となる拠点にできるだけ備蓄したあと、収納しきれない備蓄は「複数箇所に分けて地下に埋める」というのがプレッパーの定番らしい。地下シェルターと同じように輸送用コンテナを改造したりして容器を作り、備蓄品を詰め、拠点から少し離れた庭や近くの森などに埋める人が多いようだ。埋めてしまえば、そこに埋まっていることを知っている人以外は気付きにくいし、地下は地上より気温が低く安定しているため食料の保存に向いている。埋める場所をできるだけ分散させれば、一箇所に備蓄した場合にそこに入れなくなったりそこから略奪されたりした時に全てを失うリスクを回避することができる。

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・武装化 / 銃器を使った戦闘訓練
前にも述べたように多くのプレッパーは、人々が暴徒化し略奪や戦闘が行われる世界を想像しているので、拠点の防衛策を複数講じている。備蓄が多い分普通の人より狙われやすいと考えているのだ。その防衛策で最も多いのが、武装化だ。数十丁の銃器と豊富な弾丸を揃え、武器庫を整備する。プレッパーが好む銃は、対応している銃弾の流通量が多いベレッタなどの定番だ。その方が銃弾を追加で調達しやすいからだが、つわものプレッパーには屑鉄と火薬から銃弾を自分で作れるようにしている人もいる。銃を置く場所は、金庫の中に厳重に保管する人もいれば、家の中でどこにいても6m以内に銃が手に取れるようにバラバラに隠して置いている人もいる。(普通に考えれば相当危ない人だ)
その他、銃火器は音が大きく注意を引くという理由などから、弓やナイフだけで武装化するプレッパーもいれば、庭を自家製のパイプ爆弾で遠隔爆破できるようにして要塞化する人もいて、その方針や規模は様々だ。

そして、彼らは武器庫を充実させるだけでなく、それを使う練習も忘れない。子供にも普段から筋トレや有酸素運動で体を鍛えさせるだけでなく、実践レベルの実銃を使ったタクティカルトレーニングや、ナイフや素手での近接戦闘術(CQC)を習わせる。(というかそれを習うために、仕事をやめて入隊してしまう人もいる。)元々退役軍人のプレッパーが多いだけでなく、アメリカにはブラックウォーター社のような民間の戦闘訓練を行う会社があるため、日本人が思うよりも一般的なことのようだ。

追記:戦闘訓練に関連して、敵に自分たちの会話が伝わらないように、モールス信号やフィリピンの1言語であるタガログ語でコミュニケーションをできるようにしている人もいる。凄まじい努力である。

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番犬の飼育
拠点の防衛策として、ペットを兼ねながら番犬を飼う人も多い。
ただ犬を飼うだけ出なく、軍犬のような高度な指示訓練を行う人もいる。
そして衝撃的なことだが、犬たちを究極的な状況での非常食として考えている人もいるようだ。(なお、いざという時は安楽死させるという人もいる。)

・緊急避難の計画とその訓練
ここまで書いたように強固な拠点を構え、拠点の防衛策をしてもなお、彼らはそれで安全とは考えていない。別の拠点まで逃げたり、激しい暴動が予想される都心部から脱出したりするために、最低3つの避難ルートを確保することを彼らは推奨している。

移動手段も車、徒歩、自転車、リアカーなど複数あるが、核や太陽フレアなど電磁パルスが絡むシナリオを想定している場合には、今や殆どの車は電子部品抜きでは動かないものになっているため壊れることを想定して、それ以外の手段を考えるプレッパーが多い。徒歩は危険も付き纏うため、闇に紛れて避難を行うために、夜にナイトヴィジョンゴーグルをつけて逃げるプランを考える人もいる。また、仮に車を選ぶとしても、アメリカで市販されている電磁パルスに耐性があるSUVや中古の軍用車を保有している人が多い。(市販で電子パルス耐性のある車があるということはそういう市場ができるほど需要があるということで、それにも驚きだ。)軍用車はそれ以外にも頑丈で複数の燃料に対応していて燃料を確保しやすいなどの多くの利点があるためベストな選択肢のようだが、非常に高価なのと普段使いするには燃費が悪いのがネックだ。

追記:電磁パルス対策を考えない場合、国の基準で作られているスクールバスは強度があって安いため人気のようだ。シェルターに転用されたりもする。

「医療品 / 日用品 」

・医薬品の備蓄
医薬品は、処方箋がないと手に入らないものがある分、プレッパーにとっては課題になりやすい。風邪薬やワセリンなどは大丈夫だが、抗生物質はアメリカでも処方箋がないと購入できない。しかし、非常に"たくましい"彼らは、(本当に安全なのかどうかは不明だが)成分が似ていて処方箋なしで買うことができる動物用の抗生物質を備蓄している人もいる。
その他、核に関連した脅威を想定している人は、ヨウ素剤を備蓄している。日本でも3.11の時にその薬の名前を聞いた人は多いだろう。

・薬草の採集と使用の練習
基本的に移動先で現地調達することを好むサバイバルタイプのプレッパーは、自然に生えている薬草などの使用を想定している人が多い。例えば、消炎鎮痛剤であるアセチルサリチル酸(アスピリン)の元の成分であるサリチル酸は、ヤナギの木の樹脂から抽出できるもので、それを使う方法を学ぶ。(ヤナギの木は、実は紀元前から使用されており、日本にも江戸時代にはヤナギから抽出できるサリシンを「撤里失涅(さりしん)」と読んで使用していた。)

・衛生用品の備蓄
衛生用品と言っても、一般の人が考えるような、消毒液、包帯、抗菌ティッシュ、生理用品、おむつなどの定番の物だけではない。ウイルスなどの伝染病が人類を滅ぼすと考える、上記で動画を紹介したDonna Nashさんの一家のようなプレッパーは、対策として大量のN95基準のマスク、ゴーグル、使い捨ての隔離服、ゴム手袋、ヘアキャップ、靴カバーの一式を備蓄している。
マスクに関しては、N95以上の細かい粒子に対応するDL3またはRL3レベルのマスクや、防毒マスク、酸素ボンベなどまで備えている人もいる。
(というかそこまで行けば衛生用品というか医療とか軍事用品の域のような気もする。)

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・日用品の備蓄
備蓄する日用品は、トイレットペーパー、洗剤各種、石鹸、ロープ、手持ちライト、電池、簡易トイレキットなどだ。特に多く備蓄している傾向にあるのは、トイレットペーパーや石鹸などの「作る過程で石油が必要になると"されている"製品」だ。これは、終末には様々な経緯で石油が不足するというシナリオを考えている人が多く、商品が生産されなくなったり価格が異常に高騰したりする事態を想定しているためだ。(実際にそれらの製品に石油が必須かという話はここではしないが、是非調べて見て欲しい。意外とそうでもないようだ。)
トイレットペーパーは400本以上備蓄しているプレッパーもいるが、ただトイレで使ったり汚れを拭いたりするだけでなく、固形燃料の材料になるなど、多目的に使うことを前提としているようだ。同じように、新聞紙も固形燃料になるため保存している人がいる。

また、日用品に含まないかもしれないが、放射能が関連するシナリオを想定しているプレッパーは、ガイガーカウンターを数十台単位で保有している人もいる。

「物々交換で価値を持ちそうなもの」

物資が極端に不足した状況などには、貨幣が意味をなさず、物々交換がメインになると考えるプレッパーは多い。そこで、彼らは彼らなりに物々交換で需要が高いと考えているものを備蓄している事が多い。定番は、金や銀などの貴金属、農作物の種子、アルコール度数が高いお酒などだ。アルコール度数の高いお酒は、崩壊した世界を酔って楽しむ事ができるだけでなく、消毒に使ったり、燃料として使ったり、火炎瓶にして武器に使ったりと非常に汎用性が高いため、多くのプレッパーが備蓄している。そのためだけに自分でワイン作りを始める人もいる。その他、賞味期限がなく栄養価が高いハチミツが物々交換に役に立つと考えて養蜂をしたりする人もいる。

「その他」

・エネルギーの確保
シナリオによっては、電力、ガス、ガソリンの供給が止まったり異常に値上がりしたりすることを考えている人もいる。彼らはエネルギーを確保するために、簡易的な風力発電装置、ソーラーパネル、食用油をバイオ燃料に変える機械、新聞紙やティッシュを固形燃料に整形する機械、水をHHOガスへ変換する機械などを準備している。

・通信手段
ネット通信が止まっても、外部と連絡を取り、情報が確保できるように、無線機を持っているプレッパーは多い。そして、ファラデーケージという電磁パルスの影響があっても中の電子機器が壊れないケースに保管している。

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◾️一部のプレッパーの"不健全"な側面

ここまで、プレッパーがどのような人々で、何をしているかを書いてきた。
ここまで読んだ人ならわかるだろうが、彼らは大真面目だ。冗談でやってない。
人によっては、そんな彼らを、起きることのない脅威に対する恐怖と強迫観念で少し異常な行動をしてしまっている人だと考えると思う。もし隣人が終末論っぽいことを唱えて、防護服を来て避難訓練をし始めたり、DIYで地下シェルターを作り始めたり、手作りのパイプ爆弾を庭に埋め始めたりすれば、知らない人は誰だって不気味に思ってしまうと思う。

実際、すべてのプレッパーが健全であるとは残念ながら言いにくい。その言動から人から奇異の目で見られる事が多いために、一部のプレッパーは「事が起きれば正しいの私たちで、馬鹿にした奴らは死ぬ。そうなれば立場は逆転する。」という排他的で歪んだ優越感を持っていて、むしろそういう終末的な状況を待ち望んでいる人がいる。

それだけでなく、現実逃避の妄想から始まって、あまりに非現実的なこと、オカルト的なこと、疑似科学を信じてしまっている人も一部いる。例えば、ポールシフトが将来起きると本気で信じている人もいるが、現在の科学ではそれが実際に起こると考えることは難しい。オカルトの域に近いものだ。核攻撃やEMP攻撃の電磁パルスで電子機器が壊れるというのも、冷戦時代ならともかく、今の時代にどこまで現実味があるかと言われると厳しいものがある。(北朝鮮がやるという人もいるが・・・)

また、プレッパーとしての活動を家族が賛同せず、明らかに家庭に問題が発生しているケースもある。想定する終末の世界では貨幣が意味を持たなくなるという考えからお金の貯蓄を全くせず備蓄に投資したり、家をその備蓄だらけにして困らせたり、安全な拠点としてスーパーマーケット1つない田舎に引っ越したりすることで、家族にも影響を与えていることがある。特に子供に関しては、学校にいかせず森でのサバイバル術を教えることを優先したり、5歳児が地下シェルターで嫌がりながらガスマスクをつける訓練をしているのを見ると、日本人の一般的な感覚でいうと虐待だと言えてしまいそうなことも起きている。

◾️彼らから学べること

それでもなお、彼らから学べることは多いと思う。
「プレッパーになるきっかけ と 彼らの思想」の項でも書いたが、彼らの思想にあるのは恐怖だけでなく、今私たちが当たり前に恩恵を受けている「現代社会システム」の脆弱性に対する疑いであり、それに対して政府などに依存せず自立して責任を果たそうという姿勢なのだ。あるプレッパーが言った「震災がいつ起きるかは選べないけど、備えることは自分たちでコントロールできる。だからそこには部分的であれ自分の責任が発生する。」という言葉は、正しいものだと思う。

内閣府の防災情報ページには、こう書かれている。

大災害発生時、公的な支援物資はすぐに届かないかもしれません。コンビニなどのお店にも人が殺到し、すぐに商品が無くなるかもしれません。そのため、ご家庭で非常食等の防災グッズを備える事はとても重要です。これまで、備蓄は3日分あれば十分と言われていましたが、非常に広い地域に甚大な被害が及ぶ可能性のある南海トラフ巨大地震では、「1週間以上」の備蓄が望ましいとの指摘もあります。

プレッパーのように数年分とは言わなくても、各家庭で普段から一週間分以上の食料と水、十分なトイレットペーパーや医療・衛生用品の備蓄ができていれば、全体で考えても非常に大きな備蓄となる。今回の新型コロナの時のように、パニック的な買い占めがおきるということも緩和できるかもしれない。

そして、上の項では一部の不健全な人について触れたが、自分の資財を投げうって、近隣地域、引いては人類のためにと考えてプレッパーの活動を行なっている人ももちろんいる30年近くかけて地下に1000平方メートルのシェルターを作り、核戦争時に近隣の子供だけを避難させようと考えている人もいれば、マスクなどの伝染病対策セットを近隣に配る活動をしている人もいる。何かがあってももう一度人類が繁栄できるように、彼らは準備をしているのだ。

そして今私たちが直面している状況を考えたい。
前々から新しい伝染病のリスクは指摘されてきたが、ほんの3ヶ月前まで、新型コロナで世界がこういう事態になるとは、誰も思っていなかったはずだ。
しかし、その誰も予想できなかった方向に世界は確かに進んでいく

南海トラフの巨大地震が起きる確率は今後30年で80%だという。
これまで起きなかったから、これからも起きないとは言えないということを、改めて今回の新型コロナで私たちは学ぶ事ができたんじゃないかと思う。(もちろんまだ全然終わっていないが)

人は、崖の上に立つことのリスクは簡単に把握できるが、目に見えないもののリスクになった途端に一気に把握能力が落ちる。未来のことだ。
それを自覚して、正しく恐れて、備える事ができたら良いと思う。

もしここまで読んでくれた方がいたら、非常に冗長な長文を読んでいただきありがとうございました。感想、ご指摘なんでもコメントをしていただければ幸いです。

ー終ー

補足:「衣類について」
今回、この記事を書くに当たって、プレッパーについて調べたりYoutubeを見たりしていて思ったが、いわゆる「衣食住」の中で、食と住については非常に念入りに準備がされているのだが、衣類についてはほとんど話題にならず、取り上げられない。なぜだろう。そもそも、あまり消耗品だとは思われていないのか、どうなのか。なかなか謎だ。

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