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【後編】井出信孝×濵島広平 MINAMOTOを始めて気づいたこと そして、コラボはどうなる?

「原型師」にもっと光を。
その声の下に立ち上がったプロジェクト、 MINAMOTO


今回からはMINAMOTOプロジェクトの中心に立つ、一般社団法人コネクテッド・インク・ビレッジ代表理事・井出信孝氏と株式会社イクリエ代表取締役・濵島広平氏の対談をレポート。


前後編でお届けする特別対談レポート、後編の今回は「MINAMOTOプロジェクトを進めてみてわかったこと」「コラボのねらい」というテーマで二人にお話を伺っていきたい。


前半の記事はこちら


井出信孝氏

転換点となった原型師へのインタビュー


――いざMINAMOTOプロジェクトが動き出して、何か変化はありましたか?

井出氏
当初、僕たちMINAMOTO側は、原型師さんのオリジナリティや作家性に注目してもらうアプローチを取ろうとしました。特定のキャラクターIP(知的財産)に似せる仕事が多い原型師さんに「似せる」という制約の無い状態でお題を渡して、日頃表に出てきにくい各自のオリジナリティを引き出そうとしたのです。

ただ、実際に作り手の皆さんからお話を伺うとそのアプローチには不足している観点があると気づかされました。僕にとって最大の学びは「MINAMOTO×絵師100人展」の参加クリエイターでもあり、イクリエで原型制作を行う曽我さんに伺ったお話です。

イクリエ社曽我氏が共作のターンを担当した「Conductor」


とある原型師の矜持


井出氏

曽我さんはイラストや特定のIPなど、既に存在しているキャラクターに対して「自分ならではの作風というよりも、いかに2次元のキャラクターを立体として再現できるか」に仕事の楽しみを見出していました。そのことを伺ってハッとさせられました。一概に原型師の作家性と言っても、人それぞれこだわり方や楽しみ方は異なるのだからオリジナリティだけにフォーカスしては立体創作の魅力が伝わりきらないということです。

濵島氏
「原型師の作家性」については、僕も弊社の曽我の話を聞いて考えるところがありました。一年前の僕は、IPなどの既成の原案の中で制作するのは窮屈だろうと思っていましたが、立ち返って考えると制約の中にも確かに楽しみはあるのです。むしろ、制約の中で最大限のパフォーマンスを発揮できる者こそプロだと言えるかも知れません。決して作家性だけではない立体創作の多様な価値観は、現役の作り手、特に既存のIPを取り扱う商業原型を仕事とする原型師から、きちんと共感が得られるように発信していきたいと思います。僕自身も作り手としてこの楽しさを知っているはずなので。

自分も作り手の立場なので、現場の声を大切にしたい。すべての人から共感を得るのは難しいと思いますが、少なくともフィギュア業界に関わっている人たちからは可能な限り共感してもらえるようにしたいと考えています。

濵島広平氏


絵師とのコラボのねらい


――普段、商業原型の仕事はメーカーからオーダーが来てフィギュアを制作すると伺いました。今回のコラボはその「逆」。どのようなねらいがありますか?

濵島氏
普段の商業原型の仕事では、原型師と絵師の間に「監修」としてフィギュアメーカーや版元の担当者が介在します。一方、今回のコラボでは両者の間の距離をゼロにする。直接クリエイター同士でコミュニケーションを取れる場があると、普段とは違うクリエイティブが生まれるのではないかと期待しています。

今回のコラボのコンセプトは、原型師と絵師という二種類のクリエイターが横並びになることです。そのため、コラボ前半はあえて余白を残して制作するという内容にしました。後半では前半で作った作品をクロスオーバーし、それぞれの個性が込められた作品が完成する。このような形で両者の個性にフォーカスを当てた企画となっています。

井出氏
僕は、塗装等が行われていない原型師さんの作品に関しても「いち完成形の途中経過」ではなく、そのものこそがアートだと考えています。原型のデータやサフ吹き状態のものは彩色も量産もしていない、金型に分解されてもいないけれど、完成度や表現の強さが凄まじいのです。そのような立派な作品が「フィギュア制作の途中経過」で終わってしまうのは勿体ないと感じていました。

MINAMOTOを通じて「フィギュア制作の途中経過」では収まらない、原型師さんの素晴らしい仕事をより多くの人々に知ってもらいたいと思っています。


このコラボから何が生まれる?


――このコラボを通して何が生まれるだろうとお考えですか?

濵島氏
僕はまず自分で作ったフィギュアがイラストになる体験をしたことがないので、今回関わったクリエイターたちがどう捉えるのかとても楽しみですね。

井出氏
企画発案時の意図は、原型師さんと絵師さんが横並びになって作品を制作してもらい、原型師さんたちの作家性や創造性を開放することでした。しかし、冒頭でお伝えした様に後にこれは不足している観点があったとイクリエの原型師・曽我さんのお話を伺って気づきました。結局、完成品を見たオーディエンス、作り手、絵師たちが何を思うのかはそれぞれ異なると思います。

濵島氏
全く異なると思います。原型師と絵師がお互いにどう思ったのかは、僕たちもこれから知ることなので。

井出氏
もしかしたらオーディエンスの皆さんはクリエイターの内面で何が起こったかはわからずに、完成した作品に対してのみ感想を抱くかも知れません。けれども原型師と絵師、両者の内面では僕らには計り知れない化学反応が起こっているはず。その中にはポジティブな感情だけでなく、ネガティブな感情もあるかもしれません。そういったクリエイターたちの葛藤が一つの作品として収束し、浮かび上がるのがお披露目の瞬間だと思います。

もし、作品にまつわるクリエイターの葛藤をオーディエンスに伝えることができたなら、より深く作品を理解し共感してもらうことができることでしょう。おそらくそれは「新しい表現の楽しみ方」に繋がるだろうと思います。クリエイターの中にある葛藤はまだシェアされていませんが、実はそこにこそ価値があると思います。彼らの抱える葛藤と完成作品をセットでオーディエンスに提示したとき「新しい表現の楽しみ方」が少し垣間見えるのではないでしょうか。楽しみです。


前後編にわたり井出信孝氏、濵島広平氏の対談をお届けした。
「絵師100人展×MINAMOTO」コラボ作品の展示は8月から秋葉原にて開催される。是非、その目で両クリエイターの邂逅の結実を見届けてほしい。


MINAMOTOはまだ始まったばかり。形や価値観を変えながらアップデートし続けるプロジェクトから引き続き目が離せない。


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