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【ゲームレビュー】死へと向かうどうぶつたちの航海「Spiritfarer スピリットフェアラー」

幼少期にトムとジェリーで育ち、カートゥーンの動きを「いいなあ」と思う僕には最高のゲームだった。

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プレイヤーは生と死のさかいめの世界で、船乗りになる。

建物を配置して、行きさきを指定して航海に乗り出す。動物の姿をした乗組員と、目的地につくまで食材を集めて、料理して、木を植えて、釣りをして。

乗組員のワガママを聞いて、ハグをする。
共同生活をしながら、死を受け入れた乗組員を「向こう」に送るのが仕事だ。

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1日だけ見れば「どうぶつの森」のような、永遠に続くコミュニケーション&スローライフに見える。

そのうち、最初は料理ができるだけで楽しかったのに、わざわざ作った料理に文句を言われる。水をやる植物があちこちにあって、駆け回るようになる。
スローライフのほうが、やれることが多すぎて忙しくなる現象だ。面倒くさいなあ。なのに、心のこりがなくなった乗組員たちが、唐突にこっちの気持ちも知らず「私をあそこに連れて行って」とお願いしてくる。

ひとり、ひとり、
船旅から送り出すと、

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あとには、一人ですごすには大きすぎる設備と船だけが残る。
家事とハグの空間だった船は、いつのまにか死と喪失の空気が厚くかぶさっている。
忙しかった日々が貴重なものだったことに気づく。

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老ライオンが昔話をしたり、弟のような存在は得体の知れない姿をして、好き嫌いで困らせたり。現実では人間だった存在が、こういう生き物に見えていたんだ、ってことがわかってくる。

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みんなの部屋に飾ってある写真で、現世での姿がわかる。ひとりだけ異形の姿の彼は、どんな動物にもたとえようのない「何者でもない」うちに命を絶たれてしまったんだ、と解釈した。

ファンタジー世界でスローライフを送るつもりで始めたのに。動物たちと船旅に見えていたのは、ぼくらの家族と生活だった。
最初はひとりでも平気だったのに、みんなを送り出したあとの「ひとり」の前では、巨大になった船がただ、がらんとしていた。

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と、終わってからレビューを書くからしんみりしてしまうけど、プレイ時間の9割ぐらい、ずっと楽しい!ずっと気持ちいいゲームなのは強調したい。機織り機や鍛冶場で素材を加工できるけど、ゲージを表示しないで、設備についてる目盛りにしたがって作ったり、アクションゲームのように動くけど、戦闘を絶対にやらないなど美学を感じる。


ゲームの中でずっと生活する、終わらないタイプのゲームは多い。

スピリットフェアラーは、終わらないゲームのような作業をやるのに、はっきり「終わり」がある。

現実逃避のためのゲームの、「その先」を見せてくれた。死がテーマにあるけど、死を意識することは、永遠の現実逃避よりは前向きだと思わせてくれる。仲間は星や雲の姿で航海を見守っている。

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読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。