古い舞台・古いシステム・古いテーマをかけあわせたのに、一周して新しい「トルバーブルック」!
買った記憶もない宝くじで、さびれた町「トルバーブルック」の宿泊券を当てた量子学者、タンハウザー。
夏休みのバカンスにのこのこやってきた彼は、宿で大切な論文を盗まれてしまう。泥棒の足跡は、見たことのない不気味な色に輝いて部屋の外に消えていた。
PS4とニンテンドースイッチで発売された「トルバーブルック」は、ポイント&クリックで、世界のシステムを揺るがす陰謀に巻き込まれた学者の、ひと夏のふしぎな体験を味わうゲームだ。
実際のミニチュアを取り込んだ、リッチなジメッとした映像。
気になる場所を指定してクリックすると、命を吹き込まれたミニチュアがトコトコ歩いて、調べて、会話する。
長い年月ではがれかけた壁紙、そこについた手垢のようなシミ。光に照らされて舞うホコリ。
気になる場所をクリックするシステムは、昔からパソコンゲームにあったものだ。
動くミニチュアも、昔からある人形劇とか、そんなものを連想する。舞台は60年代のドイツだ。
古いものばかりをかけあわせているのに、懐古趣味ではなく「むしろ新鮮」と思えるゲームが出来上がった。
スマホによくある「脱出ゲーム」と同じような操作方法だけど、血まなこになって暗証番号を当てるゲームではない。もっとゆったりしている。
腕ずもうが強い宿のおかみと身の上話をしたり、ドイツ語フルボイスで植物の豆知識などを聞いていると、なんとなくアイテムがもらえて進展していく。
楽器を義足に改造した船員とか、意味ありげな絵画や機械とか、情報量のわりにちょっと出てくるだけで終わるので、
「えっ、この存在感できみの出番これだけ!?」と驚く。もっと拡大させて見せて!話も聞かせて!
戸惑っていると、ときおり、おっと思える光景がある。たとえば、バスが、砂煙をあげて、重量を感じさせる動きでじりじり山道をのぼるカット。
序盤のわくわくするシーンなのに、このゆううつな音楽。今の時代、いくら金のかかったCGでも、緻密な絵でも驚けなくなっているのに、ミニチュアは強い。
「おっ、動いた」とニヤリとできる。
初代プレイステーションで、たまに「ムービー」が挿入されているのを観たときの感じだ。あのころは、操作できないシーンがご褒美じゃった・・・。
もっとサブカルに詳しい方なら、昔のSF映画や人形劇を思い出して、
「おっ、この感じ」
と笑うのかもしれない。
ドイツ産ゲームと聞いて緻密な謎解きを期待していると、拍子抜けだ。
操作も翻訳も完璧ではない。このゲームはこちらの期待にこたえてくれないし、住人たちはこちらの常識にあわせてくれない。
「謎解きアドベンチャー」ではなく、これは異国旅行だから、ととらえれば納得。
盛り上がるシーンは少ないけど、10時間にも満たない、ひと夏の異国旅行が終わりに近づくと、なんだかんだで寂しい。
期待とは違ったのに、終わるとなると寂しい。
この感傷が、全部含めて「旅」に似ている。
パッケージを閉じるとき、魂をふきこまれた「彼ら」が、動かないミニチュアへと帰っていくところを想像した。
読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。