下村陽子の曲に乗ってドカベンが快音を響かせる「水島新司の大甲子園」
「ファイナルファンタジー15」
「ライブ・ア・ライブ」
「ストリートファイターⅡ」
「スーパーマリオRPG」
そして「水島新司の大甲子園」
すべて作曲に下村陽子さんという方が関わっています。
熱く、頭に残るビート。ポコポコと何を叩いているのかわからないけど、耳を持っていかれるリズム。
特に戦闘中の音楽は名曲揃い。引きの強いイントロからプレイヤーの胸がざわっと沸き立ち、サビでは体温が4度は上がる。
そのなかでも、ややマイナーですが「水島新司の大甲子園」というゲームを紹介します。
まず原作マンガ「大甲子園」を紹介します。
「ドカベン」山田太郎をはじめ、「球道くん」「一球さん」といった、歴代水島新司の野球漫画のキャラクターが勢ぞろいして甲子園で戦うクロスオーバー作品。
その中でも「ドカベン」山田太郎は圧倒的に強い。ドカベンというのは、ほぼ負けないスポーツ漫画で、9回に打順が周ってきたらだいたいホームラン打つ。
他の選手も、それぞれマンガ雑誌で表紙を飾ったスター選手なのに、じゅんばんにドカベン山田太郎率いる明訓高校に高校最後の青春を終わらせられる。
マンネリなんてバカにできない。
むしろ、展開がわかっているのに読めるのがすごい。
スポーツは筋書きのないドラマだから面白いはずなのに、勝ちが確定しても面白いのは不思議だ。
そしてゲームのほうも、勝つまでコンティニューできる。
確定した「勝ち」に向けて進むところが、ドカベンとゲームは同じだ。
ゲーム画面はこんな感じ。ピッチャーが5×5のマスの、どこに投げるかを指定して、その後バッターも、どこを打つか選ぶ。
ピッチャーが「カーブ」「フォーク」などの変化球を選択していたら、指定したマスからずれた場所に投げたことになる。
バッター側は、「前はストレートだったから、今度はカーブと予想してひとつ横のマスを選ぼう」とか、相手との駆け引きが生まれる。
当時の野球ゲームってだいたいこんな感じで、
「速い球を投げる人ほどすごい」
みたいな価値観だったのに、
「水島新司の大甲子園」では、いっちょまえに「配球」を軸にしている。
うまく相手の投げた球種を予想して、打ったと判定されると、「キーン!」打球音が響く。
「大きいぞ!」打球はナレーションと、追いかけても届かない選手たちのアニメで表現される。伸ばしたグラブのさきのスタンドにボールが飛び込む!「ホームラン」審判が叫ぶ!
この流れが、水島新司作品のゲーム化として完璧だ。地味な展開で溜めてからのマンガ的なホームランでスカッと終わる。
このメリハリが、水島漫画を読んでいる感覚に近いのだ。
1球ごとに時間がかかるので、クライマックスだけ操作するのも斬新。
ゲームが始まると、スコアボードがめくられていって、いきなり試合が8割がた終わり、アナウンサーが
「終盤でミスが重なり、ここで相手校のエースを迎えました!ピンチです!」
とか状況を説明してくれる。
試合の終盤のおいしいところだけをプレイするのだ。
漫画でも、大きな動きがないところは1球づつ描写しないでナレーション入れて跳ばすから、プレイそのものが「読んでる感じ」に近い。漫画のゲーム化として、キャプテン翼以来の傑作だ。
そしてキーとなる相手校のエースが登場すると、存在感のあるタッチの顔グラフィックとともに不穏なイントロ。「ライブ・ア・ライブ」の熱いボス戦BGMを手掛けた下村陽子による、強敵のテーマとでもいうべき曲が流れる。
原作ものの強みで、相手チームの持ち球になにやら魔球っぽい名前がついているだけで、
「本当はさぞ熱い勝負をしたんだろう」と想像できる。
普通に新規で野球ゲームを作ろうという企画からは、こんなゲームは生まれない。
この時代の原作付きゲームは、クオリティが低い、既存のゲームにそれっぽい一枚絵を足すだけで、子供だましの内容で発売されたものがたくさんある。
ただ、当時のカプコンに、そういう仕事が許せない人がいた。ゲーム愛か原作愛かその両方があって、「大甲子園」の魅力を再現しようとしたら、こんなゲームになった。
プレイした当時は理解してなかったけど、今思えば、スポーツや勝負事は、強いものが絶対に勝つんじゃなくて駆け引きを制した者が勝つんだ、奥の深い世界なんだ、ってことを感じて、このゲームに夢中になっていった。
「水島新司の~」をクリアして10年ぐらいして、ひねくれゲーマーだった僕はストⅡをスルーし、マイナーだった「ライブ・ア・ライブ」を購入。
おいこれ他のスクウェア作品よりグラフィックは簡素だけどいいぞ!やれ!とクラスメイトに勧めて嫌がられ、キャラクターデザインを手がけた島本和彦と運命的に出会い、さらにその10年後ぐらいにニコニコ動画でスーパーマリオRPGの音楽を知り、それら全てが下村陽子なる人物と関わりがあったことを知ったのだ。
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読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。