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【読書記録】泣きたくなるような青空

「泣きたくなるような青空」吉田修一

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ANAの機内誌「翼の王国」でのエッセイをまとめたもの。

夫はしばらくJALばかりで、ANA機内誌である「翼の王国」にはあまりご縁がなかった。
世間がこのような感じになる少し前ごろからANAに乗るようになったが、
めっきり飛行機に乗らなくなった。
私は機内誌が好きだ。
国内線の飛行機に頻繁に乗るようになったのは働き始めてから。
独り身で搭乗しているときは心ゆくまで堪能していた機内。
結婚して子どもが生まれてからは子どもの耳抜きをしたり、相手をしたり、お腹が空いたらお菓子を開けたり、「トイレ」と言われりゃついていき、飲み物の注文は私の役目で、飲み物を頼めばこぼさないように気持ちを張り詰め、CAさんが気を使ってくださるおもちゃを開けて組み立てるのも私の役目、息つく暇はあまりない。夫が「自分時間だ」と言わんばかりにiPadを広げる姿に何度蹴りを食らわしてやろうと思ったことか。眠りこけている時には腹が立つので、わざと何度も荷物を取るようにお願いする、腹黒い私。
そんな中、一息ついて、文庫を広げても、子ども(特に娘)は自分が相手にされていない、と思うが、機内誌だと写真などもあり、一緒に眺めることができる。
とにかく活字が好きな私は、活字を見つめられればそれでいい。
そこに好きな方の文章があればなおのこといい。
なかなかゆっくり眺めることはできなくても、こうして飛行機に乗って気軽に旅行へ行けなくなった昨今では、それすらも懐かしい。
早く、飛行機に乗ってどこかへ行ける日が来ればいいのになあ。

そんなことを思いながら読んだ、こちらのエッセイ。
長崎のこと、博多のこと、台湾、旅先のことだけでなく、日常のこと、感じたことなどなど。
中に外国のエアラインでのCAさんに英語で話しかけられて愕然としたお話に、吉田さんのおかしみのあふれるお人柄が出ていて、とても親近感が湧いた。
それに加え、夫との新婚旅行の思い出をふと思い出した。
吉田さんは、英会話を習いたいと思いながら30年…海外旅行から帰った時は今度こそと思いながら、習わずに時ばかり過ぎてしまった、とのこと。すごくよくわかる。私も学生時代は英語が好きで、受験勉強の英語はよくできる方だったが、如何せん英会話ができない。
しゃべれなければ意味がない。習いたいなあと思いながら時ばかり過ぎている。
受験英語は頑張ったので、旅行程度の単語の聞き取りはなんとかなる。
が、旅行先で話す際には頭の中でいちいち単語を組み立てたり、やれ文法がどうのと考えて、その時々の要望はなんとか伝えるものの、それって会話じゃない。
一方で、夫はおそらく勉強は好きではなかった。
だから聞き取りは苦手だと思う。
しかし、自分の要望を伝える姿勢というか気持ちがものすごい。
部屋のアップグレードは、きっとこれまで何回も交渉しているのだろう。チェックインの際に、空いている部屋があればアップグレードしてほしい、とか低層階がいいので、とかそういう交渉を必ずする。相手の話は大体聞いていない。
わからない単語が出てきたり、交渉が複雑になってきたら私が呼ばれたりもする。「気持ちや気持ち」と夫。
そうなんだろうなあ、といつも感心する。
さて、新婚旅行の話。
新婚旅行は、我々、長い休みをとって、ニューヨーク、マイアミ、ジャマイカを回った。
事件はジャマイカで起こった。
ジャマイカは海が真っ青で、こんな青色、世界に存在するの?と思うほど。街中には私のチキンハートでは出歩く勇気がなかったが、ホテル内は綺麗でゆったりと時間が流れ、スパを受けたり、プールサイドでのんびり過ごしたり…と満喫していた。食事も大変美味しく、夫もお昼からお酒をゆったりと楽しんでいた。
それは最終日。
ホテル内のレストランで、食事をしていた時。
夫が何品か注文した中にロブスターの料理があった。
夫はシーフードが大好きだ。エビ、カニ、ロブスター。海辺の街でロブスターを見つけたら注文しないわけがない。
その大好きなロブスターがなかなか来なかった。
数回、確認したのだが、待てど暮らせど、ロブスターはやってこず、そのほかの料理も食べ終わってしまいそうな頃、もう一度確認すると「あ、持ってきます」というような対応だった。
そこで、夫の堪忍袋の緒が切れてしまった。
「責任者を呼んでこい」的な会話の流れから、やってきた責任者ぽい人を相手に延々と自分の気持ちを伝える夫。
そう、決して流暢な英語ではない。むしろ八割は日本語。
それを神妙に聞く責任者。
黙ってオロオロ見つめる小娘(私)。
普段から声量の大きな夫の声はよく響く。
例え日本語でも相手に怒っている雰囲気は伝わるだろう…
と、思っていた最後に夫が一際大きな声で憤慨するように、言った。

I’m angry!!!!!

いや、知ってますけど。

夫と付き合ってまだ数年だったこの頃はまだわからなかった。
どうして私はすぐにこの人を怒らせてしまうんだろう。
私の何がイラつかせてしまうんだろう。
でも、今ならわかる。
夫はエネルギーが有り余っている。
血の気が多い。
私はできるだけ省エネで生きていたいのだが、
夫は感情表現が豊かなのだ、と解釈している(よく言えば)
新婚時にはわからなかった。ただ彼のエネルギーが恐ろしい時が多々あった。
今となっては
I'm angry!!!!と叫んだことすら笑い話なのだが、
当初は、二人とも真剣だった。彼は怒ることに。私は彼のエネルギーを理解することに。
責任者のような人も最後まで神妙に受け答えしてくれて本当によかったと思う。
今の私なら横でプッと吹き出してしまいそうだ。

翌日、朝食の席にも責任者のその人が来て、
謝罪の言葉のようなものを述べてくれた。(あまり覚えていないが)
それに対し、夫はハグする勢いで握手を求めていた。
エネルギーが、有り余っているな、と思う。

本の感想とは全く関係のない、私の思い出を入れ込んでしまいました。長々とお読みいただき、ありがとうございます。


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