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【読書記録】ミトンとふびん


みとんさんのこの記事を読んでから、
ずーっと読みたいと思っていたもの。
読書には出会いとタイミングがあると思う。
その時に読んでいた本があって、
あとで読もうと思って忘れてしまうものもあったり、
不意に出会って先に読んだり、
一度読んでなんか違うなぁと思って、本棚に閉まっていたのに、
ふと手に取り、読んでみたらこれが一気読み…
なんてこともある。
こちらの本も、みとんさんの記事から一年、頭の片隅にずーっとあって、
でも他の本を読みながらやっと私に出会いがやってきた。

これは、
喪失と旅と癒しの物語だ。
短編小説が6つ収まっている。
吉本ばななさんは学生の頃大好きで、
「なんだか癒されるな〜」なんて癒しなんてお前に必要ないだろというのに
勝手に、癒されていた。
文章や、文体や、言葉えらび、句読点の打ち方まで好きだ。

そうした彼女のこの作品集の中で、
主人公たちは何かしら喪失している。
そして、どこかへ旅をしている。
旅行先で恋人と別れることになって、そのまま一人旅になっていたり、
母親を看取った後に、台北に行っていたり、互いに親を亡くした後に
夫婦でヘルシンキを訪れていたり、親友を亡くして、親友が住んでいたイタリアを訪れたりしている。
そして、旅先で何かに癒されている。

劇的な展開があるわけではない。
静かに、淡々と日常を過ごす延長線上に旅行があり、本人たちにとってはちょっとした非日常だ。
中でも私が好きなのは「珊瑚のリング」という、6つの中でも一番短く、メルカリに寄せられたという、最も展開がなくて、旅にも行っていない物語だ。
母親の遺品をゆっくりと二年かけて整理していく話。

私は一年前に、父を亡くし、突然逝ってしまった父に家族は皆茫然自失として、
なんとか早く立ち直りたくて、
父の遺品は一刻を争うかのようにあっというまに片付けた。
片付けても片付けても父のいた痕跡と、父のいないという空白が埋められなくて、
困っていた。

父を亡くして、
亡くす前になんとなくぼんやりといつか来ると思っていた
「親がいなくなる」ということが私の前に急にリアルに立ちはだかった。
「いつか」と思っていたことを、
実体験してしまったのだ。
そうすると、考えたくないのに、
母のことまで、考えてしまう。
考えたくもないし、口にも出したくない。
でも、考えてしまう。
どうするか考えておかないと、という現実的な自分もいる。
そうなってからじゃ遅いことだってあるんじゃないか、とか。
でも、そんなことを口に出してなんだか母と気まずくなったりもする。


今、この「珊瑚のリング」を読んで、
母の家の「要らないなー」と思っているものも、まあいいやんと
改めて思った。
そんなものもあんなものもぜーんぶまるっと含めて「お母さん」なのだと、
万が一のいつかが来たときに、どんなに煩わしくとも
そうしたものに囲まれたい、と一種、願望のように思ってしまった。
「この博多人形まじで要らんやん」と内心思っているが、
父の痕跡を見るのが辛かった時とは違う、と信じたい。
そこで生活している母が生活していく上で父の痕跡が残っているのが辛かったように、長兄がどう思うかはまた別の話ではあるが。
長兄が許してくれるならば、この物語のように
なれたらいいのに、とひっそりと思った。

ここでは、3つ、母を亡くした人の物語が出てくる。

私は私を信頼できない人に渡してはいけない、母にこんなにだいじにされているのだから、だいじにしてくれない人に触らせてはいけない。

「SINSIN   AND THE MOUSE」より

私は、母を亡くしていない。
だから、本当はそこまでこの本に共感はできなかった。
でも、この、母に大切にされている気持ちはよくわかる。
年をとって、いつの間にか逆転したように、父が亡くなった後の整理を私に任せる母だが、心配されることも、愛されていることも、だいじにされていることもよく分かる。

夫に関する愚痴を母によく言うが、本当の本当に腹が立った時は言えないでいる。
大体笑い話のような愚痴しか言っていない(と思う)。
それは、私よりも怒ってしまうことがわかるから。
「ミトンとふびん」みたいに見抜くことはないけれど、
もし、私の中に悲しみの何かを見つけたら、
それを「怒る」方に振り切ってしまったら、
そんな感情を今更母に抱かせたくないから。

私と夫の結婚は、私の記憶では、母は反対していなかったように思うのだが、
夫は「反対された」と言っている。
何か感じることがあったのかも知れない。
とはいえ、今は夫も母も良好な関係ではある。
でも、夫もどこかで感じているに違いない。
今、母が夫に優しいのは私の夫であるからであり、
万が一、私が夫と別れることを決めたならば、
母は手のひらをサラッと返して、夫に冷たくなれるであろうことを。
母親ってそういうものだと思う。
決して公平な生き物じゃない。
常に、自分の子どもが「一番」で、
それを受けて子どもは自分を「大切な存在」と感じて生きていくのだ。



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