ケーキ屋のテーブルにて
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ケーキが食べたい…ケーキ…
トラムに乗っていてふと思った。今日はケーキを食べよう。前から気になっていたケーキ屋に行こうと思ったら、トラムで通り過ぎてしまう。ちょうどスーパーが見えたので駆け込む。ケーキ、ケーキ。今日はケーキを食べるんだ。ケーキ、ケーキ。
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スーパーのデザートコーナーには、ぶりぶりのクリームがのったケーキが売っていた。手にとり、買いそうになる。しかし私の中のケーキモンスターが、「もっと美味しいケーキをくれ」と叫んでいる。こんなトランス脂肪だらけ(あくまでも想像)のケーキを食べても後悔することは見えていた。
今日は美味しいケーキを食べるんだ!
そう思いスーパーを後にする。ご近所さんが紹介してくれたケーキ屋の存在を思い出す。記憶を辿りながら、街を歩く。ケーキッ、ケーキッ。ケーキ。頭の中はケーキでいっぱい。ケーキのことを考えるのは、結構幸せだった。私はただ単に甘いものが食べたいのではなくて、美味しいケーキが食べたいんだ。
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無事にケーキ屋に到着。ガラス張りの大きな店舗。外からはカラフルなライトとお客さんの様子が見える。このケーキ屋は昔から、この近所にあるらしい。沢山のケーキが並んでいて、どれも難しい名前。列に並びながら発音してみたが、発音は難しいし覚えられない。チェコ語を勉強し始めてから、英語を話すのがなぜか恥ずかしい。仕方がないので、食べたいケーキの名前を写真に収める。
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列に並びながら若干ドキドキ。スマートに、そして可愛らしく頼みたいから。店員さんは、金髪でショートカットのおばさん。優しかった。ケーキの写真を見せたら、わざわざ写真撮ってくれてありがとうって感じの表情をしてくれた。チェコでは珍しい。なんとなくウクライナの人かなと思った。
「一個?」
「ハイ」
「ここで?here?タディ?」
「うん」
「コーヒーは?ラテ、カプチーノ、お茶」
「カプチーノ、イッコお願いします」
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全部チェコ語で注文出来てにやにや。イチゴゼリーがのったケーキを頼んだ。意外と美味しかった。大きいかと思ったらペロリと食べ終わってしまう。目の前のおばちゃん二人は、それぞれパフェを食べた後に、もう一個ケーキをおかわりしている。どうやらこのお店ではパフェが人気らしい。
目があまり見えなさそうな女の子と、ほっぺたが赤いおばあちゃんが一緒に
ケーキを食べている
みんなが何をどんな組み合わせで頼むのかみているだけで面白い。ミルクシェイクとケーキを食べる人が意外と多い。
シュークリームとエスプレッソをオーダーしたふたりぐみ。全く同じ組み合わせがテーブルにのっている。食べる前にエスプレッソを倒す女性。慌てて、コートを持ちトイレに駆け込む。その間に、連れのおじいさんは自分のエスプレッソを、女性のエスプレッソと交換してあげていた。トイレから戻ってきた女性は「いいのに」と言いながら「ありがとう」と言っておじさんのエスプレッソとシュークリームを食べていた。
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多分3時間くらいケーキ屋にいたと思う。ぼーっと人を見て、明日からいくエジプトのことを考えたりしていた。静かだけど、賑やかな雰囲気のテーブルに目がつく。おじいちゃんと、おばあちゃん、孫が二人。そしてお母さんとお父さんが座っている。みんな手話で話しているようだった。私の大好きなオープンサンド、フラビーチュケ(こう自分では発音している)を食べていた。音の出ないテーブルから、楽しそうな雰囲気が雲のようにふわふわと浮かんでいた。
それぞれのテーブルごとに広がる空気感、世界にぼけーっと見とれていた。ケーキを食べにきている人たちは、どこか幸せ。同じ空間にいても、見えている世界が全然違う。いや、見方は違うかもしれないが、結局は同じ世界が見えていることもあるかもしれないのかな。その日は、あと一歩で崩壊しそうだったのでケーキ屋に来ていい気分になれただけで、大万歳で大満足。
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